第45話 最終戦争と追憶のコーニッシュ(4)
いよいよ今夜は新月の夜、小学校のチャイムが鳴る。
夕焼けに染まるねぐらの外に出ると、そこにはミケがいた。
「フールよ。いよいよだな」
あれ?誰だ、これ。
「…猫神様?」
「うむ。ワシの最後の力を振り絞った。妖猫ミケランジェロの身体を依り代としてここまで移動してきたのじゃ」
「じゃあ、猫神様…」
私はねぐらの前、私と猫神様しかいない場でひとまず自分の考えを猫神様に話した。
「ふうむ、大筋では正しい。…だがよく聞け、フール」
そして月のない夜が来る。
「おい、フール。ホントに行くのか?」
ポンタがやはり心配そうだ。
私だって出来ることなら行きたくない。魔王と対決だなんて荷が重いよ。
「危なくなったら全力で逃げるよ」
「お前の全速力に追いつけない猫はいないよ、フール」
「ポンちゃんが背負って逃げてくれるから大丈夫」
私は無理に笑顔を作ってみた。
ガンツは今の今まで反対していた。
「ふう…。いいか、フール。危ないと思ったら、街の猫の運命なんてどうでもいいから逃げるんだ。俺やセージが周りにいる。とっとと下がって俺に替われ。いいな」
ガンツの「街の猫の運命なんてどうでも」のところで、隣で聞いていた猫神様がピクリと身体を動かした。もちろんガンツにはこれがあなたの尊崇する猫神様です、というのは言ってない。
私はガンツの言葉に黙って頷いた。そんな猶予を与えてくれる相手だったらいいんだけど。
新月夜は私の夜だ。メチャメチャ調子がいい。今夜だったらちょっとやそっとの相手に負けたりしない…とは思う。でもボッツだって「苦手は太陽」だってんだから、夜の調子が悪いはずないんだよね。
私とポンタ、ガンツとミケ(猫神様)がそろってねぐらを出発した。
ねぐらを出るとセージとレオが待っていた。
「フーちゃん、無理は禁物ですよ」
「姫様、助太刀に来たぜ」
セージは何か秘密兵器を、レオは腕っ節で助けてくれようとしている。なかなか頼りがいがある。
道々、野良猫たちがどんどん合流してくる。この街の猫の命運を掛けた戦いだということがわかっているようだ。臆病者のダビも緊張を隠せない顔で群れに加わった。
「あのさ、ダビ」
「自分より緊張している者の様子を見ていると自分の緊張は解けていく」の方式は本当だった。私は見たことのないキリッとした顔がおかしくて話しかける。
「なんスか。姫様」
「前に毛並みが汚いとか言ってごめんね。ダビは綺麗なキャリコのコーニッシュレックスだね」
「…こ、こーにっしゅですか。意味はわかりませんが、何かあざす。今日は死ぬ気で戦います」
ダビが口をキュッと結んで私を見た。
いよいよ公園の入り口、私は正面から堂々と入っていった。これは私とボッツの果たし合いなのだ。逃げも隠れもしないよ。何だか少し開き直ることができたようだ。私は顔を上げた。
「ポンタ、ガンツ、よく聞いて。打ち合わせしたとおり今夜は私とボッツ、どちらがどっちのシッポをつかむかっていう勝負なの。でも聞いてね。ボッツのシッポ、私以外が触ったら、ただじゃ済まないから、絶対つかんじゃ駄目だよ」
ガンツとポンタが聞いてないぞという顔を見合わせる。
「…」
「ポンタ、これはフリじゃないからね」
「…わかってるよ。バカじゃねえの」
ポンタがむくれて、私はすっかり落ち着いた。ホントに触っちゃ駄目だからね、ポンタ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます