きっと、これからも隣を歩く女の子

荒屋 猫音

第1話

【きっと、これからも隣を歩く女の子】


優真…春香の幼馴染

春香…優真の幼馴染


※作者に医療知識は皆無です。


きっと、これからも手を繋いで歩く女の子

Anotherバージョン

途中までほぼ同じ文面が続きます。、



____


優真M

高校最後の夏休み

卒業後、俺は東京へ行く。

彼女の幸せを考えるなら。

思いを告げたあの場所で、言うんだ。


優真M

夏休み前、同級生は徐々に進路を決めそれぞれの道を進む準備をする。

そんな中でも進路が決まらず、しかし、途方に暮れる訳でもない

なんとも平凡に暮らすやつが、ここに1人…


____放課後、帰り道____


春香「優真、進路決まった…?」


優真「一応、内定貰った…叔父さんの会社だけど」


春香「くっそぉお、先越されたァ」


優真「いやいや、前から言ってたよね?俺の就職先身内の会社になるかもって!話聞いてた?」


春香「あーあーあーーーーきーこーえーなーーーい!」


優真「そんなことやってるから就職か進学がいつまで経っても決まらないんだろうが!!」


春香「(食い気味に)だって!私は就職とか進学とかよくわかんないんだもん!なりたいものもやりたい事もわかんない!」


優真「だもん、じゃないの!自分の将来を自分で決めれなくてどうすんの!いつまでも俺がいるわけじゃないんだよ!?」


春香「え......いないの....?」


優真「ぐっ…そんな顔するなよ…」


優真M

小さい頃からの腐れ縁、幼馴染。3件隣の同級生。一応彼女。

俺たちの関係はそんな感じでふわふわしていて

吹けばすぐに崩れるような曖昧なものだった。

彼女だけど彼女じゃない。

周りがからかってくるから、売り言葉に買い言葉で「そーだよ、彼女だよ」なんて言ってしまって以来、何となくそのまま彼女扱いみたいなことをしている。


ちゃんと付き合ってくれって言えたら

格好良かったのにな…



春香「でも、優真はちゃんと将来のこと考えてるんだよね、凄いや。」


優真「春香があっけらかんとしすぎなんだよ…」


春香「私は私の人生をゆっくり歩きたいの。みんなが就職進学するからって、右にならえはしたくない。」


優真「頑固者…」


春香「いざとなったら、優真に貰ってもらうからいいの。」


優真「なんで俺?」


春香「優真だから。」


優真「...」


春香「私が困ってたら、いつも助けてくれたから。」


優真「(溜息)毎度目の前で泣かれたら放っておけない」


春香「(わざとらしく)私がお金に困ってたら、優真が援助してくれるから」


優真「.....小遣いはどうした」


春香「きーこーえーなーーーーーーい」


春香「ねぇ!優真!」


優真「…んー?」


春香「夏休みになったら、いっぱい遊びに行こうね!」


優真「…お前が少しでも進路のことを考えてくれたらな」


春香「いーじゃん!高校生最後の夏は1回しか来ないんだから!遊べる時は遊ぼうよ!」


優真「宿題終わらせたらな!」


春香「優真と一緒にやれば1週間で終わるから問題ない!」


優真「丸写しするだけだろーが!!!」


春香「あはははっ!」


優真M

危機感が無い…と言うよりは

春香はその日その日を全力で生きていて

その力強さに圧倒されてしまう。

進路を決められないのも、単純に今を全力で過ごしたいからで、春香は自分の将来を、全く考えていないわけではないと思う。

ただ、少し遠回りしているだけ…。

春香の良いところであり、悪いところ。

そんな所が、好きだった。


春香「私、優真に彼女が出来たら泣いちゃうからね」


優真「周りは俺らが付き合ってるって思われてるけど?ってか、これでも彼女扱いしてるんですけど?」


春香「でも、ちゃんと付き合って言われてない。」


優真「じゃあ、付き合って。」


春香「…やだ」


春香「そんな、周りが言うから仕方なく。みたいな告白、やだ。」


優真「やだって…じゃあ、このままで良いわけ?」


春香「…それもなんか…やだ…」


優真「なら、お前が納得するまで、好きって言い続けるよ」


春香「……」


優真「好き」


春香「……うん」


優真「……」


春香「……」


優真「…変な顔」


春香「うっさい!!」


優真「好きには反応しないのに酷くね!?」


春香「うっさい!…うっさい!ばーーか!」


優真「あーはいはい、お前はそーゆーやつだよ」


春香「……うっさい、ばか…」


春香「(小声で)私だって、優真が好きだよ…」


優真「なんか言った?」


春香「何も言ってない!」


春香「とにかく!私は宿題を優真に押付けて夏休みを謳歌する!」


優真「押し付けんな!自分でやれ!」


春香「今までずっとそうだったんだから、今更でしょ?よろしくぅ!優真様!」


優真「お前なぁ……っ痛…」


春香「え、何。どうしたの…」


優真「いや、最近目が痛くなることが多くて…視力が落ちたからかな…」


春香「えー?ゲームのし過ぎ?もしくは勉強のし過ぎ??」


優真「…さぁ。酷くなるようなら病院行くわ」


春香「そうしな?」


優真M

思えば、この時早くに病院に行っていれば良かった…

そうすれば、少なくとも春香を泣かせる事は

なかっただろうから…



数日後、春香宅___



春香「優真、病院行ったの…?」


優真「…行ってねぇ」


優真「誰かさんが期末で赤点取って、追試にならなければ行けてたかもな」


春香「ごめんじゃん…でも、あれから目の痛み、引かないんでしょ…?」


優真「たまに痛むくらいだよ。疲れだろ?目の奥が痛くなるとか、色々言われてるじゃん」


春香「でも…!」


優真「大丈夫だよ。それより、夏休みを謳歌したい誰かさん?口より手を動かしましょうね?追試は明日ですよ?」


春香「…あとは、自分で頑張る。だから今日は病院行って!」


優真「春香。大丈夫だから」


優真「夏休み、いっぱい遊ぶんだろ?」


春香「…うん、遊ぶ。」


優真「なら、追試が受かるように勉強してくれ」


春香「…わかった……」


優真M

春香は、時に自分よりも他人を優先して動く…

今だって、自分が追試を受けなければならないのに

それ以上に俺の心配をしている。

目が痛む回数は日に日に増えている…でも、それを春香に言ってしまったら…春香はきっと…


優真「無事追試に合格したら、宿題の丸写しでもなんでもさせてやるよ。だから、頑張れ」


春香「約束…」


優真M

残酷な嘘を、付いてしまった。

そんな気がして俺はその言葉に続けて

「約束」と言う一言が言えなかった…。


翌日…春香は無事追試に合格し、宣言通り夏休みを謳歌する準備をしていた。


春香「海は絶対に行くから水着買って、買い物もしたいからお小遣い貰って、積んでた漫画読んで読みたかったやつ大人買いして…クリア出来なかったゲームを優真に押付けて新しいの買って…」


優真「おい、お前はゲームまで俺に押し付けるのか」


春香「だってぇぇぇ!なんか話題になってて気になって買ったらホラーだったんだもん!!私ホラーゲーム苦手なのにぃ…エンディングが泣けるってだけで買っちゃったんだよぉぉ…」


優真「お前の情報収集雑すぎるだろ…ジャンルまで見て買えよ…」


春香「うぅ…ぐうの音も出ません…」


優真「小遣いだって湯水のようにある訳じゃないんだから、使い方を考えろよ…」


春香「…優真、お母さんみたい…一応バイトもしてるから大丈夫だよ」


優真「は?バイト?初耳」


春香「ふふーん!凄いでしょ!」


優真「お前、働けたのか…」


春香「なんか酷い!」


優真「素直に働いていたことに衝撃を受けたよ。」


春香「やる時はやるの!」


優真「(わざとらしく)お母さんは嬉しいです…ぐすっ」


春香「…バカにしてるでしょ」


優真「してないよ」


春香「でも、これで思う存分遊べる!」


優真「宿題は?」


春香「優真がやったのを丸写し!」


優真「はいはい…。

…俺これから病院行ってくるから」


春香「目、やっぱりまだ痛い?」


優真「たまにな…」


春香「一緒に行こうか…?」


優真「子供じゃないんだから、一人で行けるよ」


春香「じゃあ…終わったら教えてね」


優真「わかった。また後でな」


優真M

そう言って春香と別れ、病院へ向かい

長い待ち時間の末下された診断結果は

原因不明だった…。



帰宅後、通話にて



春香「おかえり、どうだった?」


優真「あー…やっぱり疲れだって。目薬貰って終わり」


春香「結構時間かかったんだね…」


優真「医者なんて行けばそんなもんだろ」


春香「でも、何ともないんだよね?」


優真「大丈夫」


春香「良かったぁ、なにか病気とかだったらどうしようって、心配してたんだよ?」


優真「大袈裟」


春香「優真は自分の心配をしないから、代わりに心配してあげてるの。」


優真「そりゃどーも」


春香「…優真なんか変…」


優真「病院で散々待たされて診察は秒で終わったら、疲れで変にもなるよ」


春香「そうじゃなくて…なんか、変…」


優真「気の所為だよ」


優真「でも、さすがに疲れたから今日はもう寝るわ」


春香「あ…そうだよね、週明けから夏休みだし、いつでも電話出来るし…うん、ゆっくり休んでね」


優真「ありがと、じゃあ、またな」


春香「おやすみ…」


優真M

この時、初めて俺は春香から逃げた。

病院の検査でわかった事は、原因不明。

後日詳しい検査をすることになっていて、

応急処置として痛みを抑える目薬を貰っただけ…


痛みが引かず継続する可能性もある。

いずれ視力が急激に低下する可能性もある。

いずれ、この目から光が無くなる可能性もある…。


原因不明なだけに、様々な可能性を告げられた。


この先、どうなるかわからない。



春香にそれを伝えたら…きっとあいつは…



後日、夏休み前日、公園にて



春香「懐かしい!小さい頃、よく遊んだよね!」


春香「なに?夏休み前に公園で遊びたくなったの?」


優真「…春香」


春香「明日から夏休みだし、まずはお金を使わずに遊ぼうって?優真らしくない」


優真「春香、お前が納得するまで好きって言い続けるって、言ったよな」


春香「…言ったねぇ」


優真「好きだよ」


春香「え…何急に…」


優真「好き」


春香「優真、どうしたの…?」


優真「春香が、好きだよ」


春香「優…真…?」


優真M

この時本当は、俺の左目は世界の色を少しずつ失っていた…

だから、見えなくなる前に


伝えなきゃと思ったんだ…。


春香「優真…私も優真が好き」


春香「好きだよ」


優真「…明日から目の事で東京に行かなきゃならないんだ…多分1週間ぐらい帰って来れない」


春香「…なら、夏休みの初めは私だけで楽しんじゃうね」


優真「宿題、一人で頑張ってくれ」


春香「丸写しさせてくれる約束でしょ?」


優真「努力する」


春香「連絡、してくれる?」


優真「できるだけ…」


春香「そっか…帰ってきたら、ちゃんと教えてね…」


優真「…わかった」


春香「約束」


優真「やくそく…」


優真M

春香はそっと小指を差し出した。

小さく指切りをして、もう一度好きだと伝えて、

その日、何年ぶりかに手を繋いで家に帰った…。


翌日、目の精密検査のため病院へ向かう朝。

春香は柄にもなく窓から俺を見送って

「いってらっしゃい」



と一言だけメッセージを送り、手を振っていた。


俺は「行ってきます」とだけ返信をして、小さく手を振った。



___



春香M

「久しぶり。久しぶり?なんか毎日顔合わせてた優真に言うの、すごく違和感…

病院、随分かかってるんだね…。

もう夏休み終わっちゃうよ?ずっと連絡来ないし…早く帰ってこーい…」


優真「帰れるなら、帰りたいよ…」


優真M

精密検査の結果、やはり俺の目は原因不明で、

見えていたはずの右目の視力も急激に低下し、痛みは今も続いている…

医者もこんなに急激な視力低下する例はほとんど診たことがなく…

僅かに残った両目の視力では

人の顔や文字がほとんど認識できなくなってしまった。

メガネをかけてみたけれど、視界が酔ってしまう…

だから、春香からのメッセージを読むことすら困難で、連絡しようにも画面の文字がわからない…


こんな状態で電話をしたところで、

嘘をつけば察しのいい春香には直ぐにバレてしまう…


そして、約1ヶ月に及ぶ検査入院を経てひとつ分かったことは、角膜移植をすれば今の状態よりはマシになる

というもので、決して治る訳では無いということだけ。


それでも、今より悪くなる事を防ぐには、

それしか方法がなかった…


優真「春香、怒るだろうな…」


優真M

入院中に角膜の移植手術を受け、経過観察の後やっと退院できる頃には夏休みは終わりを迎えようとしていた…



夜、通話にて____



優真「…久しぶり」


春香「…おう」


優真「ごめんな夏休み終わっちまった」


春香「優真が居なくても、ちゃんと宿題やったよ」


優真「遊びには?」


春香「友達と行った」


優真「思い出、作れた?」


春香「…全然」


春香「優真が居なかったから…」


優真「ごめん…」


優真「明日帰るよ」


春香「…夏休み、終わっちゃうよ」


優真「ごめん…」


春香「もう、どこにも行かない…?」


優真「行かない…」


優真M

行けない…


春香「1人に…しない?」


優真「しない…」


優真M

きっとさせてくれないだろう…


春香「埋め合わせ、ちゃんとしてね…」


優真「わかった…」


春香「じゃあ、待ってるね。帰ってくるの。」


優真「…ありがとう」


優真M

ありがとう。

そう言って、電話を切った。



翌日、好きと伝えた公園にて____



春香「おかえり」


優真「…ただいま」


春香「…何となく、おばさんから聞いちゃった」


優真「…」


春香「目、ほとんど見えなくなっちゃったんだね…」


優真「角膜移植で、多少は視力が回復したけど…完全に戻ることはないって。」


春香「聞いた…」


優真「叔父さんにも、就職の話は無かったことにしてもらった」


春香「それも、聞いた」


優真「卒業したら、東京で暮らす…この目がいつ見えなくなるか分からない…いつでも病院に行けるように…」


春香「……それは、聞いてない…」


優真「だから…卒業したら…」


春香「嫌だよ」


優真「え…」


春香「1人にしないって、言ったじゃん…」


優真「…」


春香「置いていくな…連れて行ってよ…」


優真「迷惑掛ける…」


春香「迷惑なんて思わない」


優真「俺が嫌だ…」


春香「置いて行かれるのも嫌だ…」


優真「今は経過観察で退院出来たけど、今度どうなるか分からない…」


春香「…見えなくなるの…?」


優真「分からない…だからいつでも病院に行けるように、ここを出ていく…」


春香「私は…一緒に行っちゃダメなの…?」


優真「…俺のためにお前の人生を無駄にできない」


春香「私は!(泣きながら)……私は、優真がいないと、楽しくない…優真が一緒じゃないなら、何しても楽しめない…!」

(春香はしばらく泣きの演技を入れて下さい)


優真「俺じゃなくてもいいだろ…!こんな、好きなやつの顔も見えなくなるようなやつ…最低なだけだろ…」


春香「…優真が私の顔を見れなくなったって…声が聞ける、手を繋げる…一緒に歩ける…それじゃ、ダメなの?」


優真「俺は、お前に…春香に幸せになって欲しい…俺じゃ幸せに出来ない…」


春香「(被せて)私の幸せを、優真が勝手に決めないで!」


優真「…!?」


春香「私の幸せは、私が決めるの…それが例え優真に言われた事でも、私にとって幸せじゃなければ、それは私の幸せじゃない」


春香「だから、勝手に決めないで…」


優真「…ごめん…でも…」


春香「…優真、私の事、好き…?」


優真「好きだよ…」


春香「私も好き。」


春香「優真、優真の目がどうなっても、私は優真の隣に居たい。それじゃ、だめ?」


優真「…」


春香「(強く決心して)……よし。優真」


優真「…?」


春香「優真の人生、私に頂戴」


優真「…え、お前、何言って…」


春香「私の幸せは、優真の隣にいること。一緒に居られること。だから、私の幸せのために、優真の人生を私に頂戴」


優真「…なんて傲慢で強欲な…」


春香「目が見えないとか、関係ないの。私が目になればいいだけじゃん!」


優真「お前、そんなに行動力あったか……?」


春香「やればできる子なの。やらなかっただけなの。」


春香「だって、優真優しいから、私を甘やかしてくれるから、つい出来るのにやらなかったの」


優真「…俺の今までの苦労を返せ…」


春香「お、やっといつもの感じになった」


優真「お前が突拍子もないこと言うからだろ…」


春香「…でも、私本気だからね」


優真「…お前、ほんとに馬鹿だな…」


春香「…馬鹿じゃなくて、優真が好きなだけだよ」


優真「…でも、ごめん…やっぱり一緒には居られない…」


春香「(小声で)……ばか」


優真M

春香はぼそっと何かを言い残し、その場を去ってしまった。

その後春香からの連絡は、ぱったり途絶えてしまった…


これでいい…


好きな女を幸せに出来ないなら、

離れた方がいい。


瞬間、頬を1粒の涙が伝っていった…



春香M

勢いで逆プロポーズをして見事に振られたあの日から、

優真とは連絡を一切とっていない。

学校で顔を合わせても会話はない…

周りからは別れたのか?とか言われるけど、そもそも付き合ってないとキッパリ言い捨てて、何となく周りを黙らせた。


そんな生活が続いて、気が付けば卒業式…


私たちは、別々の道を歩こうとしていた…


優真M

目のこともあり就職はできず、それでも、何とか視力の低下がおさまり、俺はこの目でも何とか通学できる短大へ進学する事にした…。

いつまた視力が落ちるかわからない。

いつでも病院に行けるように…

春香を自由にするために…


長い校長の話を右から左へ聞き流し、

卒業生代表が証書を受け取り、門出の言葉を伝え

式は驚くほどあっさり終わった。


春香M

私はいつまで経っても進路が決まらず、ついに親を混じえての進路相談が行われてしまった…

いつもなら優真を頼れたのに、何をどう決めればいいかも分からず、結局短期の派遣会社に務めることになった…

優真が居ない。それだけで、私はポンコツになってしまう…

分かっていたこととは言え、情けないような…でも、自業自得だ。


優真「…」


春香「あ…」


優真M

久しぶりに声を聞いた気がする。


春香「…卒業、おめでと」


優真「おめでとう…」


春香「短期の派遣会社で働くことになったよ…」


優真「…そうか」


春香「…優真は、結局行っちゃうんだよね…」


優真「…あぁ。」


春香「…私が居なくても…平気?」


優真「…」


春香「…」


春香「たまには、電話してきてね」


優真「おう」


春香「…じゃあ、バイバイ」


優真M

またな。と言えないまま、3年間通った校舎を後にする。

翌日、俺は逃げるように家を出た…

春香に何も伝えずに…


春香「…ばか優真」



数年後_____



優真M

術後良好にみえた両目の視力は、

東京に来てしばらくしてから急激に低下してしまった…

移植した角膜は現状問題ないらしく。ストレスが原因かもしれないと、

心療内科を勧められたが、どうにも行く気にはならなかった…


僅かに残った視力で街を歩く。

人にぶつかり、謝ることが増えた…


生活が、どんどん困難になっていく…


優真「疲れた…」


目の前の赤信号が、呼んでいるように見えた…


(少し間を開けて)


春香「優真!!!」


優真M

春香の声が聞こえた気がした…


優真「…!?」


優真M

吸い寄せられるように赤信号を渡ろうとした俺を、

誰かがグイッと引っ張った。

誰かは分からない。ただ、懐かしい匂いと、懐かしい声がした…


春香「優真…ダメだよ…」


優真「はる、か…?」


春香「うん。」


優真「なんで…」


春香「……あれから貯金して、おばさんに優真の居場所聞き出して…」


優真「…」


春香「やっと見つけたと思ったら…今度は、もう会えない場所に行こうとするから…」


優真「疲れたんだ…」


春香「嫌だよ…今度こそ、会えなくなる…そんなの嫌だ…」


春香「迷惑なんて思わないって…言ったじゃん…遠くに、行こうとしないでよ…」


優真「…ごめん……ごめん…」



春香の家にて____



春香「…落ち着いた?」


優真「少し…」


春香「…ねぇ、優真」


春香「一緒に暮らそ?」


優真「…ダメだ」


優真「俺は、春香を幸せに出来ない」


春香「私の幸せを優真が決めないで」


春香「あの時言ったよね、私の幸せは私が決めるって。優真の目が見えなくなったって関係ない。私の幸せは、優真の隣に居ることだよ。」


優真「…でも…」


春香「ねぇ、優真、私の幸せのために、私と一緒にいてよ…」


優真「……」


優真M

本当に…春香には敵わないな…


春香「優真…」


優真「迷惑掛ける…」


春香「いいよ。」


優真「辛い思いも沢山させる…」


春香「わかってる。」


優真「嫌になる…一緒に居ることが、いつか、辛くなる…」


春香「1人より辛いことなんてないよ。」


優真「…春香…」


優真「本当にいいのか…」


春香「優真の隣にいたい」


優真「(啜り泣く)」

※出来ればしばらく泣きの演技を入れてください


春香「2人なら、怖くないよ……」


春香「ずっと優真がいてくれたのに、私、1人になって、ずっと怖かった…優真は?」


優真「不安…だった…目もどんどん見えなくなって、何をするにも不自由で…病院が近いってだけで…春香に、迷惑かけたくなくて…」


春香「うん」


優真「俺がそばに居たら、春香は俺の事を優先するから…春香の幸せを、奪っちゃいけないって…だから…」


春香「うん」


優真「春香が、好きだから…」


春香「…うん」


優真M

春香はそのまま何も言わず、優しく抱きしめてくれた。

心臓の音ひとつひとつが、俺を落ち着かせてくれる…

安心する…呼吸音が、鼓動が、ゆっくりと心の濁りを、洗い流してくれるようだった。

こんなにも暖かい存在だったことに、なぜ今まで気が付かなかったのか…


俺は、春香に救われていたんだ…



春香「優真、一緒に暮らそう?」


優真「…」


優真M

俺は、無言で首を縦に振った。




数年後______




春香「結局、視力低下の原因はなんだったの?」


春香「私と生活するようになって、何となく視力戻ったよね?」


優真「あー…うん。やっぱり分かる?」


春香「わかるよ。」


優真「医者いわく、ストレスは万病の元。ってさ」


春香「え…ひとりが寂しくて、視力が落ちました…?」


優真「…お恥ずかしながら」


春香「…ぷっ…なにそれぇ!!可愛いかよぉ!」


優真「ストレスもあったけど、移植した角膜が合わなくなってたのもあるらしい…拒絶反応…?みたいな?細かい事言われ過ぎて忘れちまった」


春香「でも、少しでも見えるようになってよかった」


優真「まぁな…」


春香「…明日はいよいよ結婚式だねぇ」


優真「やらなくていいって言ったのに…」


春香「だーめ。優真には、私の幸せにとことん付き合ってもらうの!」


優真「…どこまでもお付き合いしますよ…」


春香「ふふっ。…ねぇ、優真。」


春香「これから先、何があっても、私は優真の隣にいるよ」


優真「…」


優真「………変な顔…」


春香「なにぃ!?良いこと言ったのに、なんでそこでその言葉になるわけ!?」


優真「…知らなかったのか?今のは照れ隠しだ」


春香「ドヤ顔で何言ってんだ!バカ優真!」


優真「叩くな!痛い!…冗談だよ!」


春香「今のタイミングで冗談言えるなら…うん、いつもの優真だ…」


優真「春香、ありがとな」


春香「…優真の人生をもって、埋め合わせしてもらうからね」


優真「わかってるよ」


春香「ずっと、隣にいるからね」


優真「俺も、春香の隣にいるよ」


春香「約束」


優真「約束だ」


優真M

あの時とは違う。

今度はしっかり指切りをした…


この先、大変な思いをさせるだろう


それでも春香は、俺の隣にいることを望んでくれる…

だから、俺もそれに応えよう。


春香「優真、好きだよ!」


優真M

俺が今から春香に渡せるもの、

全部、春香の幸せのために使おう。

今度こそ、胸を張って言うんだ。


優真「春香、こんな俺だけど、ずっと隣に居てください」


春香「そんな優真だから、ずっと隣に居たいんです」


優真「…格好付けさせろよ…」


春香「やーだよ」


優真M

無邪気に笑いながら、春香はそっと手を握ってきた。

この先も、2人で笑いながら隣を歩く。

俺たちの未来は、きっと今と変わらず、

こうして笑いあっているだろう。


春香M

きっと、これからも

お互いに隣を歩いていける

だからきっと、これからは、今以上の幸せが待っているんだ。



優真「俺の人生全部で、春香を幸せにするよ」


春香「…言質取りました」


優真「なんとでも言え」


春香「幸せに、してね」


優真「おう」


優真M

きっと、これからも、隣を歩く。

その先には、幸せが待っている



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