第3章
第31話
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「なんだぁここは………」
荒涼とした大地に、1本の溝を掘ったような深い谷がありそこが小国と魔王の統べる国との境目を示している。
「あれ 見えるでしょ?」
ミテオナーが、指差しているところに吊り橋のようなものが見える。
「あれって」
よく見ると、吊り橋なのは手前だけで中央付近には空中に浮いたステージがあって四隅にロープで下に落ちないように結んである。
「ミテオナーさん
まさかとは 思いますが」
すごく、イヤな予感がするよ。
「うん
あれが次のリングよ」
どうやら、あの粗末な板張りの上で戦うみたい。
あそこに、乗るだけでイヤなのだけれど。
「あれって場外に落ちたら」
谷底は、川が流れているが身が縮むほどの高さだ。
見なきゃよかったよ。
「まぁ 助かる高さじゃあないわよね」
ニヤリと笑いながら、目を閉じて首を横に振るミテオナー。
「ヒッ」
ボクは、全身から血の気が引く感覚になる。
「要は 落ちなきゃイイのよ」
あっけらかんと、そう言うミテオナー。
ケタケタと、笑っている。
「落ちなきゃって
困ったなぁ」
華美と、戦って負けるのが1番よかったのにと悔やまれる。
「えっ
もしかして 場外に落ちてギブアップを狙っていたりした ??」
鋭く、つっこむミテオナー。
「いっ
そんなことあるわけないじゃないですか」
両手を、振るボク。
冷や汗が出るよ。
「だよねー」
腰に、手を置いて口角を上げるミテオナー。
「もちろん 狙うは優勝ですよー」
空元気を、出すボク。
「おう 威勢がイイな」
後ろから、男が声をかけてくる。
「あっ テイマーのハトシさん」
肩に、タカを乗せたハトシが話しかけて来る。
「おっ
名前を 覚えていたとは感心だなボーズ」
なんだか、目が笑ってないからコワいな。
「はい」
あまり、相手したくないので切り上げようとするが、
「勝ち上がったら 次の対戦だな」
グイグイ来る。
「はい そうですね」
なんだろ。
ボクと、話がしたいのか。
「オレッチは 勝ち上がるけど お前はどうなんだ ??」
なるほど。
挑発をする為に、話しかけて来たんだね。
「ボクの対戦相手の華美さんは試合に出れないので 不戦勝ですよ」
なんだか、ちょっぴり優越感に浸るボク。
「あれ? 華美は オレッチの対戦相手のヒーラーに状態異常を解いてもらって試合に出るみたいだぜ」
ハトシが、指差す方を見ると華美とヒーラーが談笑している。
こちらの、視線に気付いて華美がこっちに来る。
「えっ」
全く、寝耳に水だね。
「ゴメンねー
仲間が どうしても試合に出るように言ってて」
仲間って、ボクも仲間だったでしょ ??
「はぁ」
めっちゃ、ため息が出る。
複雑な、感情だね。
「出るからには 本気でぶつかって来てね
ケンイチロウくん」
拳を、軽くボクの胸に当てる華美。
「わー
はい わかったよ」
乳首を、コリコリされて変な声が出ちゃった。
「ねぇ
ケンイチロウ」
背後から、声がして振り返るボク。
「ベリルモートちゃん どうしたの ??」
洞窟で、救った子だ。
神妙な、顔をしている。
「ジョーカーってどこにいるかなぁ ??」
なぜか、ジョーカーについて聞いて来るベリルモート。
「あっもしかして
ジョーカーがロングキャニオン村を襲撃して放火した件かな ??」
この子も、村の住人だったのかな ??
「あっ あれはパパが………
ううんなんでもない」
なにかを、言いかけて話すのをやめるベリルモート。
どうしたの。
「えっ
ベリルモートちゃんのパパって ??」
すごく、気になる。
「だから なんでもないって !!」
そう言って、どこかに行ってしまった。
「そうなんだ」
なにか、知っているみたいだけど深く聞くのをやめよう。
「ごめんなさいね」
また、話しかけて来る。
なんだか、忙しいな。
声の主はヒーラー。
「えっ
あなたはヒ───」
そう言いかけたボクに、かぶせるように、
「不戦勝なんかにはさせないわ」
つめ寄って来る、ヒーラー。
ボクからの、提案じゃあないんだけどね。
「あっ そういうことで華美さんを治療したのですか ??」
裏事情って、ことかな。
「うん それもあるし 勝ち上がる為には多少恩を売っておくのも悪くないじゃない?」
なんだか、白衣の天使かと思っていたんだけどなぁ。
「腹黒いヒーラーなんですね」
急に、コワくなってきたボク。
「まぁ なんとでも言いなさいな
こちとら毎晩ファイターの肩を揉んだりして握力だけは強いわよ」
クルミを、割って見せるヒーラーの女。
細身なのに、スゴい。
「へぇ 大変ですね」
感心しちゃうなぁ。
「まぁね
もし万が一にも私に勝ったら全身揉みほぐしてヤってあげるわ」
なめるように、クルミを食べるヒーラーの女。
「それは うれしいんですけど
ハトシさんに勝つ公算でもあるのですか ??」
出来れば、ハトシとは対戦したくない。
「あいつの行動を見てたらちょっと問題があってね」
ハトシの、何か知っているみたい。
「問題ですか ??」
一応、興味あるフリしてみる。
「そうなのよ」
含み笑いする、ヒーラー。
「もしかして ゆする気なんですか ??」
なんでもアリだね。
「ちょっと 人聞きが悪いわ」
苦笑いする、ヒーラー。
「そこまでして勝ちたいんですか ??」
ボクは、安全に終わりたい。
「少年には わからないでしょうね」
ちょっと、カチンとする言い方だね。
「そんなもんですかね」
なんか、癒されるどころかイラッとしてしまうボク。
「そりゃあそうよ」
見下すような、視線を向けて来る。
『これより試合を始めます
ヒーラーとテイマーの2名舞台上へ !!』
総合司会者の男が、メガホンで叫ぶ。
「よっしゃ 行ってくるか」
ハトシが、意気揚々と吊り橋を渡る。
「さーてたっぷり揉んであげる」
その後を、ゆっくりと歩くヒーラーの女。
『さあ それぞれ構えて
レディーゴーッ』
バーーン
なにか花火のような、炸裂音がして試合がはじまる。
「さーて まずは───」
肩の、タカを手に乗せるハトシ。
「待って
私 見ちゃったの」
おしゃべりを、はじめるヒーラー。
「えっ 見た? なにを ??」
首を、かしげるハトシ。
「ロングキャニオン村に来る唯一の道の崖で なんかしてたよね」
どうやら、ハトシの犯行を目撃していたようだ。
「なっ
なんのことだよ」
とぼける、ハトシ。
明らかに、動揺している。
「やっぱり 隠したいよね」
ニヤリと、笑うヒーラー。
「知らない なにもやってないぞ」
意固地に、なるハトシ。
「負けてくれたら 黙っておいてあげる」
そう言うと、植物のツルをシュルシュルと出すヒーラー。
「2人で なに話してんだ? わかるか華美 ??」
グレゴリウスは、二人の会話が気になって耳の良い華美に聞く。
「うん かすかに聞こえて来るよ」
距離もあり、谷間を吹く風が甲高く鳴っているので聞きにくい。
「で
どんな内容を話している ??」
バトルそっちのけで、話すのだから出来れば聞きたいが、
「ハッキリはわからないけど崖がどうとか言ってるわ」
華美でも、難しい。
「なんだそりゃあ」
ガッカリする、グレゴリウス。
「あっ
でも話し合いは終わったっぽい」
お互いに、距離をとるハトシとヒーラー。
「お前が谷に落ちて死ねば誰も知ることはないだろ」
吐き捨てるように、言うハトシ。
「口封じしようっての? 面白いわね」
その頃
「あなた 洞窟内に居たんだって? ケンイチロウに聞いたよ」
ミテオナーが、ベリルモートに話しかける。
「はい もう少しでモンスターに食べられるところでしたー
救っていただいてありがとうございます」
スカートを、つまんで会釈するベリルモート。
「それは 大変だったよね」
ゾワッとするミテオナー。
「はい 双子のお姉さん」
ニコッと、満面の笑みを見せるベリルモート。
その発言に、違和感を感じはじめるミテオナー。
「双子の………」
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