第55話 新世界の始まりとスコティッシュ・フォールド最後のご挨拶(3)
ボッツとの対決の後、私は猫神様との約束通り、人間に転生した。しかしあろうことか、それは山田蕗の娘…つまり『前世の私の娘』としてだった。これまた何でそんなややこしいことするの?
そして私が何となく猫としての日々を思い出しかけたのは物心ついてからのことだった。
三歳のある日、マンションの近くの公園で
母も意味不明で困ったらしいが、私自身にとっても意味不明だったのだ。懐かしいような悲しいような変な気持ちで胸が一杯になり、涙が止まらなくなった。
「ポンター!ガンチュー!」と泣き喚く私を母は持て余した…と聞いている。
それから少しずつ思い出した。猫としての楽しかった日々、ガンツの愛情やポンタとの冒険、セージ、ミケ、トンカツ…あの頃の仲間達がどんどん胸の中に溢れてくる。
時々リンゴ公園を訪れてみた。本来なら取り壊されていた筈の公園が実在している。
坪井市長…すなわちあの魔王ボッツの生まれ変わりであり、ややこしいことに私の祖父となった彼はその後、病を克服して市政に取り組んだ。
彼はもちろん動物愛護も大きな方針のひとつとして立ち上げた。私たちの街は「殺処分ゼロの街」を掲げ、「地域猫」を保護する先進的なモデル市となったのだ。
野良の猫や犬はできる限り去勢の処置をされ、このリンゴ公園を中心に保護されている。
坪井家のこと…これもご報告せねばいけませんね。元の私であり私の母でもある(ああ、ややこしい)、山田蕗さんは心臓の検査で早めに欠損部分を見つけることができた。そして無事に高校へ進学し、初恋の相手である同級生の坪井健三君と目出度く結ばれたのである。やるじゃん、母…というか私。
私は蕗の娘として平和な家庭に生まれることができた(両親にない天パーの特徴を持って…たぶんこれはフールのフワフワや折れ耳が引き継がれたのではと…まあ、いいんだけど)。
つまり坪井市長は私のお爺ちゃんで市長職はだいぶ前に引退したけれど、今は保護センターの所長を務めている。
保護センターは今でも野良猫や犬を保護しているけれど、その役割は主に里親捜し、そして地域猫に順応させることだ。猫好きのお祖父ちゃんが毎日猫に囲まれて猫の世話をしている。大病を克服した人とは思えないほどツヤツヤの顔色で現役バリバリ続行中である。ボッツ健在というところか。まあ、今は破滅の大魔王ではなく野良猫たちの保護者だけれど。
私がほぼ完全に前世の猫記憶を復活させたのは小学校高学年くらいだろうか。ただそれ以前もゴキブリやクモやゲジゲジを手づかみしたり、魚や鳥の骨をバリバリかみ砕いたり、塀や木にヒョイヒョイ登ったり…母はだいぶ心配したようだ。「まるで野良猫のような娘」の様子に。
中学校に入ってからは気をつけて「猫が出ない」ようにしていたから、「少し変な美少女」くらいの評価に定まった。「美少女」というのは決して自分で言ってるわけじゃないよ。周囲の評価だ、マジ。
それでも本日は失敗した。あまりに嬉しくて初対面の男の子の顔をペロリと舐めるという大失態だ。仕方ないよね。だってポンタだよ。あれだけ一緒に冒険を乗り越えて、最後は私のために命をかけてくれた男の子が人間として私の目の前に現れたんだ。興奮するよね。
小中学校の頃はあの時の猫たちに会えないかとリンゴ公園によく行った。でもそれが叶わぬことだとは自分でもわかっていたんだ。あれから30年以上たっていることになる。猫の寿命は長くても25年、普通は15年くらいだ。野良猫の寿命はもっと全然短いらしい。
でもこの公園にいると、あれはもしかしてミケの子供(孫)?とか、あれはトンカツに似てるなあ、とかそういう猫が時々いて楽しい気持ちにさせてくれる。その可能性だってもちろんあるよね。
そういえばこの前、スコティッシュ・フォールドっぽい子猫がいた。私は絶対フールの子孫だって思ったんだけど。
…寂しいなあ。みんなに会いたいな。ポンタには会えたけどね!(人間としてね)
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