第50話 最終戦争と追憶のコーニッシュ(9)

 気がつくと果てしない草原が続く場所に私はいた。草原の真ん中にテーブルがひとつ、シュールな光景だ。


 テーブルに着いているのは私と猫神様、そしてボッツだ。


 ハッと自分を見下ろすと、あの山田蕗の家で見た姿、蕗と猫の中間の姿だ。


 さすがにボッツは生気なくうなだれている。


「さて、戦後処理じゃ」

 猫神様が宣言する。


「戦後処理?」

 私はボッツをチラリと見た。


「この後、どうするかじゃ」


「猫神様、あの、今夜ケガした猫は…」


「すべて癒やしておくから安心せよ」


 私はホッとして胸をなで下ろす。


「だが、すべてが元通りとはいかん。まず其方らじゃ」


 ボッツが初めて顔をあげた。

「俺が何をしたかは自分でよくわかってる。どういう罰でも受けるさ」


「お前は猫殺しの罪がある。残念ながら許すことは出来ん」

 猫神様が無表情にボッツを見る。


 私は思わず口を挟んだ。

「ちょっと、猫神様!違うでしょ!」


 異議を唱えられるとは思わなかったのだろう。猫神様が椅子からちょっとずり落ちそうになった。

「な、なんじゃ。殺されかかったくせに」


「そもそも、何で私やボッツがこの力を得たのよ」


「えっ…」


「猫神様のミスでしょ。猫神様の失敗で力がボッツのとこに行っちゃったんでしょ」


 猫神様が痛いところを突かれた顔になっている。

「そうじゃけど…お前はボッツをどうしたいのじゃ」


「長生きして、どういう形でもずっと生きて、街の猫のために尽くしてもらいたいです」


 猫神様もボッツも私を目を丸くして見つめる。それから猫神様が息を深く吐いた。


「…フー、わかったわい。ちょうど今、魂が離れていくニンゲンの依り代がある。好都合なことにこの街の猫が心配で心配でたまらない、という人物じゃ」


「人物って、まさか、それ…?」


「うむ、まあ、前から目はつけておいたのじゃ。市長のことは」


「…」


「ボッツよ。この後、お前は死線を乗り越えた市長としてよみがえる。これ以降、街の猫のために全力で働くのじゃ」


 ボッツは椅子から立ち上がり、猫神様の前で跪いた。

「仰せの通りに」


 それから立ち上がって、私の前でもう一度跪く。

「姫様、この恩は忘れません」


 すっかり改心したボッツをポカンとして見ていたら、ボッツが顔を上げるとき微笑んで小さな声で私に言った。


「ありがとな、助けてくれて。フール」


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