第44話 最終戦争と追憶のコーニッシュ(3)

「だから、そこに猫神様がいることが必要なの。何とかあの娘、隣町のあのニンゲンの女の子、わかる?」


 私はミケと作戦会議中だ。


 次の新月の夜に公園には役者が揃うことが肝心だ。ふきというより猫神様にいてもらわなくちゃいけない。ただこの間聞いたとおり、今の猫神様の力はお告げをするのさえ厳しいほど弱まっている。何とかここまで来て欲しいんだけど。


「でも、フーちゃん姫。どうやったら…?」


「ランちゃんは近くにいれば猫神様と会話できるんじゃないかな。多分だけど」


 あの時は私が猫神様に召されていくのを傍観するだけだったミケだが、今回は何とか私の作戦を伝えてもらえればありがたい。


 私とボッツの「愚者」「賢者」の力は互角か、どっちかって言えば当夜に限れば私の方に分があると思う。ただし身体能力は段違いだ。ただただ体力で押し込まれたら瞬殺だろう。


 うーん、作戦が必要だなあ。決戦までに猫神様に聞きたいこともある。教えてくれればだけれど。


 後は…私が覚悟できるかだ。







「さあ、聞かせてもらおうか。ボッツと向かい合って、それでどうするつもりだ」

 ガンツが例によってしかめ面で言った。


 私が明後日の新月の夜、いよいよボッツと相対する予定と聞いて心配したポンタやセージ、居候のダビや何故かホクサイも参加して作戦会議だ。というか、雰囲気は私の審問会のようになっている。



 ちなみにホクサイはよほど私やガンツのねぐらが気に入ったのか、頻繁にここに来るようになった。あるいはホクサイなりに私に情報をもたらそうとしているのかもしれない。ボッツの近況はもちろん、その親衛隊、特にあの縮れ毛の猫…モネといっただろうか、ラムキンの動向を知らせてくれる。


 それによればモネは私を執拗に狙っている。今一番注意しなくてはいけないのがモネだとホクサイは言った。


 あと、これは今の私たちには直接関係ないけれど…ホクサイの飼い主の坪井市長が入院したらしい。病状はホクサイではどうにもわからないけれど、街の猫の味方になりそうな人だけにちょっと心配だ。それから健三君のお父さんでもあるしね。






 さて、私の作戦…といっても結構大雑把だ。要するに私の「愚者」とボッツの「賢者」、これは相反する力だけれど、反面引かれ合うという磁石のような性質があると思う。事実私とボッツはこの間の森で相対した時、お互いが通じ合うような感覚を持った。これはボッツも同様だったはずだ。



 猫神様は「シッポをつかむのじゃ」と言った。これがヒントというか、つまり私たちの勝負そのもののはずだ。つまりシッポを掴まれた方の力が掴んだ方に移るのではなかろうか。

 今度の新月の夜、私はボッツのシッポをつかむ。そして神様の力をひとつにまとめて、猫神様に戻すところまでやる。


 ボッツは「助けて」と言った。たぶんもう身体が耐えられなくなるくらいなんだ。私が結構平気なのは要するに中身が本当は猫でないせいに違いない。


 後は猫神様に聞かないとわからない。


 まあ、猫神様がその決闘の場にいれば、ひとつになった力を何とかどうにかこうにか…してくれるんじゃないかな。この辺はまったく大雑把だけど。


 その後ボッツと私がどうなるのかは…これもわからない。


 私はガンツとポンタ、セージ、ホクサイ、ダビにこの力の流れについて説明する。ただし私とボッツの力が統一されたら身体は耐えられないだろうことや、その後私たちがどうなるかも不明だということは言わなかった。言ったら全員が全力で止めるだろうからね。



 しかしポンタはそういうところ敏感だ。たぶん私の顔から変な覚悟を感じ取ったのだろう。

「でも、フール。それでその後お前はどうなるんだよ。お前は無事に済むのか?」


「実を言うと絶対大丈夫!とは言えないけれど、今までも力を使い切ったら眠るだけだったし、ダイジョウブダトオモウヨ」


 私の言葉に心がこもっていないとき、何とはなしに棒読みになる癖をすでに全員が知っている。


「…全然、不安でしかないですね、フーちゃん」

 セージの声にみんな頷く。



 こんな調子でいまひとつフワフワしていてつかみどころのない私中心の作戦会議は進んでいった。


 要するに私がボッツのシッポを掴めるよう、他の家猫を排除して、さらに体格差をくつがえして私の目の前にボッツのシッポがくるようよろしく!という作戦だ。

 

 面目ない。


 

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