第51話 最終戦争と追憶のコーニッシュ(10)
「さて、猫に戻れないのはフールもじゃ」
ボッツが去って、二人きりになると、猫神様がしれっと言うので私はビックリした。
「何で?何で私も戻れないの?」
「というか、わかってるじゃろ。お前は役割を終えた。身体をそろそろフール本人に返してやりなさい」
私はギクリとする。
「フールは私じゃないの?」
「お主は
「いやだよ!ポンタにもガンツにももう会えないの?そんなの嫌だ!」
私は泣きわめいた。
猫神様がようやく優しい目をして私を諭した。
「こんなにも街の猫を愛してくれてありがとう、蕗。だがワシもお前を人間界に帰す義務がある。理解しなさい」
「子猫のフールは助かるの?」
私はヒクヒクと泣きながら訊いた。
「うむ。元の子猫に戻る。お前の記憶はなくなるからトラックから落ちる前の状態だな。ガンツが大切に育てるだろうて。ちょっと違和感はあるだろうが」
「…ちょっとじゃないと思うけど」
猫神様は何も言わずに微笑む。
「私は山田蕗に戻るってわけね」
猫神様がさらに言いにくそうに私を見る。
「その予定じゃったのだが…」
「えっ?違うの?」
「いや、蕗は4年後に死ぬはずじゃから、そこへお前の魂を…と考えていたんじゃが」
猫神様が私を横目で睨む。
「お前、ワシに無断で蕗を助けたじゃろ」
「えええっ。あのアナグラム?」
私は確かに蕗の家に手がかりのアナグラムを残した。当時ミステリーにはまっていた蕗なら、あるいはと思ったのだが。
どうやら蕗は本当にあのアナグラムを解いた…とは言えないみたい。
(SINZO KENSA)→「心臓 検査」だったはずだが、蕗はこの時恋愛脳が強く働いていた。彼女の回答は(KENZO SINSA)→「健三 審査」となった。恥ずかしすぎる。
その週に片思いの相手、坪井健三くんの剣道昇段審査があり、彼女は「これは運命だわ。猫ちゃんが私にお告げをしてくれたのね。昇段審査の会場で何かあるんだわ、キャッ」っと山田蕗らしい解釈をして、会場に乗り込んだ。馬鹿じゃないの、自分だけど。
だが、それが結果的に幸いした。健三くんの剣道着を見て興奮した蕗はホントに具合が悪くなって、母親に電話で助けを呼んだ。
「健三くんを見ていたら、胸がドキドキして恋の病でおかしくなった。迎えに来て」
私が親だったら、心臓と同じくらい娘の頭の心配をするよ。とにかく母親は審査会場に蕗を迎えに行き、そのまま病院に寄った。たまたまいい医者のいる病院だったらしく、蕗の心臓の欠陥が判明したというわけだ。
とすると…私は?私はどうなっちゃうの?
「蕗は死なない。だからお前の戻る場所は別に用意する。少し待って貰う」
どんな人間に生まれ変わることになることやら…ハア。
それから猫神様が言いにくそうに切り出した。
「…今夜、死んだ猫は一匹だけじゃった。それは癒やせない」
「死んじゃった猫は駄目なんですね。誰が…」
そこまで言って私はハッとする。まさか…
「ポンタ!ポンタじゃないでしょ?ねえ、猫神様!」
「ポンタは死んだ。あの『賢者』の力をその身に直接流したのじゃ。耐えられなかった」
「駄目だよ!治して!蘇らせて!神様なんでしょ!」
私はギャーギャーと喚いたが、猫神様は表情を動かさない。
「まあ、聞け、蕗。お主は人間界に帰す。どういうタイミングになるか、わからんが次に生まれるときは人間じゃ」
「やだ!人間界なんて行かない!それよりポンタを治して!神様!」
まだ私はワンワン泣きながら駄々をこねる。
「…聞けってば。ポンタも今夜の功労者じゃ。奴の魂も保管済みじゃい。アレも人間界に送る」
あまりに意外な猫神様の言葉に、私は涙でグシャグシャの顔から全力で「?」を発信する。
「賢者の力を浴びすぎた。猫として生まれ変わるにはステージが変化しすぎたのじゃ。だからお前と一緒に人間界に送ることとする。お前は猫の世界でポンタの世話になったじゃろう。今度はお前がポンタを助けるのじゃぞ」
猫神様はすごく複雑で意味不明なことをサラリと言った。
「何かもうよくわかんない!嬉しいんだか悲しいんだか。ねえ?これはハッピーエンドなの?それともバッドエンドなの?ねえ、誰か教えて!」
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