第24話 世界の終わりの始まり 猫神アビシニアンの苦悩 (5)

EXTRA EPISODE 「猫神の立場から一言」




 前世、猫神として信心を集めていたワシだったが、いつのまにかニンゲンによってワシはその存在まで失う危機に陥った。

 ワシの存在と力については猫口ニャンこう、すなわち猫の数×信心深さ×公園の数=猫神パワー指数…ということになっておる。


 元凶はワシの消滅の5年ほど前、つまり現在から1年前に出現した『○○市浄化運動』の一派じゃろう。

 彼らの主張のひとつは「野良の猫や犬は街の美観を損ねる大きな汚点である」というかたよったものじゃ。

 野良犬猫をすべて捕獲し、速やかに殺処分を施す。『安楽死』という虫唾むしずが走る言葉を口にしよった。さらに猫のたまり場となりやすい公園や広場、河川敷などの整備や廃止、野良に餌をやるニンゲンへの罰則、ペットを飼う条件の厳正化など、街から猫が減る条件を次々と議会に提出していった。


 中には我々を救おうとしたニンゲンもいたのだよ。例えば、野良達が思い込みで毛嫌いしている保護センターの職員達はむしろ殺処分を何とか減らそうと、必死で里親捜しをしておった。

 しかし殺処分は日本中どこでも猫が圧倒的に多いのじゃ。猫には里親が現れにくいのじゃな。


 それからこの街の市長、坪井の存在じゃ。彼は多数派でない派閥の市長であったため、いくつかの柱となる議案以外は譲らねばならない立場だった。だがそれはニンゲンにとってのことじゃ。

 『浄化派』によるペットに関する条例のような些末な議案は頑強な反対をしにくかった。

 坪井が熱烈な愛猫家だったにも関わらずじゃ。

 我々猫にとっては死活問題だったこの動きを止められなかったのじゃ。



 ワシは神としての死を迎えた。そこですべて終わったかと思われたが、偶然が2つ重なった。

 ひとつは子猫フールの事故死…虫の息じゃったが、ほんの少しだけ蘇生の見込みを持っていた。

 もうひとつは大の猫好きである山田蕗が病気で死をむかえたことじゃわい。これはまったくの計算違いというか、なぜそんなすぐ近くでまったくの同時刻に…というタイミングじゃ。さらに蕗の魂は両親の愛情によって、まだこの世とつながった状態じゃった。


 ワシは細い細い現世との糸を辿たどって、フールを依り代に『やり直しの大魔法』を試みたのじゃ。その際、近くに漂っていた蕗の魂がフラフラとここに混入するというアクシデントが起こった。


 結果的に何が何やらミックスしてカオスになって妙な事態と成り果てた。

 ワシが依り代として使用する予定だったフールには蕗の魂が入り、ワシは行き場を失い彷徨さまよっていたが、両親の残留思念が奇跡的にワシを蕗の居候へと誘った。



 いくつか失敗をしたが、せっかく命を長らえ時を戻すことができたのじゃ。今回は猫たちを一匹でも多く生かしたい。


 そう思ったのに、うまくいかないものじゃ。ワシの力『賢者』はボッツへ、今は野良猫たちの脅威となっている。


 もうひとつの『愚者』はフールへ、蕗の魂と共に転生したのだが、これも今のところただの野良猫たちのマスコットじゃい。ハア。


 本来なら今頃はワシがフールの姿で賢者と愚者を備えて、復活するはずだったのじゃが。

 ボッツがこの街から野良猫を追い出す役割となっているのは仕方あるまい。いずれ猫狩りが実施されれば、捕らえられて死ぬのだからな。隣の町にでも移って避難する方がよい。


 だが、それからじゃ。ボッツの魂はあの力を持て余し始める。いずれ猫の良心を凌駕して暴走するであろう。ボッツが周囲の猫の畏怖や尊敬、崇拝を集めれば集めるほど、のものはその力を強めて周囲を巻き込みながら破滅への道を辿る。


 猫どころか最終的には街のニンゲンを傷つけるかもしれん。


 基本的にニンゲンなぞ、どうなっても構わんがそれを見過ごせば、さらにどこの街でも猫が住みにくい社会になっていくことは必定じゃ。


 今回は何とかギリギリの力でミケを使って『愚者』フールをこちらに呼び寄せ、コンタクトしたものの力の吸収はできんかったわい。『蕗の魂』と『愚者の能力』そしてチビ猫フールの身体の相性がよほどいいんじゃな。 


 やはりフールを使うしかあるまい。

 『賢者』と『愚者』…相殺して、力を無力化する。上手くいけば我が手に力が戻るやもしれぬ。


 時間がないのお…。

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