さくらとしょかん

1話

 私の名前は桜 紫音。

 奈良県の大学1年生! 

 私には最近、気になる人がいるのです。

 その人とは授業が、いくつか被っていて、少しだけ話したことがある。

 名前は少し変わっていて、橘 宇宙君。宇宙と書いて「ソラ」と読む。

 歴史が好きで、リアクションペーパーも、びっしり書く真面目な人。

 いつか、お昼を一緒に食べたりもしてみたいけど、誘う勇気が出ない。


「どうしよ~、友ちゃん~~~」

「どうするって、頑張って話しかけてみるしかないだろ」

 夜、私は親友の友ちゃんに電話をするのが日課になっていた。

 友ちゃんは東京の大学に通っている、頭の良い女の子だ。

「でも、勇気が出なくて~」

「それ昨日も言ってたぞ。早く進展させろ」

「う~ん、明日の英会話、頑張ってみる! とりあえず隣の席に座る!」

「そう、その意気だ。頑張れ」


 次の日。英会話の授業。

 宇宙君の隣が空いていた。チャンス! 

 宇宙君は、いつも前の方で熱心に授業を聴いている。

 前の方に座るのも勇気がいったけれど、宇宙君の隣をキープ。

 隣と言っても、本当に真隣ではない。一つ席を空けている。大学の長机は一つで最大4人座れるようになっている。大体の人が自分の席の隣に鞄を置いたりしている。だから、私も、そうした。宇宙君との距離は鞄一つ分だ。


 英会話の授業では、近くの人とペアになって、自己紹介とか最近あった出来事とかを話す時間がある。今回は必然的に、私と宇宙君がペアになった。

 宇宙君は先週末に京都の博物館に行ったこと、そこで刀剣を見たことを話してくれた。

 宇宙君は、英会話は苦手なようで、所々カタカナ英語が混ざっていて可愛かった。


「ねえ、この後、一緒にお昼食べない?」

 勇気を出して誘ってみた。

 宇宙君は最初、少し驚いたようだったが「うん、いいよ」と言ってくれた。

「学食で食べる?」

「うん。そうしよう」

 学食で、私はカレーライスを、宇宙君は、うどんを頼んだ。


 ご飯を食べ終え、お互いの時間割を見ながら話している。

「ほら、やっぱり取る授業けっこう被ってる」

「歴史学部と文学部は共通科目も多いし、自由選択科目もあるし」

「私、文学部で古典やりたいんだ。宇宙君は? 何で歴史学部を選んだの?」

「歴史が昔から好きだったんだ。それと博物館学芸員を目指していて」

「学芸員?」

「博物館の展示を作ったり、展示物の解説をしたりする人のことだよ」

「ああっ、うんうん、何となく分かった! 宇宙君に似合いそう!」

「そうかな? なら嬉しいけど」

「なれるよ! 学芸員!」

「まだ道は始まったばかりだけどね」

「だから二人で協力していこうよ。レポートとかさ!」

「そうだね。僕も桜さんがいると心強いよ」

「もう、紫音でいいよ」

「では、紫音さん」

「えへへ」

 少し照れたように私の名前を呼ぶ宇宙君に、私まで何だか照れてしまった。



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しずかとしょかん   after story 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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