第33話

ーー33ーーーーーーーーーーーーーーーー


「これで 終わりだーーッ」


 弱ったヒーラーに、これでもかと攻撃を加えるハトシ。


「ギャハ」


 ハトシの、すさまじいラッシュを受けて谷底へと真っ逆さまに落ちていくヒーラー。


『おーっと

川の中には アリゲーターガーの人喰い種が生息していますが大丈夫でしょうかー』


 審判兼司会者の男が、そう叫びながら谷を見下ろす。


「えっ

そんなの住んでいるの ??」


 ビックリして、目が点になるボク。

 ミテオナーの顔を見ると、


「うん

そうなの」


 落ちていくヒーラーを見ながらそうつぶやくミテオナー。

 ヤバいじゃん。


「あっあぁあぁあーーーっ」


 ギリギリで、崖の左右にツルを伸ばし片足が水面にふれるところでなんとか止まったヒーラーだったが、


「シャー」


 アリゲーターガーが、飛び上がりツルに噛みつく。


「イヤァアアア」


 左右のツルを、結わい付け切れる寸前で新たにツルを出してなんとか落水を免れるヒーラー。


「助けてーーっ」


 もう、ツルを登るだけの体力は残っていないヒーラー。


『ヒーラー戦闘不能

勝者ハトシ !!』


ワーーー


 観客から、大歓声がとぶ。


『さあ ハトシさん

ヒーラーから何を奪いますか ??』


 審判兼司会者の男が、そう言うが、


「それは後日」


 お約束。


『はい

勝者ハトシに盛大な拍手をー』


 そう、審判兼司会者の男が煽るが、


ワー


 まばらに、拍手が起きる。


「これで露見せずに済むな」


 ニヤリと、ほくそ笑むハトシ。

 参加者を、事前に抹殺して減らすことには失敗したが、普通に勝負して勝つことが出来た。


「わーどうしょ

ボクの番だ~~~」


 不戦勝だったのになと、思ってしまうボク。


「ちょっと

情けない声を出さないでよ」


 半笑いのミテオナー。


「だって~」


 華美と、戦うのも気がひける。


「相手は 手負いのウサギよ

ドーンとバトルしなさいって !!」


 そう言って、ボクの背中を叩くミテオナー。


「うん

ちゃんと 助けてよ」


 せっかく、これからって時に死にたくはないよ。


「もちろん

ライデンを出さなければ援護射撃出来るからね」


 そっちもだけど、落下の対策もあるんだよね?


「わかったよ」


 もう、信じるしかない。


『さぁ 次の試合は

精霊使いウサギと転生者の試合だーッ !!』


 審判兼司会者の男が、そう言うと、


ワーーーー


 割れんばかりの、歓声が起きる。


「ハァハァ

負けないわよ」


 なんだか、しんどそうな華美。

 本来なら、入院が必要なぐらいの状態だ。


「本調子じゃあないみたいですけど大丈夫ですか ??」


 思わず、対戦相手の心配をしてしまうボク。


「ケンイチロウ

あなたくらい このぐらいで丁度イイぐらいよ」


 ウインクする華美。

 ずいぶんと、なめられたな。


「言ってくれますね

ボクは ダンジョンで鍛えられましたから」


 あの、洞窟内の死体の山からテンションがおかしくなっている。


「へぇ

十分楽しめそうねぇ~」


 ニコッと、笑って余裕を見せる華美。


「はい

負けませんよ」


 ちょっとは、戦いに自信の出たボク。


「フフフ

せいぜい頑張ってね」


 あくまでも、余裕たっぷりな華美。


『それでは試合を始めます

精霊使いウサギと転生者2名舞台上へ !!』


 審判兼司会者の男が、ボク達に吊り橋をわたるように促す。


「さぁ

行きましょ」


 先に、橋をわたる華美がワザと揺さぶる。


「ちょっとーぉ

揺らさないでよ」


 手すりを、つかんで動けないボク。

 すごい、めまいする。


「ふーぅ」


 やっと、わたって四つん這いで深呼吸するボク。

 ゆっくりと、立ち上がるがなんだか地面が揺れているようだ。


「アハッ」


 ピョンピョンと、跳ねる華美。


『さあ それぞれ構えて

レディーゴーッ』


 審判兼司会者の男が、合図をおくる。


バーーン


「さあ

ライデンを出しなさい」


 いきなり、放電竜を出すように要求する華美。


「えーっ

そんなに最初から出せないよー」


 なにかしらの、意図があるかも知れないのでうかつに挑発に乗らないボク。


「出し惜しみしてると 死んじゃうわよ」


 とんでもないことを、クチにする華美。


「えっ

コワいな」


 この、絶妙なやりとりに顔がニヤけてしまっているがそこを見逃さない華美。


「やらないならイクわよ」


 一瞬、真剣な顔をして、


タッタッタッ


 小走りで、間合いをつめて来る華美。


「ィヤーッ」


ドスン


「ガッッ」


 ボクの、お腹にローリングソバットがきまり弾き飛ばされ2回転ほどコロコロと回ってリングアウト寸前で止まる。


「どう ??」


 笑顔だが、目から殺気が漂う華美。


「ゲホッゲホッ」


 呼吸が、出来ない。

 冷や汗が、出るボク。


「ケンイチロウくん

タイプだからあまりこんなことしたくはないんだけどさぁー」


 手首を、回して首をコキコキと曲げる華美。

 さっきまでと、雰囲気が違う。


「ハッハッ」


 やっと、少しだけ呼吸が出来るボク。

 あのままだと、死んだかも知れない。


「聞いてる? まぁそれどころじゃあないかぁ」


 徐々に、ボクに歩み寄って来る華美。


「………ク」


 無理やり、立ち上がるボク。


「おや

ギブアップしてもイイのよ」


 立ち上がった、ボクを見て立ち止まる華美。


「ゥゥ」


 蹴られた腹を見る。

 血は、出ていないようだ。


「だって 本気で蹴っていたら

ケンイチロウくんの体が真っ二つになっちゃうから手加減してあげたのよ」


 テンションの、高い華美。


「………

もう」


 言葉を、ふりしぼるボク。


「えーっ? なにか言ったかな ??」


 ウサ耳に、右手をそえる華美。


「もう しゃべんな」


 ボソッと言う。


「え」


 笑顔の、凍り付く華美。


「サンダーッ」


 華美に向けて、唱えるボク。


ピッ

ズドーーン


「ぎゃあ」


 一瞬の、閃光の後に感電して服がボロボロになる華美。


「ハァッハァッ」


 多少、息切れするボク。


「はひひはの? はひが───」


 ろれつの、回らない華美。

 立っているのが、やっとで生まれたての仔鹿のようだね。


「もう しゃべんな

ファイヤ」


 ボクの、伸ばした右手の先に大きな火球が出現する。


ドガーン


 ファイヤーボールが、華美の足元で炸裂して吹き飛ばされる。


「キャーーーー」


 真っ逆さまに、谷底へと落ちていく華美。


「ケンイチロウ

やったわね」


 ミテオナーが、賛辞をくれるが、


「いでよ

レッドドラゴンベクトラ !!」


 ボクが、そう叫ぶとにわかに空がかき曇り赤きドラゴンが、雲を割って出現する。


「華美を 助けて !!」


 そう、ボクが言うと素早く谷の中に飛翔してその背に華美を落水ギリギリで乗せて地面にポトりと落とすレッドドラゴン。


「ハァハァ

ここって天国 ??」


 華美が、目を回してそんなことをクチにする。


「アハハ

ようこそ地獄へ」


 ミテオナーが、笑いながらそう言うと、


「ちげーねぇーわ」


 そう、パーティーメンバーが笑う。


「ちっ

ケンイチロウが ファィヤーレッドドラゴンを持ってやがったか

どおりで探してもねぇわけだ」


 遠くから、ケンイチロウを見るジョーカー。

 覇王の、顔を得たがいまだに包帯で顔を隠している。


『華美は場外へ落下

勝負あり 勝者転生者ケンイチロウ !!』


 審判兼司会者の男が、そう言うと、


ワーーーーー


 ものすごい、歓声に包まれる。


「いつの間に ファイヤーレッドドラゴンのジュレルなんか持ってたの ??」


 驚きの、声をあげるミテオナー。


「う………うん

それが───」


 そう、言いかけるボクに、


「あれって 覇王が持ってるってウワサだったけど ケンイチロウが持っていたんだね」


 アルパカが、首をかしげる。

 覇王の、持ち物はすべてジョーカーが持っていると聞いていたがジュレルだけは奪えていなかったのかと疑問点が残る。


「そうだよな

ジョーカーは なぜレッドドラゴンのジュレルを奪えなかったんだ ??」


 グレゴリウスも、この謎に興味があるようだ。


「なにか 裏がありそうね」


 腕組みして、考えるミテオナー。


「はわわ」


 いきなり、変な声を出すベリルモート。


「どうしたの ベリルモート ??」


 異変に、気付いて聞くミテオナー。


「えーっとえーっと

あたしい 知らないよー」

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