第26話

ーー26ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん………

朝かぁ」


 結局、そのまま納屋で朝を迎える。


「ちょっと 早く起きちゃったなぁ」


 横を見ると、アルパカと2人の子らはスヤスヤと眠っている。


「んーーーッ

スーーッ」


数時間後


「勇者様

これより先の森をぬけるのは 十分気をつけて行きなされよ」


 村長が、しっかり注意して進むように助言してくれている。

 見た目に反して、すごく気をつかってくれる人だなぁ。


「そんなに 恐ろしい森なんですか ??」


 村長が、これだけ念押しするってことはそうとうヤバいのかも知れない。


「あぁ 恐ろしいところだ」


 右手で、顔を覆って頭を振る村人たち。


「でっかい モンスターが出るとか ??」


 前日も、巨大な鳥のモンスターに襲われたけど撃退したから問題ないと思うんだけれど。


「いや モンスター自体を見たという情報は入っておらぬ」


 腕組みして、答える村長。


「じゃあ一体なにがあるんです ??」


 温泉もあるし、いきなり硫黄ガスが噴出してパーティーが全滅とかやめてよ。


「迷いの森

つまり 導かれるように 森の奥まで入ってしまうということじゃ」


 森の奥って、帰って来れないってことかな ??


「えっ

それは 恐ろしいですけど みんなわかっていて迷うのですか ??」


 そんな、わかっててトラップにかかるなんてことが頻発するのだろうか。


「そうなんじゃ

たまたま 生きたまま帰って来た者によるとキツネにでも化かされたようだって言っておったわ」


 キツネにつままれたようなのは、ボクの方だよ。


「そうですか

まぁ 気をつけて行って来ます」


 別に、1人で行くわけでもないし大丈夫でしょ。

 逆に、迷ったフリして逃げてやろうかな。

 でも、それじゃあ村人に処刑されそうだけど………


「おお

必ず 我らの受けた痛みをジョーカーにぶつけて下されよ」


 やっぱり、ずいぶんと頼られているなぁ。


「ハハ

そうですね」


 力無く、答えるボク。


「期待して待っておるぞ」


 ボクの、両肩を掴んで揺さぶる村長。


「はい………」


 逃げ出すつもりが、完全に外堀を埋められてしまっている。


「お兄ちゃん かたきとってね」


 昨夜、一緒に眠った子がボクの右手を掴んで胸まで持ち上げギュッと抱きしめる。


「とってねっ」


 ちっちゃい子も、応援してくれる。


「うん きっと仇をとるからね」


 左手で、頭をなでてやる。


「お兄ちゃん大スキ」


「大スキ」


 満面の笑みを、見せる2人。


「うん ありがとう

行ってくるね」


 ニコッと、笑って颯爽と立ち去る。


「行ってらっしゃいお兄ちゃん」


 両手を、振って見送る子たち。


「バイバーイ」


 ちっちゃい子も、一生懸命手を振る。


「バイバイ」


 よーし、なんだかやる気が出て来たぞ。


「なにが 出て来ようが

ライデンで 蹴散らしてやる」


 少し、大きめな独り言を言っていると目ざとくそれを見つけたミテオナーが、


「だからさ

どうにもならない時 以外は出さないでよ」


 と、さっそくクギを刺してくる。


「はい そうでした」


 そんなことを、話しながら森を歩いていると、


「多少 ガスって来たわね」


 少々、霧が出て来てかすみはじめる。


「うわー

スゴい霧だ」


 先の方を歩くグレゴリウスが、そうつぶやくが、その姿が次第に見えなくなってくる。


「みんな

声を かけ合って はぐれないようにね」


 後方を歩く、アルパカがそう言うがすでに目以外の姿が見えなくなっている。


「はーい

えっ どっちなんですか ??」


 一瞬、後ろを振り返ってしまった為に前を歩くミテオナーを見失ってしまった。


「こっちよ

ちゃんと付いて来てね」


 声を、たよりにミテオナーに近寄るボク。


「はい」


 その時、ミテオナーがボクの手を握って引っ張ってくれる。


「こっちよー~」


 やわらかい手に引かれ、歩を進める。


「はー~

いぃー~」


 やっと、霧が晴れるとボクとミテオナー以外は、どこかに行ってしまったようだ。


「あれ

みんなと はぐれちゃったね」


 周囲を、見回すとさっきまで木々が生い茂っていた森から林といった木がまばらなところに立っているボク。


「そうみたいね~」


 ニヤリと、笑顔を見せるミテオナー。


「もう先の方へ行っちゃったのかな ??」


 置いてきぼりに、されてしまったのだろうか。

 それなら、急いで追い付かないとね。


「あたちたちの 歩いているルートが正しいから そのうち合流できるでしょ~」


 危機感が、まるで感じられないミテオナー。


「うーん

下手に動かない方が良くないですか ??」


 他の、パーティーメンバーもきっと探してくれているハズだから待つというのも選択肢としてあると思うんだけれど。


「いや 先を急ぎましょ~」


 獣道を、指差して進もうとするミテオナー。


「え………

まぁ ミテオナーさんがそう言うなら」


 ちょっと、胸騒ぎがするのだがここでミテオナーさんとはぐれると詰むので付いて行くことにする。


「こっちよ~」


 ゆっくりと、手招きするミテオナー。


「んん? なんだろ

まっ イイか」


 なんだか、薄暗い森へと入って行くミテオナーとボク。


「こっちこっち~」


 小走りの、ミテオナーを横から出た小枝で痛い思いをしながら付いて行くボク。


「イテテ

待ってくださいよー」


その頃


「ケンイチロウー

どこに行ったのーッ」


 ミテオナーが、森の中でキョロキョロしている。


ガサガサ


 茂みが、微妙に揺れる。


「誰! 誰かいるの ??」


 構えて、目を凝らすミテオナー。


「ミテオナーか」


 一人の、騎士が木々を掻き分けて出て来る。


「あなた

騎士団長の アーサー

なんで こんなところに」


 ミテオナーは、男に見覚えがある。


「ケンイチロウくんだっけ

だいぶ 彼に対して期待しているようだね」


 単刀直入に、話をはじめるアーサー。


「あなたには 関係ないでしょ !!」


 彼女にしては、珍しく大声を張り上げるミテオナー。


「そうかい

なら 魔王討伐のパーティーメンバーには入れてくれないのですか ??」


 ニヤケ顔で、イヤミを言うアーサー。


「誰が あんたなんか入れるのよ !!」


 そうとう、頭に血がのぼっているミテオナー。


「おお そうですか

さすが 忌み嫌われた双子だな」


 なにやら、意味深なことをクチにするアーサー。

 どうやら、ミテオナーとミネルアー姉妹のことをよく知っているようだ。


「お前

誰に向かって言っておるのか わかっているのか 無礼者 !!」


 我慢の、限界が来たミテオナー。

 つい、以前の口調が出てしまっている。


「おーコワ

せいぜい 少年と仲良くお遊戯でもしていて下さいませ」


 挑発を、やめない騎士団長アーサー。


「この場でなければ その減らず口を 首ご

と叩き落としてくれたものを」


 目が、血走り普段からかけ離れた様相になっている。


「はいはい

2人で 1人前ですもんね双子は」


 肩を、すくめるアーサー。


「なにぃ

お前ごとき ワタシ1人で十分だ」


 臨戦態勢をとるミテオナー。


「おっと

そんなことをしている場合かな ??」


その頃


「こっちこっち~」


 複雑に、入りくんだ山道を歩き続けて疲れて来たのにミテオナーさんは汗ひとつかかずに笑顔を保っている。


「なんだか ミテオナーさん おかしくないですか ??」


 こんなに、ずっと笑顔の人だったっけ。


「なあんにも おかしくないわよ~」


 妙な、ステップを踏んで舞っている。

 絶対おかしい。

 あるいは、笑い茸でも食べてしまったのだろうか。


「妹さん

お元気ですか ??」


 ちょっと、引っかけ問題を出してみる。


「妹は 元気にしてるはずよ~

最近 ふるさとに帰ってないからわからない

けど」


 なんだ、この違和感は。


「へぇー そうなんですか」


 でも、どう見てもミテオナーさんだけどなぁ。

 でも、変に刺激するのはマズいんではないかな。


「おかしいなー」


 立ち止まり、周りを見る。


「なにが おかしいのかなぁ~」


 笑顔が、ひきつっているミテオナー。


「ホラ

みんなに合流出来ないじゃないですか」


 引き返そうとする、ボクの手を握るミテオナー。


「どこ行くのかしら~」

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