しずかとしょかん after story
夢水 四季
あの頃の私へ 浅羽満月
高校生の頃、私は輝いていた。
色々な可能性に満ちていて、何でも出来る気がしていた。
夢もきっと叶うのだと信じてもいた。
今、二四歳の私をあの頃の私が見たらどう思うだろうか。
子どもの頃からの夢だった小説家になれていない、しがない図書館司書の私を。
今の仕事が楽しくないという訳ではない。きっと、小説家よりは安定している。父も母もこの仕事を望んでいた。「満月は本が好きだから、本に囲まれるお仕事に就けて良かったわね」と言っていた。
いつからだろうか、人前で「小説家になりたい」と言えなくなったのは。
小学生の頃、初めて創作した物語を祖父に読んでもらうのが好きだった。父や母、幼馴染の男の子にも自信たっぷりに読ませていた。「私が書いたのよ、すごいでしょ」と。彼は本を読むよりも友達と外で遊ぶ方が好きだったので、力作の長編を読み切ってくれたことなんて一度もなかった。
中学生くらいから、周りの目を気にするようになっていった。医者や公務員を目指している子はすごくて、自分みたいな職業を目指している子は、よほど自信がある子でなければ馬鹿にされることを恐れて、自分の夢を隠すようになる。思えば私は、小説家を目指している割に読書感想文コンクールなどで賞をもらったことがなかった。賞を取るような子は、決まって秀才か私の幼馴染のように何でもそつなくこなせるタイプの子だった。
私は人に評価してもらえる文章は書けない、小説家になんてなれないのではないだろうか。
そんな不安が毎日毎日、ぐるぐるぐるぐると頭の中を巡っていた。
自分の物語の登場人物達が大好きだった。彼らは私の一部で、私から生まれた、私の友達であった。もし小説家になれなかったら、彼らは私の中でしか生きられない。誰かに読み継がれないと、私が死んだら消えてしまう。そんな事実に行きあたった時、ベッドに潜り、一人静かに泣いた夜もあった。
高校二年生の頃、星空の下で、友人たちに初めて胸の内を明かした。その時はすっきりして、その後の劇も上手くいって、高校生活も楽しく過ごせた。あの頃は妙なやる気に満ちていて、様々な物語を書いた。小説家にもなれるような気がした。
大学生になり、恋人は東京に、友人は関西に一人暮らしをすることになった。私だけ自宅から通える大学に進学し、地元に残った。大学でも友達は出来たが、またあの不安が私を襲いに来た。本当に具体的な進路を考える時、私は逃げたのだ。周りを、自分を安心させるために、失敗しないであろう道を選んだ。本当に叶えたい夢があるなら、そっちに突き進むべきだった。自分には才能はないのかもしれない、センスも文章力もないのかもしれない、でも書き続けるべきだった。
私が物語を書かなかった空白の期間はもう戻って来ない。
遅過ぎるかもしれない、でももう一度やってみなければならない。
私が消えてしまう前に。
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