第11話(3)中盤の攻防戦

「くっ!」


 瑠璃子に対し、雛子が厳しく体を寄せる。


「ふん!」


「ちいっ!」


 瑠璃子は後方にボールを下げざるを得なくなる。


「どちらかと言えば、攻撃的な選手であるはずの7番を青葉にぶつけてくるとは、これもまた意外な一手だな……」


 紅が呟く。


「おいおい、7番と言えば俺様だぞ! 他の7番を目立たせるなよ!」


「やかましいですわね……!」


 奈々子の声に瑠璃子は苛立つ。


「へい!」


 紅が泉に声をかける。ボールを持っていた泉は紅にパスする。


「こちらに!」


 瑠璃子がボールを要求する。


「頼む!」


 紅がハーフライン辺りに位置する瑠璃子にパスを送る。


「……!」


「前は向かせないわよ!」


 またも雛子が厳しく体を寄せる。


「くっ、うっとうおしいですわね!」


「それっ!」


「くっ……⁉」


 瑠璃子が体勢をやや崩し、ボールを失いそうになる。


「もらった!」


 雛子がボールを奪いそうになる。


「瑠璃子!」


 泉がサイドから上がってきて、ボールを要求する。瑠璃子はそちらに視線を向ける。


「させない!」


 ヴィオラが泉へのパスをカットしようとする。


「ふっ……」


「なっ⁉」


 泉にパスをすると見せかけて、瑠璃子はかかとを使ったヒールパスを前方に送る。虚を突かれた雛子の股下を抜けて、奈々子への絶妙なスルーパスになる。


「よっしゃ! おおっ⁉」


 恋が鋭い出足でボールをカットする。ボールはサイドラインを割る。


「ちっ、不安定な体勢からヒールパスとは……」


 雛子が汗を拭う。


「なるほど、動きは悪くありませんが……」


「ん?」


 雛子が瑠璃子に視線を向ける。


「貴女は本来、攻撃が持ち味なのでは?」


「まあ、攻める方が好きだね……」


 瑠璃子の問いに雛子が答える。


「ふふっ……」


「なにがおかしいのよ?」


「いえいえ、そんな貴女が守備に奔走しているようでは……この試合、結果はもはや見えているなと思いましてね……」


「……」


「失礼……」


 雛子は髪をかき上げながら雛子の脇を通る。


「港北!」


 紅が泉にパスを出す。


「さて……」


 泉がパスの出し所を探す。


「こちらに!」


 瑠璃子がまたもハーフライン辺りでボールを要求する。


「頼むよ!」


 泉から瑠璃子にボールが入る。


「させないっての!」


 雛子がまたもや瑠璃子に厳しく体を寄せる。


「くっ……むっ⁉」


 ヴィオラも近づき、雛子とともに挟みうちにしてボールを奪おうとする。紅が声を上げる。


「マズい!」


「……ピンチはチャンスですわ!」


「はっ⁉」


「なにっ⁉」


 瑠璃子が鋭いターンで前を向き、雛子とヴィオラの間にあったわずかなスペースを抜け出そうとする。瑠璃子が笑う。


「パスだけだと思わないで下さいまし!」


「分かってるわよ~♪」


「んなっ⁉」


 抜け出した先には恋が待ち構えており、恋は巧みに瑠璃子からボールを奪う。


「さ、誘われた……?」


 瑠璃子が転びそうになりながら愕然とする。


「カウンターよ♪」


「恋!」


 雛子が猛然と横浜プレミアムのゴールに向かってダッシュする。


「そ~れ♪」


 恋がそこにボールを送る。紅が雛子の前に立ちはだかる。


「させん!」


「しないわよ!」


「むっ⁉」


 雛子はボールをキープせず、ダイレクトで右サイドに出す。そこには真珠がいた。


「おっしゃあ!」


「……‼」


 真珠が右脚を振り抜く。豪快なシュートがゴールネットに突き刺さる。ゴールを守る亜美はほとんど反応出来なかった。これで2対1。川崎ステラが勝ち越しである。


「よっしゃあ!」


 喜ぶ真珠を適当に称えた後、自陣に戻った雛子がすれ違いざまに瑠璃子に声をかける。


「攻撃の第一歩は守備からよ……」


「‼」


「アンタからボールを奪えばチャンスになると思ったのよ」


「ふん……」


 試合は再び川崎ステラペースになる。


「雛子ちゃん、仕掛けていって!」


「任せて!」


「そうはさせない!」


「くっ⁉」


 泉が激しい寄せで雛子からボールをカットする。ボールがサイドラインを割る。


「ヴィオラ!」


「はい!」


 ヴィオラが素早いキックインで、ボールがフリーの真珠に通る。


「もらったぜ!」


「そうはさせない!」


「ぬおっ⁉」


「ナイスカット……」


 泉がまたも激しい寄せでボールをカットする。ボールは亜美がキープする。

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