第11話 世界の掟 嘆きのアメリカン・ショートヘア(2)

「で、お前は駄目だって言われたのに、公園に来たわけだな」


「ポンタもポンタだ。フールを頼むって言っただろ、ああん。お前は耳がないのか、コラ」

 ガンツがポンタの耳をつまんでギュッとねじった。


「痛てててて、悪かったよ。離せよ!」

 ポンタが涙目で言うが、ガンツはもうヒトねじりしてから離した。


「ウニャアアアッ」


 今、ガンツは私とポンタを絶賛お説教中である。隣にはセージがいて、時折頷いたり苦笑いしたりして聞いている。

 公園で気を失った私はポンタに抱えられて後方に離脱した。ガンツは手負いの状態でボッツに対峙たいじしたが、決死の覚悟だったようだ。

 何故かそこでボッツが静かに退いたため、ジャングルジムだけは野良猫側が死守した形になったらしい。


「でも不思議だよな。なんでボッツはあそこで帰っていったんだろう?」

 ポンタが赤くなった耳をさすりながら首をひねった。


 黙っていたセージが口を開く。

「わかりません。ただ私の目にはフールを見て一旦戦いを止めたように見えました」


 ガンツが理解できない、という顔になる。

「何だあ?あの魔王がうちのフールの何を気にしたってんだ?」


「わかりません。そう見えただけということですよ。ただ…」


「うん?」

 考え込むセージをガンツが促す。


「ボッツはフールのあのシッポの能力について何か知っているんではないでしょうか」


 私も首をひねる。

「私のあまりの可愛さに心が揺れ動いたとか、そういうことは…」


「ない!」「あるか、アホ」「ないでしょうね」

 …3匹で一斉に答えなくてもいいと思う。


「とにかくあれは彼ら家猫の一部の猫が持つ超能力とはまた違いますね」

 セージの言葉に私はあの夜のことを思い出す。


「そういえばセージ、私シッポから無限に力が出てくると思ってたら、そうじゃなかったみたい」


「そういえば、最後はちっちゃな光がフワフワ…でしたね」


「そうなんだよ。その前も野良猫全部、傷を治そうとしたけど、いき渡らなかったし」


 セージが再び考え込む。

「…愚者の大魔法?」


 呟くようなセージの声を私は聞き直す。

「何?グシャの…って?」


「いえ、何でもありません。フーちゃんの能力は身体の中にあるエネルギーを他の猫に与えるようなものなのかもしれないですね」


「うーん、確かに。公園に来る前にもダビの撃退に結構エネルギー使っちゃったし」


 ガンツが私とセージを睨むように言う。

「どちらにしろフールは二度と夜の公園に来るな」


「ええっ、きちんと限界を見てシッポを使えば、野良猫の戦力になるでしょ」


 私の言い分はガンツがあっさり却下する。

「駄目だ。どこまで使うと限界がくるのか判らんし、その見極め次第によってはお前の身体にどんな影響があるのか不明だ。そして何より、お前の力が飼い猫連中に判ってしまった。これから標的になることは間違いない」


 セージもポンタもウンウンと頷いた。


「昼間も家猫のテリトリーには絶対近づかないこと。ポンタ、次にフールから眼を離したら許さんぞ」


「ううう、何で俺がそんなビンボくじを」


「…ビンボくじって何よ!バカポンタ!」


 膨れる私をガンツがチラリと見て、すぐ眼をそらした。


「何よ、ガンツ。まだお説教残ってんの?まとめて話してよね」


「…ん、いや。何だ。その…」

 ガンツの歯切れが悪いことこの上ない。


「もうっ、おしまいならポンタと餌場を見に行ってくるよ」


「おい、フール」

 ガンツが何だか赤い顔で私に言う。

「お前な、公園で俺が倒れた時な、あの、な」


「うん?」


「あの、その、『父さんに何する!』って言わなかったか?」


「ああ、言ったかも」


「そうか」

 何かガンツがモジモジしていて気持ち悪い。


「それが?」


「いや。何でもないが」


「ニャハハハ、フール察してやれよ。ガンツはお前に『父さん』って呼ばれてうれしくて仕方ないんだよ」


「ウ、ウニャッ、ポンタ!いいから早くフールを連れていけ」


 慌ててそっぽを向くガンツに私は絡む。

「へえええ。何?ガンツは私みたいな可愛い娘に『父さん』とか呼ばれて照れてると。ふーん、ムヒヒ」


「うるせえっ!ぶっ飛ばすぞ!おめえら!」


 爆発したガンツを見て、私とポンタは慌てて外に飛び出した。


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