第9話(2)オレ様と逆様

                  ♢


「げ……」


「げげ……」


 真珠と雛子が路上で顔を合わせ、お互いに気まずそうな顔をする。


「あれ? 調子悪いから、練習休むんじゃなかったか?」


「そ、そういうアンタこそ、ちょっと調子悪いとか言ってなかった?」


「はあ? ちょっとじゃねえし、超調子悪いし」


 真珠が大げさに両手を広げる。


「超調子悪いって何よ、頭が悪いんじゃないの?」


「ああん? なめんなよ、全体的に倦怠感があんだよ」


「け、倦怠感って言葉を知っていたのね……」


「だからなめんなって」


「ア、アタシなんか熱っぽいし」


 雛子が額を抑える。


「ああん? こっちは常に心が熱いっつうの」


 真珠が自らの左胸を抑える。


「なによそれ……」


「すげえだろ?」


「そ、そういえば、のどもちょっと痛いわ~」


 雛子がのどを抑える。


「ああん? こちとらのどかな生活とは無縁だっつうの」


「な、なによそれ……」


「ビビっただろ?」


「あ、ああ、咳も止まらないわ~ゴホッ、ゴホッ……」


 雛子が口元を抑える。


「ああん? こっちは体の疼きが止まらないっつうの」


「は、はあ?」


「度肝抜かれただろ?」


「え、ええと、鼻水が溢れ出てきて困るわ~」


 雛子が鼻を抑える。


「ああん? こちとら目から涙が溢れ出てくるっての」


「な、なにかあったの⁉」


「ふん……勝ったな」


 真珠がガッツポーズを取る。


「勝ったな、じゃないわよ! さっきから張り合うベクトルがおかしいのよ!」


 雛子が声を上げる。


「……元気じゃねえか」


「……アンタこそ」


「サボりか」


「アンタもでしょ」


「なんか、練習出る気になれなくてな……」


 真珠が後頭部をポリポリと掻く。


「正直、アタシもそう……」


 雛子が俯き加減で呟く。


「……」


「………」


「…………」


「……………」


 お互いが黙り込む。


「ゲーセン行かねえ?」


「え?」


 沈黙を破る真珠の一言に雛子が顔を上げる。


「ほら、そこにある……」


 真珠がゲームセンターを指差す。


「なんでよ?」


「どうせヒマしてんだろ?」


「まあ、そうだけど……」


「よし、行こうぜ」


 真珠がゲームセンターに向かって歩き出す。


「はあ……」


雛子はため息をつきながらも続く。


「……」


「……で、どうするの? プリクラでも撮る?」


「なんでお前と二人でプリクラなんだよ。罰ゲームか」


「じゃあ、クレーンゲーム?」


「う~ん、別に欲しいもん無えからな……」


「メダルゲーム?」


「う~ん、それもな……」


「じゃあ、カードゲーム?」


「ある程度カード揃えてないとつまらねえだろう……」


「それじゃあ、何をするのよ?」


 雛子が苛立ち気味に尋ねる。


「せっかく来たんだから対戦型ゲームだな……」


「対戦型?」


「お! これなんかどうだ? 『ドラムの名人』!」


 真珠が二台並んだドラムセットを指差す。


「え、なにこれ、知らないんだけど……」


「リズムに合わせてドラムを叩くバン!」


「そ、それはなんとなく分かるけど……」


「まあ、やってみようぜ……座ったな? 曲はこれで良いか?」


「え⁉ 洋楽しかないの⁉」


「そりゃあ、ロックだからよ!」


「い、いや、初心者にはハードル高すぎでしょ⁉ ……勝ったわ」


「や、やるじゃねえか……」


「適当に叩いただけど……」


「もう一回遊べるバン!」


「いいわよ! もう!」


 雛子はドラムから席を立つ。


「それじゃあ、これだ!」


 真珠が二台並んだランニングマシーンを指差す。


「なにこれ……?」


「『ウマ女キューティーダービー』だ!」


「え、知らないんだけど……」


「馬を擬人化した女になって、実際に走るゲームだ!」


「け、結構ハードね⁉」


「やるぞ!」


「ええ……いや、思っている以上にキツいわね⁉ ……勝ったわ」


「や、やるな……中山の坂は短いのを知っていやがったな……」


「初耳だわ」


「そ、それじゃあ、これだ! 『別拳』! 正式名称『別拳バウアー』!」


「い、いや、正式名称を言われても知らないわ……格闘ゲームってやつ?」


「単純な格闘ゲーじゃないぜ。別件をこなしながら相手を倒すマルチタスクゲームだ!」


「せ、忙しないゲームね⁉ ちょ、ちょっと待って⁉ ……勝ったわ」


「や、やるじゃねえか……今日のところはこの辺にしておいてやらあ……」


「負けた方が言う台詞じゃないのよ……で、でも、また来てあげても良いんだからね!」


「へへっ、ツンデレが飛び出したな……いつもの調子が出てきたじゃねえか。よし! これからグラウンドに行こうぜ!」


 真珠が勢いよく走り出す。

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