第5話 長谷川先生

入院生活で最も思い出に残っている人

は、院内学級の担任である長谷川先生だ。


院内学級の生徒は私一人だったので、

常にマンツーマンの授業。


途中入院する子供が増えて3人や5人になるときもあったが、

基本的にみんなすぐに退院するため、

本格的に授業をするのは私だけだった。


最初こそ緊張したが、

長谷川先生の教え方は優しく、わかりやすく、丁寧だったためすぐにマンツーマンの授業に慣れた。

(先生のおかげで退院後も勉強に遅れをとることはなかった)


そして必要以上に褒めてくれる。

一人のときはどうしても暗い気持ちになりやすいため、先生の褒め言葉はとても心に響いた。


授業もただ教科書を読むだけではなく、

理科の授業では病院の屋上に行って植物を観察したり、

家庭科の授業では一緒にエプロンを作ったりした。


総合の授業という名目で、

院内学級主催の夏祭りの準備を手伝ったときもあった。

まさか病院で夏祭りが体験できると思っていなかったので、本当に楽しかった記憶がある。


長谷川先生がいなかったら、

私の入院生活はずっとベッドで漫画を読んで口数も減り、

退院後は勉強についていけなくて泣いていただろう。


退院してから聞いた話しだが、

お母さんも娘の治らない病気に対する不安を先生に相談していたらしい。

親子共々お世話になった。


先生は私を「病気で入院しているかわいそうな子」としてではなく、

「病気だけどふつうの子」として接してくれた。

自分は病気だけどふつうに過ごしていいんだと言ってもらえているようで、とても嬉しかった。


退院する日、先生は泣いてお別れをしてくれた。


「毎日元気に来てくれたのはあなたが初めてだったのよ。

本当に寂しいわ。

でも退院できてよかった!」


感動の別れのはずなのに、

先生の「毎日来たのはあなたが初めて」という言葉に私はめちゃくちゃ驚いた。


え!?学校って毎日来るものなんじゃないの!?

あ…確かに、みんな体調不良で入院するんだから、毎日学校に行く元気ないよな…


点滴をぶら下げている日も、

少し体調が悪い日も、

学校行かなきゃ!!と思って無遅刻無欠席で通学した自分の変な生真面目さに笑ってしまった退院の日だった…


長谷川先生、本当にあの時はありがとう。

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