第32話 サキュバスマドンナ
「あぁぁぁ、全身がぁぁぁぁいたぁぁぁいいいいい」
あの後一ノ瀬さんに連れられて、なんとか生還できた。もう1人だったら帰って来れなかった。俺の足がガクブルで正に生まれたての小鹿状態。真っ直ぐ歩けない。
あのマッチョ絶対許さない。
次あったらもっとできる所見せてやるからな馬鹿にされたまま終わる訳には行かない、入会だぁぁ!
でもとりあえず今寝たい。とても寝たい。
もう果てしなく寝たいけど……寝れない。
というか本来さっきのジムは夜の前哨戦でしかない。
今日はここからが本番だったりする。とうとうこれから一ノ瀬さんと空と3人でフルパだ。
どういうことになるのか全く予想がつかない。
というかやばい、俺があの二人の間に入ることになるのか…………ちゃんと場をつなげられる気がしない。
俺にそんな調整力はないんだけどどうしよう。
……まぁいったん風呂に入りリセットしよう。危うくそのまま寝そうになったがなんとかゲームを起動する。
「あぁ手が震えるぅぅ」
筋肉痛が全身に及んでいる。身体が鉛のように重い。
【…………久しぶりに聞いた声がいきなりそれ?なんかきめた?】
久しぶりに聞く空のあきれた声。
【きめてない!それにしても久しぶりじゃん~あぐっ】
1週間ぶりくらいかな?
【いきなり喘がないでくれない?びっくりするから】
【違うわ! 体が痛すぎて…………】
あぁ全身がいたい。これが筋肉痛か。
…………くるのはやくない?普通翌日じゃない?
え?明日これ以上のが来るってこと…………?
死んじゃうかも俺。
【…………え、大丈夫?】
空がガチ目に心配そうな声をする。
【ゲームできる?私あんまりゲームできてないから、維持できるか微妙なんだけどあんまり負けられないけど】
俺の心配かと思いきや、プレデター維持できるかどうかの心配かよ。
ガチ目の心配そこか!
【いやそれは指使うだけだから大丈夫だけど】
【さすがコントローラー…………そう言えば誘われてホイホイ返事したけど、一ノ瀬先輩はうまいの? このゲーム】
【まぁ最高ランクのプレデターでしかも2桁はいってる】
【え、ガチじゃんそれ。…………容姿もかわいくて、勉強もできて、ゲームもできる完璧じゃん、なんかできないことないの?…………あおと大違い】
【…………比較対象に俺出す必要なかったよね?】
あとあの人、マドンナ取り繕ってるだけで意外と中身はずぼらで、不真面目で、酒かすでやにカスだけどね。それでもバランス取れてないけどさ。
【それに空、お前一ノ瀬さんの1番いいところ忘れてるぞ】
絶対にこれだけは外せないもの。
これがなきゃ俺は一ノ瀬さんの偽装彼氏を続けてられないかもしれない。
【…………あーわかった】
空があきれ気味に声を出す。
ほんと、男って馬鹿だねぇと言いながら、
【おっぱいっしょ?あの人おっぱい大きいもんねぇ!…………でもおっぱいなら、私だって結構──】
【──ちがぁぁぁう!】
思わず力がこもった。
確かにそれもすごいけどちがーう。
【え?】
【いや違くないよ!】
なんか戸惑いと否定の声が上がった。
というか間違えて、腹に力を込めちゃって痛い。
うぅお腹が痛い。
でも言わないと、先輩のためにもこれだけは言っとかないと…………。
【一ノ瀬さんの一番の特徴はなぁ…………マドンナでもない、外見でもない、酒かすやにカスなことでもない】
【【…………?】】
二人して無言で俺の言葉を待つ。2人?まあいいか。
【一ノ瀬さんの一番の魅力!それは圧倒的…………料理のうまさ!!】
【【はぁ?】】
【俺では一ノ瀬さんの料理の100分の1でも伝えられるかはわからないけど、頑張るわ。いままで一ノ瀬さんに作ってもらった料理は──】
【──ちょい待ち】
【──やっぱ色気より食い気じゃん!】
なんか二人から突っ込みが入った。
というか、
【あ、野生の一ノ瀬さんだ】
【いや野生のって何かな? 一般人ですけど!】
【マドンナが一般人はちょっと…………なぁ空?】
【え、私?! 一般人かどうかはわからないですけど、間違いなく野生ではないですね、それにあおと付き合ってるならもう捕まってるともいえますし】
あー確かにね。
まぁ実際に捕獲されたのは俺だけど。
【はは、うまいこと言うな空。あ、お腹痛っ。あ、脇腹もっああぁぁ】
笑わせないでくれぇぇ。
【ジムのダメージ食らいすぎじゃない葵君】
【え、あおジムはじめたの?!あんなに非力なあおが?!】
空が本気で驚いている。
でもその驚き方はかなり失礼なんだけど。まるで俺が運動しないみたいじゃん。だけど空の言葉はそれで終わりじゃなかった。
【実家ではあんなに自堕落で遊び惚けていて、暇さえあれば外から出ず、なんならベッドからも出なかった空が?!】
どんだけ驚いているんだよ。
というかトイレのためにベッドからは出たわ。
正確には家から出ないだわ大違いだ。……長野寒いから出たくないんだよなぁ、あと夏は日本暑いし。
【【いやどっちも同じようなもんでは?】】
二人の反応が全く同じ。
一応二人初対面なんだよね…………? そういうときだけ、はもったり、無駄なシンクロしなくてもいいと思う。
【やむにやまれぬ事情があったんだよ、ほら言うじゃん?まだ本気を出していないだけって、そういうことだったんだよ】
【今まで本気を出し渋ってきた結果、久々に本気で動いて今死ぬほど筋肉痛になってるけどね葵君】
【あお全然昔から動きませんでしたからね…………というかあおが生まれてから本気で動いたことなんてあったのかな?】
【えぇ…………さすがにどうかと思うよ?】
空からは訝しげに言われ、一ノ瀬さんからは普通に引かれる。
天よ、ここに俺の味方はいないのか…………!
あんたら仮にも俺の偽装彼女と幼馴染なんじゃないのか、どっちか擁護してもいいんじゃないか?
【…………それで一応聞くけどやむにやまれぬ事情ってなに?】
【まぁ俺気づいたら大学のマドンナの彼氏になったわけじゃないか】
【気づいたら……?】
【あおいくん?】
はっ、口が滑った!
修正修正。
【間違えた、なんの気の迷いか一ノ瀬さんが俺を彼氏にしてくれた、わけじゃないか】
く、苦しいかな?
いやこういう時はのりでいこう!
【別にあおならおかしいとは思わないけど…………】
【うんうん】
一ノ瀬さんも満足そう。
二人して謎に俺の評価が少し高い。
…………マドンナに見合うってことはプリンスってこと?
……やめよきっつい。
【ほらそんな大学のマドンナこと一ノ瀬さんは内面は置いといても、料理、容姿その他諸々すごいわけじゃん?】
【なんで内面はおいておくの?てかさっきから一ノ瀬さんのことちょくちょく酒かすとかやにカスとか──】
【──あーおーいーくーん?】
一ノ瀬さんの無言の圧がすごい。
なんなら壁をリアルにとんとんされている。
こういう時隣って怖いね。
次余計なことを言ったら、ピンポンされそうで怖いもん。
【まぁそこは置いといて、空も言う通り一ノ瀬さんはすごい影響力を持っているわけだ!もう一種のインフルエンザーといってもいい】
【それじゃはやり病じゃん】
【私今ウイルス扱いされた?!】
【流石にそれはどうかと思うよ、あお】
【すいません噛みまみた】
また噛んじゃった。
わざとじゃない。決してわざとじゃ。
せいぜい一ノ瀬さんのことは台風くらいにしか思ってない。
空のことも同じく傍若無人と思ってるけど。
…………あれ?てなるとこの二人って意外と性格似ているのでは?
これ俺にとっては、【混ぜたら危険】なんじゃ??
…………これ以上考えるのやめよう、俺は筋トレで疲れているんだ。
【一ノ瀬さんはすごい影響力持ってるじゃん?】
【それはそう】
【…………困ったことにね~】
【こないだなんてちょっと一ノ瀬さんがにおわせただけで炎上しかけたくらいだ】
【私もあおに問い詰めたね】
【幼馴染から問い詰められてて草】
なにわらってんねん、あんたのせいで飯おごることになったんだぞ。
そうだったこの人修羅場好きだった。
【結構ネットミーム使うんですね一ノ瀬先輩って】
【親しみやすいマドンナさんだよ一ノ瀬さん】
【どうも一般マドンナです】
空が明らかに戸惑ってて、おもしろい。
【そんな人気の人だ。SNSも何百人とみてるでしょ? 噂は人を呼ぶから、たぶんもっとこのことが知れわたる炎上する】
【……まぁ桁が一個違うけどねー】
【【えっ】】
何千人ってみることあるの?
こわぁ。
俺も空もひいちゃうよそれは。
【2桁違うときとかもあるよ、だからあんま個人情報のこと投稿しないようにしてるのよ特に場所とかそういうの】
悩みがもう芸能人なんだよなぁ。
【……これで分かっただろ?空?】
幼馴染だしな。
以心伝心的なものが俺と空の間には…………
【いや全く?】
全くないよね、うん。
【こんな人気の先輩の…………あれになったわけだからリアルファイトを仕掛けられそうじゃん、『うわあいつひょろーい、今なら脅せばんとかなるんじゃね?!』みたいな】
彼氏っていうのはなんか恥ずかしかった。
【そんな世紀末みたいなことあるかなぁ…………せいぜいがごみ投げられるとか、校舎裏で焼き入れられるくらいじゃない?】
【それが世紀末なんだよ!】
少なくとも80年代とかで50年近く前のことだ。
【はは、未来のあおの周りだけだよ?】
なんで俺だけ時代が逆行してるんだよ。
未来じゃなくて俺だけ過去に行ってるよそれ。
【だから少しでも鍛えておこうかなって、あと男としての魅力も上がるし…………あとまったく興味ないけどなんか精力増強にもなるらしいし】
【あお絶対最後のが目的じゃん】
【…………そんなことないよ?!】
【葵君やっぱそれが目的だったんだね…………】
【ちょっと待って……精力増強しないとマドンナに太刀打ちできないってこと?!…………あれ?もしかしてマドンナってサキュバス? サキュバスマドンナなの?!】
サキュバスマドンナ。
なんかすっごい造語出てきた。
【葵君!なんか私に飛び火してるんだけど!火消して!】
【あははは、炎上は一ノ瀬さんの方が経験豊富でしょ!】
もう笑うしかないね。
【何笑ってんのあお、というか経験豊富?!】
【なに笑ってんのさ葵君、いや経験ないよ!】
二人して詰められる。
【よし、ゲームしよう!】
ゲームしたら、たぶん落ち着くだろう。うん。
こういう時は共通の敵を生み出すと仲良くなって、よいって歴史の教科書に書いてあったし。
いやー上手くあいだを取りもてた気がするうん。
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4話目!
何とかここまで来た…………。
マドンナと幼馴染に翻弄される主人公は続く!
お疲れ様です!
お読みいただきありがとうございます!もし良ければ、下の☆ボタンで評価していただけたら幸いです。
レビューとか来たらうれしいな…………|д゚)
冗談です笑
あと沢山のフォローと応援ありがとうございます。お気軽にコメントしてください。酒かすヒロイン草、やにカスヒロインらぶとかでも全然うれしいです!
Twitterやってます。
もしよろしければTwitterのフォローしていただけますと幸いです。
更新日時とか最近のこと呟きます。
@KakeruMinato_
ではでは。
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