第3話(2)実力テスト
「皆さん集まって下さい」
ウォーミングアップを終え、基礎練習を一通り行ったメンバーに対しヴィオラが声をかける。皆がヴィオラの下に集まる。
「続いてですが、1対1をやりましょう」
「1対1?」
円が首を傾げる。
「ええ、コートの半分、ハーフコートを使って行います」
「どういう感じでやるの?」
雛子が尋ねる。
「ボールを適当に蹴り上げ、先にキープした人が攻撃側、された人が守備側になります。攻撃側は相手をかわしてシュートまで持ち込んで下さい。守備側はボールを奪って下さい。こちらは奪った時点で終了です」
「へえ……」
真珠が顎をさする。
「随分とまた……」
口を開こうとした雛子をヴィオラが右手を挙げて制する。
「おっしゃりたいことはよく分かります。フットサルはチームスポーツ、基本的には味方との連携などで相手の守備を破り、ゴールを目指すものだと。しかし……」
「しかし?」
「個人技……『個の力』も局面局面においては重要なものになってきます……」
「まあ、それはそうかもしれないけど……」
雛子が腕を組みながら頷く。
「へっ、面白そうだから良いじゃあねえか」
真珠が鼻の頭を擦りながら笑う。ヴィオラも笑みを浮かべる。
「まあ、レクリエーションみたいなものです。基礎練習だけですと、どうしてもマンネリ気味ですし……鷺沼さんも少し退屈でしょう?」
「だいぶ退屈ですわね」
魅蘭が頷く。ヴィオラが苦笑気味に話を続ける。
「それではゴールキーパーは溝ノ口さんで……皆さんは左右に分かれて下さい。ボール出しはとりあえず私がやります……それでは始めましょうか」
皆がそれぞれに散る。円が雛子に問う。
「ね、ねえ、これってさ……」
「レクリエーションと見せかけての実力テスト……」
「だよね……」
「ポジション適性はこの際二の次で、単純に実力のあるやつがレギュラー、うちの聖女様、なかなかエグいことするわね……」
雛子が目を細めてヴィオラを見つめる。ヴィオラが声をかける、
「では、始めます!」
ヴィオラがボールをわざと弾ませる。落下点に素早く入った魅蘭がボールをキープする。
「む!」
「円さん、ディフェンスです!」
「円、前を向かせんなよ!」
「分かっている!」
真珠の言葉に円は応える。背中に円を背負うような形になった魅蘭が上半身を左右に絶え間なく動かす。雛子が声をかける。
「ディフェンス、集中!」
(この体勢ならば反転してくるしかない……左右どちらからかわしてくるか……多少のスピードならばボクは振り切られない!)
「!」
「動いた!」
「右と見せかけて左だ! なっ⁉」
円は驚く。魅蘭がボールをキープしていなかったからである。
「……」
(反対サイドにボールを転がした⁉ いや、ない! どこに⁉)
「上!」
「えっ⁉」
円が上を向くと、既にボールは円の頭上を緩やかに通過し、魅蘭の足元にピタッと収まる。
「は、反転すると同時にヒールリフト……」
雛子が驚き気味に呟く。
「へへっ、テクを見せつけてくれるじゃねえか……」
真珠が笑う。1対1の練習はその後も続く。
「それでは……!」
ヴィオラがボールを出す。魅蘭が先にボールに触れる。
「ツンツン! ディフェンスだぞ!」
「分かっているわよ!」
真珠の声に雛子が反応する。
「さて……先ほどはテクニックを見せましたが、雛子さんには一度見せたものはそうそう通用しませんよ……?」
ヴィオラが腕を組んで呟く。魅蘭が前を向く。雛子が内心笑う。
(前を向いた状態ならトリッキーなプレーは出来ないでしょう?)
「……!」
「うっ!」
魅蘭がシンプルにボールを斜め前に大きく蹴り出し、雛子の脇をすり抜けていこうとする。円が声を上げる。
「スピード勝負だ!」
(くっ、この間のJDには圧倒されたけど、アタシは別にノロマの鈍足ってわけじゃないんだからね⁉ 勘違いしないでよ!)
雛子がすぐさま魅蘭についていく。円が再び声を上げる。
「鷺沼さん、振り切れない!」
「そうはさせないわよ……って⁉」
雛子が驚く。魅蘭の強烈なショルダータックルで吹き飛ばされたからである。魅蘭がボールをシュートまで持ち込む。円が呟く。
「小柄な方だと思ったけど、結構パワーもあるんだな……」
「へっ、ひよっこツンツンを倒したくらいで良い気になるなよ、新入り! オレと勝負だ!」
「言葉がまるで悪役のそれですが……鷺沼さん、連続でも良いですか?」
「……構いませんわ」
ヴィオラの問いに魅蘭が頷く。
「それでは……始めます!」
ヴィオラがボールを出す。魅蘭が鋭い出足でキープする。
「へっ、お前がオフェンスか、構わねえぜ?」
「……余裕ですわね」
魅蘭がボソッと呟く。
「ああ、パワーなら負けねえし、生半可なテクや中途半端なスピードはオレには通用しねえ」
「……やってみなければ分かりませんわ!」
魅蘭が先ほどと同様にボールを斜め前に蹴って走り出す。真珠が笑いながらついていく。
「はっ! ショルダータックルで吹っ飛ばしてやるよ! んなっ⁉」
魅蘭がボールをキープすると同時に減速したため、真珠はそれについていけず、滑って転んでしまう。ヴィオラが感心しながら呟く。
「スピードに緩急をつけた……単純ですが、効果的ですね」
「はっ!」
「……‼」
魅蘭のシュートを最愛が防ぐ。魅蘭が地団駄踏む。
「というか、さっきからシュートを全部防がれていますわ⁉ く、悔しい!」
その後も1対1は続く。守備に回った魅蘭の動きは正直いまひとつであった。
「鷺沼さんは攻撃面で光りますね……」
「元気の良い方が入ったようですね……復帰戦にはちょうど良いお相手ですわ」
「⁉」
ヴィオラが声のした方に振り返る。
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