第13話 世界の掟 嘆きのアメリカン・ショートヘア(4)

EXTRA EPISODEⅡ 「ミケランジェロの甘い鳴き声」


 私はミケランジェロ、不本意ながら周囲のもの達には『ミケ』などと呼ばれております。それじゃフツーに猫の名前じゃないの。ま、猫ですけど。

 得意技は『魅惑の甘い鳴き声』。私がとっておきの裏声で鳴くのは野良猫たちにマタタビを嗅がせるのと同じような効果があるらしいのですわ。


 ま、そんなわけで公園では時々野良猫たちをやっつける手助けをしてますけど…あんまり興味ないっていえば興味ないんですの。ボッツ様が怖いんで、やりますけどね。


 数年前、ボッツ様のことを初めて知ったのは猫神様のおやしろでしたわ。これは公園の真ん中にあるリンゴトイレの上のことですの。時々そこで瞑想などしてますと、降りてくるのよ、猫神様が。


 あらあら、今日はすぐ来たわ。黄金の短い毛並みにアーモンド型の大きな金色の瞳、大きくて立派な耳…今日も神々こうごうしいわん。


妖猫ようびょうミケランジェロよ。近々この街に一匹の魔猫が降臨する」


「あら、猫神様。新入りの猫ですの?」


「そうだ。この街の東外れ、不動産屋に飼われることになるであろう」


「じゃあ、私たち飼い猫の仲間ですわね」


「…そうじゃが、そうではない」


「どういう…?」


「王である。猫の世界に君臨する王であり、混沌こんとんをもたらす魔王でもある」


「魔王…」


「其方はそれにつかえつつ、暴走を止めよ」


「私がぁ?」


「嫌か?」


「嫌ぁよ。そんな大変な役」


「じゃろうな」


 ガクッ。私は可愛くコケます。得意技です。

「んもう。あきらめが早いわ」


「奴はこの街の猫にとって守り神となるが、同時に破滅への道をたどらせるたたり神でもある」


「あらあら」


「やつは猫には止められない」


「じゃ、私にも無理じゃないですのん」


「そ」


「『そ』じゃないわよ。じゃあ誰なら止められるのよ。『ホゴセンター』はどうなの」


「猫でないものにもやつは止められない」


「じゃあ、駄目じゃない。『猫』にも『猫でないもの』にも止められないんじゃ、誰も止められないでしょ」


「妖猫ミケランジェロよ、よく聞け。魔王ボッツに仕えよ。『明日の世界』よりボッツを止めるべきものが来る。次にそれを助けよ。良き猫世界を作るため」


「猫神様、何言ってんだかわかんないわよぉ」


 猫神様はいつもの片足をヒョイとあげてコイコイする変なポーズで消えた。



 瞑想が終わってもしばらくは意味がわからなかったですわね。

 街の東に棲む何だかとんでもない猫の噂を聞いたのはそれからすぐのこと。

 飼い猫ネットで集合の合図があって、深夜のリンゴ公園に全飼い猫が召集されたの。


 怖かったですわよぉ。あんなの初めて見ました。猫じゃなくて他のネコ科の野生動物の何かじゃないの?と思わせる大きな身体、全身ブルーの短くて美しい毛並み、ビリジアンの冷たい瞳…。

 その晩に飼い猫の王様が決まりましたわ。従わない猫はいませんでした。

 …というか、あの声で「我が命に従え」って言われたら、そりゃヤバイのですわ。


 さてさて、私はボッツ様配下の御三家などと言われちゃいまして、何だかこれはこれでマズいポジションです。暴走止め係らしいので。…意味わかんないのですけどね。


 あら、家の外に誰か来ましたわね。私を呼ぶ鳴き声がします。

 これは…嫌だわ、ルノーですね。あのキザでバカでボッツ様の腰巾着こしぎんちゃくの。

 あれが夜に呼びに来るということは、公園でケンカの手伝いでしょうか。ホント、面倒です。


 それにしても、ボッツ様はここのところ、野良猫を滅ぼすくらいの勢いです。私それはどうでもいいっていえば、どうでもいいのですが、やり過ぎのような感じもします。

 ずっと前から猫神様からは『ケンカやり過ぎ禁止』って掟がくだってもいますが…

 だとするとそろそろボッツ様の暴走を止める「『猫でも、猫でないものでもない』もの」(ああ、ややこしい)が現れないといけない頃なんじゃないかしら?

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