第21話 世界の終わりの始まり 猫神アビシニアンの苦悩 (2)
何故か私たち三匹は山田家の2階にある蕗の部屋にいる。女の子らしいといえばまあまあ女の子らしい部屋だ。私の部屋だったからそれはわかる。
でも恥ずかしい。壁に貼ってあるのは
過去の私は恥ずかしい。誰だってそうだろうけど、目の前でその自分に対面する経験はあまりないはずだ。
蕗と私たち三匹は向かい合って床に座っている。何、この状況。
「えっと、私の言葉わかるかな?わかんないよね?」
蕗が三匹をクルリと見渡す。
私は何とかヒト語を発声しようとするが、さすがに無理っぽい。発声器官が違いすぎるんだろうね。
「ニャニャニャ(わかる)ナゴ~(んだよ)」
「伝えたいことがあるのに。う~ん、どうしたら」
「ニャニャニャーニャ(だいじょうぶ)ニャニャニャンニャゴ(つたわってるよ)」
駄目だ。無理だ。
ポンタが首を傾げる。
「おい、フール。このニンゲン、何言ってんだよ」
「伝えたいことがあるんだって」
ミケももどかしそうだ。
「何を猫神様は仰ってますの?」
「伝わりそうもないから、どうしたら…って悩んでる」
「何ともったいない。お告げだけでなく、直じかにお言葉をいただけるとは」
何だか蕗を神様扱いして目を潤ませるミケはともかく、これでは話が進まない。
私が蕗に伝えたいこと、それは心臓の病のこと。でも伝えようがないし、伝わったところで信じてはもらえないだろう。
そして蕗も私たちに直接何か話をしたがっている。
「うーん。よく考えたら猫と話をしようとか、♪私はおかしすぎだわ~」
自分で呟いて、お芝居のように両手を開き、ひとり芝居を始めた。
「そうなのよ!猫を自分の部屋にあげて、♪お話をするなんて~」
天井を見上げる。
「♪あ~、頭がどうかしてしまったのかしら~!」
…見ていられない。
「なあ、こいつ頭おかしくないか?一人で歌い始めたぞ?」
ポンタの声にさすがの信者ミケの声も自信のないものになる。
「か、神様は何かお考えがあって、このようなふるまいをなさって…う~、たぶんそうよ。きっと」
これ以上蕗が奇行を重ねるのは自尊心が許さない。何とかしなければ。
ふと壁を見ると例の斉藤由貴ちゃんのポスターと英語のABC、アルファベットの一覧表…懐かしい。そういえば中学1年生だったね。
「!」
私はあることを思いつき、机に飛び乗る。
「わっ、フール。どうした!」「フーニャン!」
二匹の慌てた声が聞こえる。
「何すんの!猫ちゃん」
蕗が驚いたが、私は構わずローマ字を懸命に指さす。
「F・U・K・I」「F・U・K・I」
最初は私の突然の行動に呆然としていた蕗だったが、私の猫手を目で追う。
「F・U…ふ・き…ふき?」
「ニャニャ!」
私は「正解!」とばかりに蕗を見て、猫手で顔を指す。
蕗が目を見開いて私を見る。
「そんな、偶然よね?わかるの?」
「W・A・K・A・R・U」
「わ・か・る………ええっ!?わかるの?」
「ンニャッ!」
また私は「正解!」のポーズ。
「信じられない。嘘でしょ」
「H・O・N・T・O」
「ほ・ん・と…『ほんと』?…うえええええ!」
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