第11話(2)攻撃のスイッチ
「さらに畳みかけましょう~♪」
恋が声をかける。川崎ステラのペースで試合が進む。ゴレイロの最愛以外が絶え間なく動いてポジションを入れ替えていく。
「円ちゃん!」
恋が速いパスを円に出す。
「ヴィオラ!」
円がダイレクトで逆サイドに走り込んだヴィオラにボールを送る。
「むん!」
「!」
紅が脚を伸ばしてカットする。ボールはサイドラインを割る。
「ナイスカット……!」
泉が声をかける。
「くっ、ここまでポジションを流動的に変えてくるとは……」
紅が体勢を直しながら呟く。
「しかも、パスも正確に繋いでくる……ちゃんとお互いの位置を把握している」
「ああ、ただ闇雲に動き回っているわけではないということだ……」
泉の言葉に紅は頷く。プレーが再開される。
「ヴィオラちゃん!」
恋が鋭いパスをサイドライン際にポジションを取ったヴィオラに出す。
「それ!」
ヴィオラがダイレクトで横浜プレミアム陣内中央に位置どる真珠にボールを送る。
「させん!」
紅が真珠に体を寄せる。真珠が笑う。
「へへっ!」
「なにっ⁉」
真珠がボールをスルーする。そこには逆サイドに走り込んでいた円がいた。
「それっ!」
「……!」
「くっ!」
円のシュートは亜美が防ぐ。
「ナ、ナイスセーブ……!」
「……」
紅の言葉に亜美は無言で応える。泉が再び声をかける。
「なかなかやるね……」
「相当練習してきたと見える。これは厄介だな……」
「……凡人同士の会話は終わりまして?」
「なっ……⁉」
「凡人だと⁉」
泉と紅がムッとした顔を瑠璃子に向ける。
「あら? 違いまして?」
瑠璃子が首を傾げる。
「誰が凡人だ……」
「この程度の相手に感心しているのが凡人でなければなんなのですか?」
「この程度だと……?」
「連携はかなりのものだよ?」
「まあ、それはそうかもしれませんが……」
「いや、どっちなんだよ……」
泉が戸惑う。
「要は連携をさせなければ良いのですわ」
「連携をさせなければ良い?」
「む……?」
泉と紅が首を捻る。
「少し考えてみれば分かることですわ……」
瑠璃子が自らの側頭部を人差し指でトントンと叩く。
「考えてみれば……?」
「無駄に常人離れしているのはそのヘアスタイルだけですの?」
「お団子は普通でしょ、コーンロウはともかくとして……」
「そこまで常人離れはしていない……」
「まあ、それはよろしいですわ。お手本を見せて差し上げます……」
瑠璃子が振り向いて前に歩く。
「お手本とかまったく偉そうだな……」
泉が顔をしかめる。
「いや、あいつは口だけのやつじゃない……」
プレーが再開される。ボールは尚も川崎ステラが支配する。
「よ~し♪ ……!」
「……調子に乗るのはそこまでですわ……!」
恋に対し、瑠璃子が素早く体を寄せる。恋が珍しくボール扱いをミスする。
「しまっ……!」
「もらいましたわ!」
ボールを奪った瑠璃子が一気に駆け上がる。最愛が前に飛び出したタイミングで、ボールを横に出す。走り込んでいた奈々子がそれを押し込む。1対1の同点である。
「よっしゃあ!」
奈々子が派手に喜ぶ。瑠璃子がそれを見てため息交じりで呟く。
「はあ……ただ押し込んだだけのゴールでよくもそこまで喜べますわね……」
「青葉! 良いパスを出したな、褒めてやっても良いぜ!」
「鶴見さん、走り込んでいたこと“だけ”は評価して差し上げますわ……」
「はっはっは……」
「ほっほっほ……」
奈々子と瑠璃子は見つめ合って笑い声を上げる。ただし顔は笑っていない。
「ゴールくらい素直に称え合えば良いのに……」
泉が呆れる。自陣に戻って来た瑠璃子に紅が声をかける。
「なるほど、『スイッチ』か……」
「ふむ、八景島さん、貴女はぎりぎり凡人ではないようですね……」
「縦横無尽に動き回っているように見えて、起点となるのは百合ヶ丘のパスから……そこを見抜いたか。さすがは自分自身もパサーだけはあるな」
「これくらいは造作もないことです。そろそろ反撃と参りましょう……」
同点に追いついたことで、試合は横浜プレミアムペースになる。紅が瑠璃子にパスする。
「青葉!」
「……!」
「えっ⁉」
瑠璃子が浮き球のパスを奈々子に送る。グラウンダーのパスを予想していた恋の反応がわずかに遅れる。
「よっしゃ!」
「……‼」
奈々子が強烈なヘディングシュートを放つが、これは最愛が防ぐ。その後も瑠璃子のパスから横浜プレミアムのチャンスが続く。ヴィオラが恋に話しかける。
「キャプテン……」
「ええ、雛子ちゃん、円ちゃんと交代よ!」
「……メンバーが多少変わったところで……」
川崎ステラ陣内で瑠璃子にボールが入る。奈々子が良いタイミングで前方に走り込む。
「7番、マーク!」
最愛の指示が飛ぶ。恋とヴィオラはそれに従って動く。瑠璃子は微笑む。
「ふっ、そちらだと思うのは凡人ですわね……!」
「よっと!」
逆を突いて後方から上がってきた瑠璃子は泉へのパスを出したが、雛子がカットする。
「なっ……」
「……人の逆を突くのは、アタシも結構得意なのよ……」
雛子が驚く瑠璃子に対して、得意気に笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます