第48話 最終戦争と追憶のコーニッシュ(7)
ボッツに突進しながら、私は猫神様の言葉を思い出す。
とにかくシッポをボッツより先につかむ。ボッツもそのつもりだろう。私はシッポを隠すように下げた。
セージの煙幕が消えると、もうそこはボッツの間近だった。ボッツが凄い目で私を見る。
だがそこへあのラムキン、縮れ毛のモネが私の目の前に現れた。私の周囲やボッツの親衛隊に大柄猫が多い中、一際小柄なモネは今までこの機会を狙ってボッツの足下に潜んでいたらしい。
「チビ猫!覚悟しろ!」
しまった。上ばかり見てて、油断した。目の前で鋭い爪が振られ、私は思わず目をつぶった。
「グエッ!」
モネの鋭い爪の攻撃を受けて倒れたのは、私ではなくてダビだった。ダビも私の身代わりになるつもりで側にいたのだろう。
「ダビッ!」
「この裏切り猫め!邪魔しやがって」
モネが忌々いまいましそうに叫んで、もう一度私を睨む。
「おい、モネ。こっち見ろ」
思わず、横を向いたモネの身体が金縛りのように固まった。そこにはルノーがいて、得意の視線攻撃を仕掛けたのだ。ルノーが固まったモネを前足で突き倒す。
「ダビ、さすが俺の相棒だな。…んぎゃっ!」
ルノーがカッコつけて何か言っている間にボッツの右前足が一閃される。
ルノーもダビの身体の上に放り出された。モネとダビ、ルノー、三匹重なってそこに倒れた。
もう私とボッツの間には誰もいない。
「ボッツ、大人しくしな。あんたは私が助けてあげるよ!」
ボッツは答えず、唸る。
「グアアアアアアアッ!」
接近戦、接近戦…猫神様にもらったアドバイスを思い出して、ボッツの身体の下に潜り込む。確かにこのポジションなら私が有利…と思ったら。
ニヤリと笑ったボッツがヒョイと立ち上がる。
「立つんかい!」
立ち上がったボッツの長い前足が私のシッポをつかむために伸ばされる。
危ないっ!と思った瞬間にポンタが後方から跳躍してきて、そのままボッツの胸に頭突きを浴びせた。ボッツは後ろによろめいて、前足がシッポをつかみ損なった。
「邪魔するな!」
ポンタがボッツに張り飛ばされて飛んでいく。
「ウニャオン!」
「ポンタ!」
後ろで倒れたポンタも気になるけれど、私はシッポが掴まれないようほんの少しだけ後ずさった。
立ち上がったままのボッツが距離を縮めて、後ろ脚で私を踏みつけようとした。
いつの間にかボッツの身体が巨大化している。身長は犬より大きく、後ろ脚も人間のサンダルくらいある。ルール違反じゃない?猫神様?
…ボッツの低い声が上から聞こえた。
「踏み潰してやる。フール」
「ニャン!」
こんなのに踏まれたら死んでしまう。私は悲鳴をあげて、一発目のスタンピングを避けるが、二発目が脇腹をかすった。
「ウギャ!」
ボッツは三発目のスタンピングを狙って、大きく後脚を踏み出す。やばい!
「フール!」
ガンツが私をかばって上に覆いかぶさった。ボッツはそのままガンツの背中を踏みつける。
「ぐわっ!」
ガンツが呻いた。
その時、ボッツの右側、まったく誰もいない場所からいきなり私の声が聞こえた。
「ボッツ、こっちだよ!」
ボッツが唖然として右側を向くと同時に、ホクサイの声がガンツの腹から響く。
「姫様、今です!」
私はボッツが横に気を取られているうちに、ボッツのシッポの目の前まで
しかしギリギリ届かない。手の短い私には巨大なボッツのシッポがなかなか高い位置にあるのだ。
「もう少し…」
私がさらに猫背を伸ばす。あと一息で私の勝ちだ。
だが無情にもボッツのシッポはヒョイと私の手から逃げ、振り上げられた。今のボッツは背が高い。
「しまった!」
「フール、ここまでだ」
ボッツが私を足で押さえつけ、私のシッポに手を伸ばす。
万事休すか…。
「駄目だ…ごめんなさい、みんながあんなに頑張ってくれたのに。街の猫を守れなかったよ」
私は目を閉じた。
「あきらめるな!フール!」
いつのまにか後方から近づいていたポンタがボッツのシッポをつかんでいる。
「放せええっ!」
バランスを崩したボッツが焦ってブルブルと激しく振りながら、シッポを光らせた。
「ポンタ、危ないよ!放して!」
私が叫んでもポンタは傷だらけの顔で食らいついている。
ブルブル振り回されるポンタのシッポをこれまた傷だらけのガンツがつかんだ。
「フール、俺のシッポをつかめえっ!」
血だらけ傷だらけのガンツの顔を見て、私は泣き叫ぶ。
「父さんっ!」
「早くっ!」「急げっ!」
私はガンツのシッポをつかむ。その瞬間、私の勝利となる『猫直列』が完成した。
ボッツから私までのラインが黄金色に光り輝いた。
「グワアアアアアアッ!」
ボッツが最後の力を振り絞って足掻くが、いつのまにかミケ(猫神様)がボッツの耳元にいる。
「ボッツ。終わりだよ。眠りなさい」
ミケのソプラノを聴いてボッツが目を閉じ、そしてドッと倒れた。
同時に私も含めて、直列していた猫たちもドサドサと地面に投げ出された。
ポンタとガンツは耳と目と鼻からドクドクと血を出している。
「ポ・ン・タ…ガ・ン・ツ…」
公園中の猫が息を飲んで見つめる中、私は意識だけが空に昇っていく。
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