第22話

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「わっ ありがとうございます」


 ジュレルを、返してもらったけど妙に生温かいよ。

 でも、イイ香りがする。

 なんだか、ほっこりするよ。


「ねぇ ケンイチロウ」


 なにか、言いたげな ケイコ。

 わざわざ、ボクの泊まる部屋まで持って来てくれたんだけど。

 もしかして、一緒の部屋に泊まりたいのかな ??


「うん どうしたの ケイコ ??」


 ジュレルを、嗅ぎながら答えると、


「そんなに ニオイを 嗅がないでね」


 頬を、赤くして言うケイコ。


「えっ

イイにおいだよ」


 ケイコに、かまわず嗅ぎ続けていると、


「………なによ」


 今度は、ほっぺたをふくらましてムッとするケイコ。


「えっ どうしたの ?」


 なんだろう。

 急に、機嫌が悪くなっちゃったぞ。


「ポケットに しまって」


 強めに言うケイコ。


「えっ なんでだよ」


 なんだか、このやりとりがツボにはまったボクだけど、


「イイから すぐポケットにしまってよ」


 苦笑いしながら、ボクの手をつかんで無理やりポケットに手ごと突っ込むケイコ。


「………うん 仕方ないなぁ~」


 ニヤケてしまいそうなのを押さえるので必死になってしまう。


「はい オッケー」


 ボクの手を、引き抜いてジュレルが握られてないのを確認すると、ポケットをポンポンと軽く叩くケイコ。


「チェッ

なんなんだよ」


 変に、刺激するからムズムズしてしまうよ。


「それじゃあ おやすみなさーい」


 結局、1人で寝ることになりベッドでモンモンとしていると、隣の部屋からケイコの笑い声が聞こえてくる。


「あ~ぁ

あっちは 楽しそうだなぁ」


次の日


「わーっ

もう 落ちるよコレはー」


 馬車に、ボクと双子とケイコとグレゴリウスと、同行の女性が乗り込み、サタの町を見下ろす山の、崖っぷちの道を登っている。

 馬車1台が、ギリギリ通れる道を間違って踏み外したら、崖下まで真っ逆さまで落ちて生きてはいない。


「これは ヤバいね」


 あまりの高さに、目がくらみそうだ。


「ケンイチロウ 見て

サタの町が ゴマつぶみたい」


 ボクの肩に、手を置き中腰で立ち上がるケイコ。

 無邪気に、指を差している。


「………あぁ そうだね」


 進行方向左の、崖側に座っているボクとすれば、そんなテンションにはなれないよ。


「うわぁ」


 存分に、景色を楽しんでいるケイコ。


「ケイコは 高いところ 平気なのかな ??」


 どうも、さっきからケイコの胸がボクの顔へと当たるんだよね。


「いや 全然ダメだよ」


 急に、ボクの顔を見るケイコ。


「それじゃあ 端に乗らなくて よかったね」


 ちょっと、皮肉を言ってみる。


「どうして ?」


 首を、かしげるケイコ。


「いや 別になんでもないけど」


 わざわざ、気分を悪くするのもなんだし。


「気になるじゃん」


 ボクの、右手を引っ張ったりゆるめたりして、絡むケイコ。


「いや 見ない方が………」


 一応、止めてはみたけど、


「なに どうなって………

ギャアー」


 馬車の、縁に両手をかけて覗きこんだケイコが、悲鳴をあげる。


「ほら 言わんこっちゃない」


 ボクの、お腹に顔を沈めてしがみつくケイコ。


「ねぇ 大丈夫よね?

大丈夫なのよねこれ ??」


 パッと、起き上がりミテオナーの顔色を見る二人。


「大丈夫でしょ

ねぇ ミテオナーさん ??」


 ボクも、聞いてはみたのだけれど、


「………静かに」


 小声で、なにか言っているミテオナー。

 よく見ると、体が硬直している。


「えっ ??」


 まさかの反応に、驚いてしまうよ。


「なるべく 息をしないで」


 なにを、言っているのミテオナーさん ??


「ちょっと マジですか」


ムギューッ


 ボクを、強引に抱き寄せて黙らせるミテオナー。


「ぅわっぷ」


 こんな、息苦しいほど抱擁されるなんて予想外でビックリだよ。


「ちょっと!

どさくさにまぎれて ケンイチロウに抱きつかないでよ」


 ボクの手を、グイグイ引っ張るケイコ。


「お願いだから 暴れないでッ」


 ボクの頭を、自分の胸にガッチリとホールドするミテオナー。


「はなれろーッ」


 強引に、引き剥がそうとするケイコ。


「痛い痛い痛いよ

ケイコ 引っ張るなって」


 さすがに、痛すぎる。


「いぎィ~」


 ボクの声が、聞こえてないのかな ??


「やれやれだな ケンイチロウ」


 様子を、眺めていたグレゴリウスが声をかける。


「グレゴリウスさん

助けてよー」


 窒息しそうになりながら、声をあげてみるんだけど、


「まぁ イイじゃねぇの

にぎやかな方がさ」


 馬車の、一番後ろの席でふんぞり返っているグレゴリウス。


「そんな 悠長なぁー」


 やたら、ニコニコしているグレゴリウス。


「お前さんがた

もうちっと 静かに乗ってくれんかのぉ

馬が 暴れたらそれで全員あの世行きだで」


 馬車係が、諭すように言う。


「「はい すいませんでした」」


 ミテオナーは、この道を何回か通っているから、よくわかっているんだね。


「あの~ 聞いてもイイですか ??」


 馬車係の人に、ちょっと聞いてみたい。


「ほい なんだべ」


 グルリと、振り返ってボクの顔を見る馬車係。


「どのくらい この山道を行けば ロングキャニオン村に 着くのでしょうか ??」


 たくさん、人が乗っているからかあるいは慎重にかはわからないが、とにかくゆっくり登っていくのでさすがに時間が気になる。


「まぁ 昼前だぁな」


 思ったより、時間がかかるらしい。


「そんなに」


 こんなに、グネグネの山道をこれからさらに2時間も、ゆられて進むなんてキツすぎるなぁ。


「あぁ 順調にいぐならだべ」


 なんか、不穏なことを言いだしたよ。


「はぁ」


 つい、気の抜けた返事をしてしまう。


「ほっだら ここん場所は崖崩れの名所みたげな ところでさぁ

しょっちゅう通行止めに なんのさ」


 どうやら、道が険しいだけではないらしい。


「通行止めですか」


 こんな道で、足止めとか最悪だ。

 出来れば、避けたい。


「んだ

ウワサでは モンスターが 落石さ仕込んでるっちゅう話だで」


 なんと悪いヤツだ。


「モンスターの仕業なんですか ??」


 出来るなら、そんなモンスターには遭遇したくはないなぁ。


「まぁ 確認したわけでねえから 断言は出来ねぇけっども」


 単なるウワサならイイんだけど。


「そうですか」


 なんだか、崖の下を見てたけど今度は上の方向を見てしまう。


「だからさ 静かにしてよ ケンイチロウ」


 モンスターに、気付かれないように静かにするように言ったんだね。

 早く言ってよ、毎度毎度。


「はい

ってなんか ボクが悪いみたいになってません ??」


 最初に言ってくれてれば、静かにしていたさ。


「ホラ やっぱりお客さんが来たぜ」


 前方に、1台の馬車が立ち往生して進めなくなっていて、よく見ると巨大な鳥のモンスターに襲われている。


「うわ

どうするんですかコレ」


 前方の、馬車の乗客はあたふたするばかりで、モンスターにダメージをあたえられていない。


「どうするもこうするも

戦う以外にあるかよ」


 鼻で、笑いながら言うグレゴリウス。


「えっ ??」


 なんだか、動揺してしまって恥ずかしいな。


「ヤツらに エンカウントした以上 倒さないといけないんだよ」


 どうやら、モンスターを倒さないと先には行けないみたいだ。


「そりゃあそうですよね

すいません 当たり前のことを」


 人間に、害をあたえる存在に躊躇なんていらないんだよね。


「ケンイチロウは 馬車に乗っていて

ワタシと グレゴリウスで 殺すから」


 指示を出すミテオナー。


「あーはい」


 とりあえず、ライデンを出せない以上大人しくしているほかない。


「いけるでしょ グレゴリウス」


 グレゴリウスの、顔を見るミテオナー。


「あぁ ちょうど運動したくなっていたところなんでね」


 首を、コキコキと横に動かすグレゴリウス。


「うん 行きましょ」


 ニヤッと笑うミテオナー。


「よっしゃ

ひと狩いきますかぁ」


 ユニコーンの弓矢を手に、颯爽と馬車を飛び降りるグレゴリウス。


「ええ」


 ミテオナーも、ヒョイっと馬車を降りる。


シュン


ギャアーッ


 素早く、矢を放つグレゴリウス。

 人に、掴みかかっている1匹のモンスターを射抜き、地面に落ちる。


「よし まず1匹目」


 チカラこぶを見せるグレゴリウス。


「やるわね

ワタシだって」


ヒュッ


 普通の、弓矢でモンスターを狙うミテオナー。


「よし 当たった

って アレ ??」


 モンスターに、当たりはしたけど刺さっただけでダメージは、ないみたいだ。


「やっぱり 普通の弓矢では そんなもんだろうな」

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