第11話(1)川崎ステラVS横浜プレミアム‐キックオフ‐

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「横浜プレミアム、主力が揃っている……」


「ちゃんと迷わずにたどり着けたみたいね♪」


 相手チームのベンチを見つめるヴィオラの呟きに恋が反応する。


「ふむ……」


「こちらとしては揃わない方が良かったかしらね?」


「それは……」


「なにを弱気なことを! 主力が完全に揃った相手を下してこそ、はじめてリベンジが成ったというものですわ!」


 魅蘭が声を上げる。恋が微笑む。


「ふふっ、魅蘭ちゃん、実に頼もしいわね……」


「当然ですわ!」


「その調子でベンチから大いに盛り上げてね♪」


「かしこまりましたわ! ……って、ベ、ベンチ⁉」


 魅蘭が驚く。恋が頷く。


「そう、ベンチ」


「そ、そんな……」


 魅蘭が膝をつく。ヴィオラがフォローする。


「試合展開にもよりますが、出番は必ず回ってきます。準備をしておいてください……」


「わ、分かりましたわ……」


 魅蘭が立ち上がる。


「ヴィオラちゃん、ナイスフォロー♪」


 恋が右手の親指をグッと立てる。


「むしろ突き落とさないでください……それではスターティングメンバ―の発表を……」


「ええ、ピヴォは真珠ちゃん」


「よっしゃ!」


「アラはヴィオラちゃん」


「はい」


「それと円ちゃん」


「う、うん!」


「円、しっかりね」


 雛子が声をかける。円が頷く。


「が、頑張るよ」


「フィクソはわたし。そしてゴレイロは……最愛ちゃん、任せたわよ」


「……はい!」


 最愛が力強く頷く。


「前回はなかなか苦戦を強いられた……八景島からも話があったと思うけど、今後要注意のチームになる可能性がある……その前にやつらのホームで叩きのめすわよ!」


「おう!」


 横浜プレミアムのコーチの言葉にメンバーは頷く。


「気合が入っているわね……それではスターティングメンバーを発表するわよ」


「……」


「ゴレイロは都築!」


「はい……」


 亜美が静かに応える。


「フィクソは八景島! アンタは今日フル出場させる予定だから、その心構えでいなさい」


「……自分がこのチームの大黒柱だという自覚はあります。常に準備は出来ています」


「頼もしいわね」


 紅の言葉にコーチが目を細める。


「ちょっと待て、大黒柱は俺様だろ⁉」


「いいや、おれだって!」


「いいえ、アタクシですわ!」


「やかましいわね!」


 自己主張を始める、奈々子とカンナと瑠璃子をコーチが怒鳴る。


「……大黒柱は譲ります。自分は屋台骨で……」


「譲らなくていいから!」


「屋台……ラーメン食べたいな……」


 空が上を見上げる。


「本牧、集中しなさい! ……アラは青葉。攻守の繋ぎは任せたわよ」


「ふっ、お任せあれ……」


 瑠璃子が髪を優雅にかき上げる。


「もう一人のアラは港北」


「はい!」


「ガンガン行きなさい」


「そのつもりです!」


「ガンガン行くというならおれがスタメンでは⁉」


「三ツ沢、アンタは大事な切り札よ」


「切り札……ふふっ、それも悪くないか……」


「ピヴォは鶴見、アンタよ」


「任せとけ! 序盤で試合を終わらせてやるさ」


「さあ、いつもの通りに勝ってきなさい!」


 檄を受けて、赤紫色のユニフォームを着た横浜プレミアムのメンバーがピッチに入る。


「ピィー!」


 試合開始の笛が鳴る。横浜プレミアムのキックオフである。横浜プレミアムは自陣で落ち着いてボールを回していく。真珠が声を上げる。


「よっしゃ、行け!」


「! 4番が前に⁉」


 ヴィオラが最前線からボールを奪いに行く。紅が驚く。


「……よし!」


「くっ!」


 ヴィオラが泉からボールを奪う。横浜プレミアムのゴールに近い位置である。


「もらった!」


 ヴィオラがシュート体勢に入る。


「させるか!」


 紅がすかさずシュートブロックに入る。


「……!」


「なっ⁉」


 ヴィオラが横にパスを出す。真珠がフリーの状態で走り込む。


「よっしゃあ!」


「……‼」


 真珠の放った強烈なシュートは亜美が防ぐ。


「ナイスセーブだ、都築!」


「……」


 亜美が紅と無言でグータッチをかわす。


「ちっ……」


 真珠が頭を抱える。恋が声をかける。


「今のは相手を褒めるべき! 切り替えよ、真珠ちゃん!」


「おう!」


 点こそ決まらなかったが、真珠のシュートをきっかけにペースは川崎ステラが握る。


「ちっ、4番がここまで高い位置を取ってくるとは……むっ⁉」


「よっと♪」


 横浜プレミアム陣内で恋がボールをカットする。紅がまたも驚きながら指示を出す。


「百合ヶ丘まで高い位置に⁉ 4番と9番をマークだ!」


「それならこっち♪」


「それっ!」


「⁉」


「や、やったあ!」


 円のシュートは若干当たり損ねだったが、ゴールネットを揺らす。川崎ステラが先制する。

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