第38話 民衆の解放とラムキンの陰謀(3)

 市長が保護センターを訪問するまでの数日間、私たちは相変わらず狭いねぐらとその周辺で窮屈に暮らしていた。いいニュースも入ってこない。公園の水飲み場で野良猫がボッツの親衛隊に袋だたきにされたとか、ボッツがまた家猫の誰かを意味もなく半殺しにしたとか。


 ホクサイから今夜決行の知らせが来たのはそれから一週間後、意外と早かった。


「今夜トショカンの南駐車場で落ち合いましょう」


 私とポンタが近くを飛んでいたトンボを追いかけて遊んでいたら、急にトンボがしゃべってビックリした。凄い技術だ。


「ガンツもセージも留守なんだよ。返事は今でなきゃ駄目?」


 私が聞くとトンボが答える。

「市長がホゴセンターを訪問するのが次いつになるのか、わかりません。なるべく早く解放してあげないと何が起こるか…」


 いつも冷静なホクサイの言葉に少しだけ焦りが感じられる。その通りだ。後ろに伸ばして万が一の事態になったら後悔してもしきれない。


「わかった。俺がガンツとセージに言っておくよ。多分準備は出来てる」

 ポンタが言ってくれて、これで決まりだ。


「ありがとうございます。チャイム過ぎにお会いしましょう」


  すでにトンボはどこかへ飛び去っており、ホクサイのあいさつはまた材木置き場の下から聞こえた。あれはどうやってやるんだろう。





 小学校のチャイムが鳴る頃、私たち4匹はミケの飼い主の家近くに忍んでいた。

 保護センターは待ち合わせ場所の図書館までほんのわずかの距離だが、その図書館がある北町は飼い猫グループの縄張りで危険だし、高級住宅街は私たち野良猫に敷居の高い場所でもある。

 そこでミケの提案どおり、ミケ宅の庭の茂み、人目につかないところにひとまず忍んだのだ。ここなら夕方まで潜んでいて、図書館まで数分でたどり着ける。


「フーちゃん姫、レオのこと頼みますわ」


 その口調に切羽詰まったものを感じ、私は思わず恋愛脳を発動させた。

「まさか、ランちゃんはレオさんのことが?」


 ミケは猫のくせに色っぽく身体をよじって、メロドラマのような口調で語り出した。

「あれは雨のそぼ降る秋のことでしたわ。私がこの庭でミルクティなど午後のひとときを楽しんでいると、そこに枯葉と一陣の風が、ああ、あなたは誰なの。その野性的な瞳とたくましい腕…」


「なあ、この話は次でいいか?」

 ポンタがミケの話をぶった切って、私の顔を見た。

「そろそろ行くぞ。チャイムが鳴る」


 なぜそれが判るのかが判らないが、確かにポンタの言葉から3秒ほどで小学校の長閑のどかな『キンコン・カーン・コーン…』という音が響いた。


「行ってくるね、ランちゃん。必ずレオも助けるよ」


「無理しないで必ず無事に戻ってね。でも絶対レオ様も助けてね」


 矛盾したことを言うミケに見送られて、私とポンタ、セージ、ガンツの4匹はここから400カツブシ(80メートル)ほど離れた図書館へと移動した。


 いよいよ猫友救出作戦の発動だ。


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