第30話 死地からの脱出 オーストラリアンミストの献身(1)

 これはホントの本当に絶体絶命のピンチだ。私とポンタを入れて7匹の野良猫は今、森に潜んでいる。たぶん戦力と呼べるのはポンタとトンカツの2匹、後はあんまり争いの得意じゃなさそうなガリガリとヒョロヒョロ猫ばかりだ。


 そして肝心の私のシッポはどうも本日調子がよくないし、相手は猫の御法度、『昼間は争わない』を無視して襲ってくる。ヘタしたら『殺し合わない』という掟さえどう思ってるかわからない連中ときたものだ。


 敵の家猫の数はよくわからないが先ほどの路地だけでも11匹、さらにこの森の逆方向と別方向に10匹以上で、合計20匹を越えるようだ。さらにあの猫パンチのレオがボス格で控えている。


 状況を分析すると、どうにもこうにも相手にならないという結論になる。



 それにしてもボッツは私を攫ってどうするつもりなのか。

 もしボッツが猫神様の力が分裂して私とボッツに宿り…というストーリーがわかっているとしたら、私の力を手に入れることで『新たな神の誕生』を狙っている可能性がある。どうしたらそうなるのか理屈はわからないけれど。

 最悪、私の命を狙っているという可能性も否定はできない。まあ、『攫ってこい』がボッツの指示なら殺されることはないと思うが、希望的観測といえばそうだ。






 かなり長い時間、茂みに潜んでいる。日没が近いのだろうか、森の中はすでに真っ暗だ。


 家猫たちがあきらめた気配はないけれど、なぜ彼らは森に入ってこないのだろう。時間が経てば私たちを心配したガンツやセージが救援に来る可能性だってある。そうでなくたって飼い猫たちは家に帰らねばならない。時間の経過は私たちにとっては少しだけ有利に働くはずだ。


「ねえ、ポンちゃん。なぜ家猫たちは私たちを探しに来ないんだろう」


「…またポンちゃん呼びに戻ったな」

 ポンタがチラリと地面を見てから推測する。

「夜になって、強力な応援が来るのを待ってるとか」


「ボッツのこと?」


「うん。考えたくないけどな」


 ポンタの言うとおりなら、確かに考えたくない。今の状況でさえ大ピンチなのにここへ魔王登場ではいよいよ最悪の状況だろう。


「ポンタ、あと一回くらいならパタパタやって、森の前の家猫を散らせるかもしれない。今逃げた方がよくない?」


「またポンタ呼びか。怖くなってくるとポンタになる」

 そう言ってポンタが考え込む。

「俺はそろそろガンツが探しに来るころだと思うんだ」


 そういえばチャイムが鳴ってだいぶ経つ。ガンツに南の森に行くことは告げてあるから、プリプリ怒りながら迎えに来てくれるかもしれない。


「確かにね。すごく怒りながらやって来そうだね」


「お前のシッポが今日どういう調子なのかわからない以上、ヘタに動くより森の入り口からガンツが来た時、勝負をかけた方がいいように思う」


 ポンタが自分を納得させるように頷いて言った。


「でも…家猫の数から考えてもガンツ一匹で何とかなるかな?」


「俺たちだけよりはマシだろ」


 ポンタがそう言ったとき、森の東側がザワザワと騒がしくなった。ガンツが来るのなら北側の森の入り口、つまり来たのは敵ということになる。


 家猫の声が森に響いた。


「ボッツ様だ」


「新しい猫神様だ」


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