第8話「変わらない幼馴染」

 それから俺は、今までのことをほとんど白羽に話した。

 美奈がうるさそうだったので、剣哉とかのことはなるべく話していないが、そのことも今度話しておこうと思う。

 剣哉に会わせるつもりは一切ないが、万が一ってこともあるのだから、警戒はさせておきたいのだ。


「――大変だったのね……」

「信じてくれるのか?」


 ほとんどを話したとはいえ、全て漫画のような話だ。

 信じられなくても仕方がないと思っていたが――。


「和輝が、私の前に現れてくれた。それだけで、信じられるよ」


 白羽はかわいらしく笑顔を返してくれた。

 この二年間、裏切りや冷たい対応にあってきたため、この笑顔の温かさに救われる。

 これだけで、帰ってきてよかったと思った。


「ありがとう、助かるよ」

「幼馴染なんだから、信じるのなんて当然でしょ」


 お礼を言うと、白羽は照れくさそうに笑いながら、髪の毛を指で弄り始めた。

 照れているのだろう。


 クールなのに照れ屋なところは、昔と変わっていない。


「また二人の世界に入ってる……」


 和やかな雰囲気になっていると、美奈がいじけたような態度で水を差してきた。

 いちいち邪魔をするので、天界に置いてくればよかったと思う。


「それで、どうしてその子は連れ歩いてるのよ……?」


 白羽も美奈の存在を思い出したらしく、目を細めて美奈を見つめながら聞いてきた。


「簡単に言えば、保護してるだけかな」

「私は小動物じゃない……!」

「似たようなもんだろ?」


 山の中では、小動物のように怯えてくっついてきていたんだから。


「むぅ……」


 美奈は頬を膨らませて拗ねるが、言い返してはこなかった。

 自分の立場がわかってきているのかもしれない。


「俺も美奈も帰る場所がなくなってて、困ってたんだ。そういえば、俺の両親がどこに行ったか知らないか?」


 隣に住んでいた白羽なら、行先を知っているかもしれない。

 そう思って聞いたのだけど――白羽は、バツが悪そうに俯いてしまった。


 まさか……。


「その、言いづらいことなんだけど……おじさんが、癌で亡くなっちゃって……おばさんは、和輝とおじさんがいなくなって疲れたみたいで……自分で……」


 白羽は最後まで言わなかった。

 俺に気を遣ってくれたのだろう。


 それにしても、そっか……そうなんだ……。


「和輝……」

「いや、大丈夫。そういうこともあるよな」


 心配そうに見てきた白羽に対し、俺はなんとか笑顔を返す。

 これ以上、白羽に心労はかけられない。


「道理で、俺の家に全く知らない人が住んでるはずだよ」


 権利関係がどうなってるのかわからないが、それは白羽に聞いても答えが返ってこないだろう。


「えっと……和輝、ここに住んでいいからね? お母さんには私が話をつけるから」

「ありがとう、凄く助かる」


 幼馴染に迷惑をかけるのは避けたかったけれど、やはり安全なこっちの世界で寝泊まりはしたい。

 となれば、迷惑をかける分、お金で返していこう。

 幸い、いい手段があるのだし。


「わ、私も、いい……ですか……?」


 話がまとまりかけると、強気だった美奈が顔色を窺うように手をあげた。


 俺がここで暮らすなら、美奈の暮らす場所もここになる。

 だけど、家主に断られたら住めないわけで――一応、その辺の判断力はあったようだ。


「はぁ……」


 美奈の様子を見て、白羽は溜息を吐いた。

 それにより、美奈は怯えたようにビクッと体を震わせ、俺の服の袖を摘まんでくる。


 こいつ、ほんと立場が弱くなると、気持ちも急激に弱くなるな……。

 もしかしたら、普段は虚勢きょせいを張っているだけなのかもしれない。

 まぁそれはそれで、問題なのだが。


 とりあえず、今回に限って言えば、美奈が心配しているようなことにはならないだろう。


「何言ってるのよ、行く場所がないんでしょ? だったら、うちで暮らしたらいいわ」


 白羽は仕方なさそうに笑いながら、美奈の手を取る。


 そう、彼女はクールで勘違いをされやすいが、根はとても優しいのだ。

 困った人間がいれば、見過ごすはずがない。


「い、いいの……?」

「駄目って言ったら、行く場所はあるの?」

「ない……」

「じゃあ、駄目って言えるはずがないでしょ。遠慮しなくていいの」


 白羽はそう言うと、優しく美奈の頭を撫でた。

 生意気ではあるが、小柄で年下なため、妹のように扱おうとしているのかもしれない。


 そう思って見つめていると、美奈が俺の目を見てきた。


 その目は――

『これでいいんでしょ?』

 ――と言いたげだったので、コクリと頷いて返しておく。


 正直美奈と暮らすのはごめんだが、ここで放り出そうものなら、女神様に叱られる。

 何より、白羽や波風家のためにも、美奈の力を利用しない手はない。


「白羽、実は相談があるんだけど――昔話してた、動画配信を一緒にやらないか?」


 美奈がおとなしい今のうちに言質げんちを取ってしまおうと思い、俺はさっそく本題を持ち出すのだった。

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