第47話 最終戦争と追憶のコーニッシュ(6)
その2時間ほど前の夕方、ミケ(猫神様)は私の作戦に難色を示した。
「おぬしの言うとおり、『賢者』と『愚者』の戦いはシッポの取り合いじゃ」
「はい。そんな感じらしいですね。やったことないんですけど」
私は人間時代の運動会にそんな種目がなかったか思い出す。
「うむ、大筋では正しい。だがよく聞け、フール」
そうだ。小学校の時に紐みたいのをお尻につけて、きゃっきゃっと取り合いした記憶がある。私は基本逃げる専門だった。
「神の力は賢者にしろ、愚者にしろ普通の猫には受け止められぬ。現にボッツも壊れかかっておる」
「…」
「ああ、お主は別じゃ。何しろ中身がニンゲンじゃからな」
つまり私の仮説は正しかったということになる。
「注意せよ。お前以外の猫がボッツのシッポに手を出せば、身の破滅じゃ。ボッツに宿ったときの『賢者』パワーと今の力はくらべものにならぬほど、強力でかつ邪悪なものになっている」
戦いの直前にメチャメチャ肝心なことを聞いた。
「どうしても私自身がボッツにさわんなきゃ駄目ってことですか…ハア」
「ふむ。そうでもない。大魔方陣『猫直列』がある」
「何ですか。その大層な」
ミケ(猫神様)がそのヒゲをチョロリといじって私をジロリと見た。
「ボッツのシッポにさわった誰かのシッポをお前が触る、ということじゃ。間に何匹入っても構わん」
いいこと聞いた。じゃあ身体能力のあるサイゾウあたりにそっと近づいてもらってボッツのシッポ握ってもらえばいいじゃん。
私がニヤリとしたのを見て、猫神様はフフンと鼻で笑う。
「ただしその『猫直列』、お前とボッツの間に入った者はただでは済まん」
「…どうなるんですか?」
「死んじゃうかもな」
あんまり事もなげに猫神様が言うので、私は腹を立てる。
「簡単に言わないでください!駄目じゃないですか!」
「なーに、その数匹の犠牲で猫社会が平和を取り戻すのだ。安いもんじゃろう」
「馬鹿言ってんじゃないですよ。そんなだから信仰心が失われるんです!」
まさか子猫に反論されるとは思っていなかった猫神様がビックリした顔になった。
「そ、そうか。すまん。まあ、最悪そういう手段もあると覚えておくとよい。猫直列の場合、ボッツに近い猫から被害が大きくなるからな。覚えておけ。一応な」
結局どんな手段を使っても今夜神の力を取り戻したい猫神様がわざとらしく念をおした。
私は話を変える。もうひとつ聞いておきたいことがある。
「ねえ、猫神様。以前ボッツと私どちらの味方もできないって言ったけど、今は私にアドバイスしてくれてるでしょ。なぜ?」
「ボッツは罪を犯した。『同族猫殺し』という大罪じゃ」
とにかくこの間の森の件で猫神様は私の方に味方することになった。それほど『猫殺し』は重い罪なのだ。
さて猫神様の説明によれば、私がボッツのシッポをつかめば『賢者』の力がごっそり私に流れてくる。ボッツがつかめばその逆だ。
私に流れ込んできたボッツの力は相殺され、それから浄化され「神力」となって、神聖な力を持つに至る。
「だが、逆にボッツがつかんだら…」
私はのどをゴクリと鳴らす。
「つかんだら?」
「ボッツの中で黒濁化される。それにボッツが耐えられれば、それで本当の魔王誕生じゃ」
猫神様がミケの顔で怖いことをサラッと言った。
「…ボッツが耐えきれなかったら?」
私は恐る恐る聞いた。
「黒濁した神力は漏れ出て街を包む。街の猫は全滅かもしれん。そこにいる猫は耳から血を吹いて死ぬ。隣町くらいまでは影響があるじゃろうな。人間にも悪影響があるやもしれぬ」
怖すぎるよ。猫神様が続ける。
「ただこれ以上ボッツを放置しておけば、その被害はこの近辺だけでは済まなくなる。危険があるからといって放っておくわけにはいかんぞ、フール。今夜は世界を救うのじゃ」
聞けば聞くほど私は気が重くなってきた。勝てる気がしない。
「だいたいシッポをつかんだ方が勝ちだとか、リーチのあるボッツの方が圧倒的有利じゃないですか」
「ふむ、だが
「そこまで接近するのが難しいんですよ。体力的にはこっちが圧倒的に不利だし」
「猫神様~。どう考えても荷が重いよ~」
私はすっかり泣きべそモードだ。今夜の作戦、やっぱり止めちゃいたい。
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