第10話「女神様を誘惑」
「…………」
女神様は、顔をほんのりと赤らめながら、ジト目で俺を見据えている。
蛇に睨まれた蛙状態の俺は、現在女神様の前で正座をさせられていた。
もちろん、美奈も同じだ。
「えっと、女神様……」
「天界に断りもなく来たことも問題ですが、よりにもよって、私の部屋に飛んでくるなんて……」
俺が飛んだのは、異世界転移の力を貰った部屋なのだけど、どうやらここは女神様の部屋だったらしい。
そんなの初耳で、言ってくれないとわからないんだが……。
「これが着替え中であれば、容赦なく地獄に送るところでした」
よほどおやつを頬張っているところを見られたのが恥ずかしかったのか、凄く機嫌が悪い。
というか、地獄って本当にあったのか。
「わざとじゃないんで……。こっちから、天界の状況を確認する方法はないんですし……」
「次から飛んでこられるなら、大広間にしてください」
飛んでくるな――とは言わないんだな。
さっきは、断りもなく来ることは問題だって言ってたのに。
一つ気になるのは、先程女神様が食べていたものだ。
あれ、どう見てもシュークリームだったよな?
天界にそんなものがあると思えないんだが……。
そういえば旅をしていた際、教会に伝わる言い伝えで、女神様はヒューマンの姿になって下界に遊びに来ることがある――なんて話を聞いた気がする。
「女神様って、実はちょくちょく下界に降りてるんですか?」
「そんなに暇ではありません」
尋ねてみると、即答で否定されてしまった。
さすがに、考えすぎか?
でも、じゃああれってどうやって手に入れたんだろ……?
そう気になるものの、これ以上不機嫌にさせたくないので、余計なことは言わないでおいた。
「そんなことよりも、天界に来た用事はなんでしょうか?」
ようやく話を聞いてもらえるようで、女神様が立ち上がっていいと手でジェスチャーしてきた。
「モンスターがいる上で、比較的安全な異世界を教えて頂きたいと思って、来たんです」
「教えることは可能ですが、今のままでは和輝様は行くことができませんよ?」
「はい?」
あれ、どういうことだ?
俺の力って、限定的なものじゃなかったよな……?
「あなた方が魔王を倒した世界は私の管理下であり、あなたが元々いた世界は、私の言うことならなんでも聞いてくださる女神の世界だったので、自由に行き来できます。しかし、他の世界にはそれぞれ管理している女神の許可がなければ、行くことはできません」
どうやら俺は、願いごとを言う際にしくじっていたようだ。
想定が甘かったか……。
「正確には、行くことができるけど、無許可に入れば何かしらの天罰が下る、ということでしょうか?」
俺は願う際、いろんな世界に行ける力がほしいと願い、女神様は叶えてくださった際に、『ワープホール』でいろんな世界に行けると言っていた。
それなら、先程の女神様の説明は矛盾している。
「和輝様は天界や場所を移動する際に、どのように『ワープホール』を使っていますか?」
「えっ? そりゃあ、行ったことがある場所や、地名とかの情報で――あっ」
女神様が何を言いたいのか、わかってしまった。
『ワープホール』で行先を繋ぐには、その場所の何かしらの情報がいる。
そうじゃなければ、どこに繋げるなどのイメージが成り立たないのだ。
住所とかがわかれば、そこを基準にして一番近くの山などの指定はできるが、何も情報がなければ繋げることは不可能。
新しい世界に行こうとしても、情報が何一つないから、繋げないというわけだ。
クソ、詐欺にあった気分だ……。
「それぞれの女神様から許可を頂く方法ってもしかして、お願いを聞くことですか……?」
「一番手っ取り早いのは、そうでしょうね。私もあなたなら、自信を持って推薦できますし」
つまり、他の世界に行きたいなら、魔王討伐のようにノルマを課せられるわけか。
シュークリームとかのおやつを持っていけば、許可してくれないかな?
「なんだか、あっさりと世界を渡れる力をもらえた理由が、わかってきました……」
「私は、きちんと和輝様がおっしゃられた通りの願いを叶えましたよ? 情報さえ得られれば、他の世界に『ワープホール』を繋げること自体は可能ですので、対価を払う必要はありませんからね」
うん、この人やっぱり女神じゃなくて悪魔だ。
こんな人の考えの隙ばかり突く存在、他に知らないぞ。
「もういっそ、女神様がついてきてくだされば、自由に行けるんじゃないですか?」
「まぁほとんどの女神が私の後輩ですから、従順ではなくとも逆らう子はそういないでしょうけど……」
あれ、即答で断られなかったな?
意外と乗り気なのか?
やっぱりこの女神様、結構下界に来てるだろ?
あと一押し――そう思った俺は、女神様を誘惑することにした。
「一緒に旅をすれば、おいしいもの巡りとかできますよ?」
「うっ……」
「俺のすることに協力して頂ければ、お金が沢山入るかもしれませんし、スイーツとかも食べ放題かもしれませんね?」
「そ、そういう誘惑は駄目だと思うのです……! 私は行きませんからね……!」
ちっ、駄目か。
結構心を揺さぶれた気がしたのだけど、やはり女神という立場をそう放棄はできないのだろう。
今度からここに来るたびに貢ぎものをして、揺さぶってみるか。
他の女神様のノルマをクリアするよりも、そっちのほうがお手軽に思えた。
この女神様、食い意地張ってそうだし。
「和輝、そろそろ……」
俺たちの話が終わったと思ったのか、美奈が服をクイクイッと引っ張ってきた。
早くエサをやりに行きたい――というよりも、モンスターたちに会いたいのだろう。
「今度はおみやげを持ってきますので、モンスターが強くなくて、簡単に許可をくれそうな女神様を教えてください」
また魔王討伐なんてさせられたらかなわないので、会いに行く気はないが、一応前向きな姿勢だけ見せておく。
実際は、おみやげで頑張って女神様を揺さぶっていこう。
それまでは動画に関しては、めんどくさいが剣哉たちがいる世界で撮るのが良さそうだ。
広い世界なので、そう鉢合わせすることはないだろうし。
「私が管理する世界のモンスターや種族たちが一番強いので、どこの世界に行っても苦労しませんよ」
「……なるほどです」
今しがた方針を決めたのに、他の世界のほうが楽なんて聞けば、考えが揺さぶられてしまうじゃないか。
女神様のことだから、俺のそういった考えも見越して言ってきたのかもしれないが……。
「とりあえず、一旦女神様の管理されている世界に行ってきます。美奈がモンスターにエサをやりたいそうなんで」
「それは、やめておいたほうがよろしいでしょう」
「えっ?」
軽い雑談のつもりで言うと、女神様の表情が一変した。
やはり、俺の悪い予感は当たっていたか?
「勇者様も、馬鹿ではありません。美奈様がエサをやりに来ると読んで、待ち構えていますよ」
つまり、行けばみすみす罠に飛び込むようなものか。
まさか、手ぶらで呑気に待っているわけでもないだろう。
厄介なことになったが――これは、美奈が素直に言うことを聞くようになるチャンスかもしれない。
「いつまでも気長に待つとは思えません。今夜中に俺たちが現れなければ、剣哉は腹いせに美奈のモンスターを殺すと思いませんか?」
「えっ!?」
俺の発言により、美奈が絶望するかのように青ざめた。
そして俺の言葉を肯定するように、女神様は目を伏せる。
「その可能性が高いでしょう」
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