第3話「クソ勇者とのタイマン」
「――頼むって! 今までいいようにしてやっただろ……!?」
「やだってば……!」
「美奈ちゃん、剣哉の言うことを聞きなさい」
「なんで、月夜ちゃんまでお兄ちゃんの味方するの……!?」
元いた場所に戻ると、やはり剣哉は美奈を説得していた。
一つ予想外なのは、月夜が剣哉側についていることだ。
「女神様、あれって……」
「えぇ、月夜様に『魅了』がかかっていますね」
やはり、美奈を説得するために月夜を操っているのか。
まぁもともと月夜は剣哉にゾッコンだから、可哀想とは思わないが。
「天界で揉めるなど、言語道断なのですが……」
女神様は三人に呆れたようで、失望の溜息を吐く。
とはいっても、今回に限れば美奈は被害者なので、少し不憫ではあった。
「女神様、そこにいてください」
「……ふふ、和輝様はお優しいですね」
俺が手で制止すると、女神様がニコッと笑顔を向けてきた。
おそらく、俺がすることを読んでいるのだろう。
別に、優しいというわけではないが。
俺が今からすることで、美奈と剣哉の関係は悪くなるわけだし。
「わざわざ、女神様が嫌われ役をする必要もないでしょう。それに、俺はただ剣哉の邪魔をするだけですよ」
そう言って、俺は三人のもとに向かう。
そして、後ろから美奈の肩を掴んだ。
「美奈の番だ。行ってこい」
「あっ……うん!」
俺が美奈と代わるように位置取ると、美奈は慌てて頷きながら、女神様のもとに走っていく。
「待てよ……!」
しかし当然、そうなれば剣哉は美奈を追いかけようとした。
「行かせるかよ。『アブソリュートシールド』」
俺は美奈の後を追わせないよう道を塞ぎ、自分が持つ最強のシールドを展開した。
「ざけんな、こんなもの! 『ホーリーブレード』!!」
やはり、剣哉は俺のことを微塵とも仲間だと思っていないのだろう。
自身の持つ、最強のスキルを使ってきた。
だが――。
「なんっで……!?」
俺のシールドが剣哉のスキルを防ぐと、剣哉は理解できないとでも言わんばかりに、表情を歪める。
「どうしてだよ……!? どんなものでも斬れるチート能力を持つ俺の最強スキルが、なんでお前みたいな雑魚に防がれるんだ……!?」
「そんなことも忘れたのか?」
剣哉のチート能力を最強の矛とするなら、俺のチート能力は最強の盾だ。
そして俺たちの場合、力は俺が上回るようになっている。
これは、もし街が戦場になった場合、剣哉が本気で戦っても俺が街の人たちを守れるようにと、女神様が調整されていたのだ。
きちんと最初に説明をされているのだが、二年前のことで忘れていたのだろう。
「くそが……!」
「くっ、この馬鹿力め……!」
剣哉は最強スキルを惜しみなく、連続で使ってくる。
仮にも相手は、勇者と呼ばれ、魔王を倒した男。
いくらスキルで上回っていても、気を抜けばやられる。
しかも、それだけではない。
スキルは体力を消費し、最強スキルともなれば、消費する体力も半端ないのだ。
連続して使っている剣哉はもちろんのこと、それを塞ぐためにシールドを展開し続けている俺も、体力を大きく消費している。
女神様が戻ってくるまでもたせたら勝ちだが、美奈がどんな願いをしているかわからない以上、下手に期待するのは危険かもしれない。
それならば、早めに決着をさせたほうがよさそうだ。
「これでどうだ……!」
連続で打ち続けていた剣哉は、痺れを切らしたのか大振りになる。
その隙をついて、俺は自分の足元に『ワープホール』を展開させた。
「なっ、消えた……!?」
「こっちだよ!」
俺は剣哉の後ろに現れ、本気の回し蹴りを剣哉に喰らわせる。
「がはっ……!」
まさか、俺が真後ろに現れるとは思ってなかったのだろう。
後ろを全然警戒してなかったおかげで、綺麗に後頭部へと入ったようだ。
「剣哉……!」
地面を転がった剣哉に対して、月夜が慌ててかけよる。
「だ、大丈夫だ……! あいつのへなちょこ攻撃なんて、効いてねぇよ……!」
剣哉は後頭部を押さえながら、立ち上がろうとした。
これは強がりというほどでもないだろう。
攻撃スキルを持たない俺の蹴りでは、剣哉相手だと少しの隙を作れるだけだ。
だけど――その少しの隙が、ほしかった。
「これでおさらばだよ、剣哉」
「はっ……? お前、何をして……?」
剣哉に対して右手を掲げると、剣哉は動揺したように瞳を揺らす。
体にはほとんどダメージが入っていないが、精神的な動揺が生まれているようだ。
本来なら、回避行動をすぐとるだろうに。
まぁそれだけ、俺に一杯喰わされたのが驚きだったのだろうな。
「もう会うことはない、じゃあな。『ワープホール』」
俺は剣哉と月夜の足元にワープホールを展開する。
足元に出来たことで、剣哉も月夜も回避しようとするが――踏ん張るために必要な足場は、既にワープホールになっているのだ。
逃げ場などない。
「許さねぇぞ、和輝……!」
「あぁ、俺もお前たちがしたことを、許すつもりはない。後で美奈も同じところに送ってやるから、安心しな」
「いるか、あんなクソ妹! 絶対お前を殺してやるからな!」
剣哉はそれだけ言い残すと、月夜と共にワープホールに沈んでいった。
あいつらが飛ぶ場所は、俺たちが天界に呼ばれる前にいたところだ。
「ふぅ……疲れたぁ」
命のやりとりをしたせいで、ドッと疲れが俺を襲う。
なるべく穏便にあいつらの前を去るつもりだったのに、まさかこんなことになるなんて。
まぁ半分仕掛けたのは俺みたいなものだし、文句も言えないが。
「女神様に、どう言い訳するかなぁ……」
美奈よりも酷く天界で暴れてしまったため、きっと叱られるだろう。
全て剣哉のせいということで、見逃してもらえないだろうか……。
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