第27話 マドンナとゲーム


 姉さんは無事、社会人への道に旅立っていった。

 青い顔をしたままだったけど、たぶん説明会に緊張しているんだろうたぶんきっと。


 その影響でトイレに1時間はこもってた。

 強く生きてくれ、姉よ。


 よし、寝よう!!


 そう決意して、布団にころがった瞬間



 ピロリンピロリン♪♪



 通話アプリの独特な呼び出し音。

 

「……はい」


【何寝起きー?】


 ケラケラと明るく笑う一ノ瀬さん。


「ええ寝起きです、一ノ瀬さんの可愛い声聞こえてうれしいー」


【凄い棒読みじゃん】


「いえ心込めてますよ」


【わー嬉しい】


「棒読みで草」


「「ぷっ」」


 2人して、しょうもないやり取りに笑ってしまう。


 なんだかんだ風香がいたのはここ数日のはずなのに、何日もいた気がした。

 それくらい数日間が濃かった。


 まぁ最後に、「二人を幸せにしろ」っていうのは謎に意味わからなかったけど。

 俺彼女すらいないのに、どうやって幸せにするねん。


 逆に誰かおれを幸せにしてくれ。


 「…………それでどうしたの?」


 【いやーちょっと前にさ起きたわけよね?】


 今が10時、まぁ休日としては起きる時間だしおかしくもないね。


 【で、思ったわけよ】


 「…………なにを?」


 もう全く主語がない。

 何を言ってるのかさっぱりわからない。


 【このままだと、二度寝するなぁって】


 「はぁ」


 したらいいんじゃないかな。


 【微妙に二日酔いだし、体調微妙だし何とも言えないけだるさもあるし、布団にバタンキューだなーって】


 「分かる俺も今二度寝しようと思ってた…………切っていい?」


 【…………二度寝するじゃん】


 「するために切るからね、二日酔いだし」


 【いや葵君は二日酔いじゃないでしょ、アルコール弱くしておいたんだから】


 はぁ、と一ノ瀬さんはため息を一つつく。


 【それに休みとはいってもある程度は健康的な生活をしないとだめよ、葵君】


 なっ?!


 「普段死ぬほどお酒を飲んで深夜に牛丼っていうカロリーの爆弾に誘ってくるそんな堕落を極めたような人に、健康についてお叱りを受けた?!」


 【…………あーおーいくん?】

 

 「あ、間違えた。建前を言うのを忘れた」


 【じゃあこれ本音じゃん、本音言っちゃってるじゃん】


 「てへぺろ」


 【うわきっつ、こうやるんだよ?てへぺろ♪】


 明るくきゃぴっとした声。

 普通ならきっついはずなのに…………


 「す、すごいマドンナがやるとなんかかわいい気がする」


 【サービスサービスぅ♪】


 「俺は好きだけど古くない?!」


 【まだこれは現役だよ?】


 エヴァってまだ現役かなぁ?うーん。


 「とりあえず今度生で見せて、何なら今から見に行こうか?」


 【そこまではちょっと恥ずかしいんだけど…………】


 外見だけは完璧な一ノ瀬さんがやったら間違いなくすごい。

 もうギャルな姿もあって、ばっちりはまると予想。


 「はぁはぁ…………」


 【ちょっと興奮するのやめてきもい】


 「あーごめん興奮しちゃって」


 【私なんでこの人を偽装彼氏にしたんだろう】


 「はは」


 【はぁ君のことなんだけどなぁ……まぁいいやそれで、電話を葵君にした件なんだけどさーー】

 

 「ーー暇電、ですよね?」


 【違うよ!このままだと寝ちゃってもったいないなぁって思って、暇だしゲームでもしようよ】


 「ゲーム?…………リアル人生ゲームとかですか?」


 【違うよそれだと私の圧勝じゃん、普通のオンラインゲーム!〇PEXやってるんでしょ?】


圧勝って言いきれるのすごい、でもなんも言えない…………。マドンナだもん。

さすマド。


 「まぁちょっとは…………」


 【一緒やろうよ!今日暇でフレンドもINしてないからさ】


 「…………いいですよ~」


 でも本アカの方だとマスターまで行ってるしなぁ。

 よしここはソロでやっている用の、アカウントで行くか。

 アカウントレベルも200くらいだしちょうどいいだろ。


 「じゃあフレンド送るんで!」


 「あーい」


 ラインで、通話アプリと、ゲームのアカウントのユーザー名を送る。


 PCを起動して、通話を開始する。

 すぐに彼女も入ってくる。



 【やほやほさっきぶり?】


 さっきよりもクリアな彼女の声が聞こえてくる。

 やっぱりPCを通した方が音はいいな。


 【なんか隣にいるのに、音声通話するのって不思議だね?】


 「確かに、なんなら昨日も一緒に話してましたけどね?うちで」


 【今も壁またいで隣にいるけどね、今すっぴんだから顔見せられないけど、あ、来たね】


 「すっぴんは前見たけど外見はよかったよ」


 【…………外見は、ってのはなによ外見はって】


 「裸の心的な話かな?」


 【セクハラじゃん!】


 あ、一ノ瀬さんのアカウントも来た。

 うん、220レベル、一緒くらいだな。

 よかったぁサブ垢にしておいて、本アカだと軽くこの5倍はあるからな。

 あまりに実力が離れすぎていると、気まずい空気になったりするしなぁ。

 一旦は様子見を…………


 「いったんDUOでもしますか?」


 【そしよっか】


 【何つかおっかなぁ】


 一ノ瀬さん悩んでいる割には、キャラすごく強いおばさんを選択したな、空に浮けたりする。

 じゃあ俺はすぐに気絶から起こせるキャラを使っとこうかなぁ。


 「ライフラかぁ…………私下手だからすぐ起こしてねー?」


 「任してほしい!すぐにバナー作って、リスポーンするから!」


 このゲーム味方が死んでも蘇生できるという仕様がある。


 「いや気絶を起こしてほしいってことだよ?死んでもバナーを作ってほしいとかじゃないよ?」


 「分かってるって!」


 「本当かなぁ…………、じゃいこっか!」


 降りる場所は激戦区。

 おぉアグレッシブだなぁ…………。

 まぁ後ろついて行って、ってうん?!


 「あ、一人やった、二人やった、別パ一人もやった」


 次々入ってくる報告。そのすべてが敵を倒したログ。


 「あ、その敵ローだよ」


 とりあえずローと言われた敵を倒す。


 「ナイス!ワンパ終わり~、でもまだまだいるねぇ!」


 …………。

 あれ?


 「うわー弾亡くなったぁ、ちょっと敵翻弄するから、撃って倒してよ葵君」


 俺の返事も聞かずに一ノ瀬さんは、敵の前で空中で90度曲がったりするタップストレイフと呼ばれる動きをしたり、キャラクターのスキルで浮いて、殴ってみたり。

 まぁ俺の敵は翻弄される敵を撃つだけ。


 …………うん、わかった。



 「よっし、ないす!」


 全部倒し終わって、その試合は普通にチャンピオンを取った。

 なんだかんだ一ノ瀬さん3000ダメージを超えて、4000にも届きそう!

 一方俺は1000ダメージちょっと。


 「…………な、なんか調子よかったなぁ、うん」


 もうわかった。この人完全に…………


 「葵君も1000ダメ超えてるじゃーん普通にうまいねー」


 本人もやりすぎたと自覚しているのか微妙に元気がない。

 そして4000近いあんたが言うとそれはもう皮肉になっちゃてるぞ?


 「も、もう1戦行こう!」


 「いいねその意気!いこっか!!」


 今度は本気で行こう最初から。

 カバーとかは気にしない。だってもう必要ないもん。

 これ。


 さぁやってやろうじゃないか。本気の実力を。



 …………無事初動死した。

 

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