第20話 修羅場?
「やっほ!」
「こんちゃ」
あの日から一ノ瀬さんとはなんだかんだ頻繁に会うようになった。
お互いに知ってしまったよね、食費の割り勘の良さを。
一人では食べきれないものを2人だとお腹いっぱい食べれる。
なのに食材費も半分……画期的すぎるこのシステム。
もう一人でご飯を食べてたあのころには戻れない。
しかも一ノ瀬さんは節約しながら、量も多く作ってくれる。
今日はお昼から鍋をいただいた。ネギの甘みがたまらなかったよ。
「どう?私の料理は?」
にやにやといたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。
「最高っすね!!一生ついていきます!!」
もう俺は一ノ瀬さんの手料理がないと生きていけない体になってしまったかもしれない。
それくらいここ1週間の食生活が豊かすぎた。普通に困っちゃう。
「どうしよう、偽彼氏を餌付けしすぎたかもしれない」
それに対して一ノ瀬さんは困ったような顔を浮かべてる。
「姉さんの料理のためならなんだってさせていただきます、わん」
「わんって犬じゃない、私猫派なのよね~」
「頑張りますにゃあ」
「うんきつい!鳴き声の問題でどうにかなると思ったか!」
うんそれは言った瞬間に俺も思った。
「男の擬音はやばい」
自分でも吐き気が出そうだった。
男のそんな猫なで声なんて誰に需要があるっていうねん。
「…………それはそれとして、鍋まぁまぁの量あったね~」
まだ鍋には具材とスープが半分くらい残っている。
一ノ瀬さんは、もうおなか一杯だよーとお腹ぽんぽん一ノ瀬さんがたたく。
でもいっぱい食べている割に、お腹が出っ張っている様子は全くない、なんでだ?
「あれそういえば一ノ瀬さんってジムとかいってるんでしたっけ?」
「いってるよー、お、気になってきた?」
「いや、ただの雑談。だって筋トレとか普通にきつそうじゃん」
でも一ノ瀬さんの顔を見れば、どやぁとした顔をしてる。
あ、これやばそう。
なんか変なスイッチを押した気が。
「ジムはいいぞぉ、なにせ筋肉がつくから!」
「えー、そんなムキムキになってもねぇ…………」
ごりっとしちゃうじゃん。
そういうのは一般ゲーマーのイメージとは、ねぇ?
「ちっちっち、まだわかっていないようだねぇ少年よ」
「と、言いますと?」
「ジムに行くメリットは結構あります!」
ドヤっとしてるけどいきなりフワッとした答えきた。
「じゃあまず一つ目!」
指をピッと一本立てる。
「ご飯を罪悪感なく食べれる!」
「ご飯を罪悪感感じながら食べたこと、そもそもそんなないんだよなぁ」
「浅い浅いよ、そんなの今だけよ。葵君がおっさんになったらというか死ぬほどラーメン食べたら太るんです人類の構造的に」
「人類の構造的に?!」
めっちゃ広い話できたな。でも確かにうちのおやじとか「昔はやせてたんだけどなぁ」とかぼやいてるな。でもそんなのまだまだ先の話…………
「2つ目! 深夜に飲むお酒も全く罪悪感わかない!」
「それ果たして2つ目かな?!」
一つ目のメリットと一緒じゃない?
「はぁ?あんたばかぁ?」
いきなりアスカはやめて。
でもちょっと良かった。
「お酒と食べ物は全く別でしょうが!!」
ふんすと熱く一ノ瀬さんが語られている。
「それはすいません…………」
「全く気を付けてよ~、食は命の恵み、なんだからね?」
「…………一ノ瀬さんの構成成分はご飯よりアルコールっていう感じだけどね」
「ん?なんか言った?」
圧がすごい圧がすごい。
「いえ何にも」
「まぁ3割くらいじゃないかな?アルコールは。あと2割がエナドリ、2割がタバコの3割ご飯」
複雑なバランスだけど健康そうなのが全然ない。
せめてご飯くらい?
「ちゃんと聞こえてるじゃないですか」
「そりゃ聞こえるでしょ!まぁまだまだあるからメリットは。あと単純に筋肉がつく!」
「そりゃそう!」
逆につかなきゃ何のためにジムに行ってるんだって話よね。
「筋肉がつくといいよぉ、代謝よくなるし男性だと服とスーツがきれいに着こなせるようになったりね? あと街中で急に暴漢に襲われたりしたときに撃退できる!」
「最後の何よ、この世界は世紀末なの?」
「大学のマドンナを染めた男、には世界がそう見えるかも。あるかもよ? 闇討ちとか」
「…………」
冗談だよーと、軽快に一ノ瀬さんがあははと笑うが、まったく俺は笑えない。
全然ありそう。
それくらいこの人の人気はすさまじいもん。
こないだの写真をのっけた時も阿鼻叫喚がSNSにあふれたそう。
俺の友達も、【一ノ瀬先輩がぁぁ】って悲痛の連絡してきたし。
友達は、最終的には【まだ彼氏がいるって確定じゃない】、ってことでみんな自分を納得させてるらしい。
ごめん友よその写真俺だ。
そんなことはどうでもいいけど身の安全は確かに必要だよね。
…………とりあえず今はまだばれていない。だけどばれたときのリスク管理としては筋トレはありだな。
逃げるにも体力は必要だし。
これ筋トレとかじゃなくてもっと実践的なボクシングジム、か何かに行った方がいいい?
「葵君風に言うなら、異世界転移とか急にしてもなんとかなるよって」
「異世界でも無双できるならそのジム行くわ」
さすがに魅力的すぎる。
「やっぱ男性はいつでも中二病やね~」
「まるで俺が中二病みたいに言うじゃん」
「まぁちょっち、ジムのメリットはそんなとこかな?」
「ちょっとメリットはあれだけど、行かないといけない身の危険は切実に感じた」
「そ、そう? まぁ最初は一人で行くのはあれだから一緒にいこっか。深夜とかに!」
深夜の筋トレって果たして健康なのか不健康なのか怪しすぎる。
「あ」
「んー?」
「まぁこれは豆知識、というか眉唾かもしれないしあんまり葵君には関係ない話かもだけど」
「はい」
「筋トレすると、精力増強するらしいぞ☆」
せ、精力増強…………か。
「ふーん、そっか…………へぇ、せ、精力増強、ね?」
すごい重要なことじゃないか。
なんでついでみたいに言ったの?
というか待って。
「関係ないって何さ、関係あるかもしれんじゃん!」
「だって葵君の中では実戦経験した記憶はないし、今後も女心わかんないから彼女できなそうじゃん?そもそも私という偽彼女がいた後だと次の彼女になる人も気後れするだろうし。だからまだまだ精力なんて使わないだろうし、増やして、ためにためても困っちゃうかなって」
「ほ、ほぉ? いってくれますねぇ? しかし精力増強したら男のフェロモンも出てモテモテになるかもしれないじゃん? よしわかった、行きましょうジム今すぐ!」
「い、いやさすがに夜じゃないと私が目立つっていうか…………ちょまっ。力強いね葵君! 君やっぱ筋トレなんてしなくても、というか女性はいろいろ化粧とかあるから、ね、待て待て待って」
でもそんなんでは俺は止まらない。
俺の精力増強のためには頑張らないと。やっぱ最初はテクニックもないから、数で勝負みたいな、ね?
「やば変なスイッチ入れちゃったかも……」
よくよく考えたら3月は卒業と新生活の時期。今始めるのは全然ありだ。スタートダッシュ的なやつだよね。
ピンポーン。
一ノ瀬さんを引っ張ってジムにいこうと格闘してるときに部屋の呼び鈴が鳴った。
なんかこのパターン覚えがあるな、あの時は一ノ瀬さんが…………今回は後ろにいるな。
当の本人は「ほえ?」ときょとんとした顔をしている。
んじゃ、誰だ。
空?
でも今は実家に帰ってるはずだし。
やばい全く見当もつかない。
ピンポーンピンポンピピポン
しかもめっちゃ連打してくる。
「え、大丈夫?変な人きた?それかNH〇?あ、襲撃かな・」
そんな連打してくるような人なんていたかなぁ?
NH〇っていってもそもそもうちにテレビないし。
襲撃なんてまさか……ありうる。筋トレ決意するのが遅かった!!
え、マジで誰?
玄関を足音立てずにそーっと覗こうとしたその瞬間。
「葵―、いるんでしょー? でてこーい、お前はすでに包囲されている―」
玄関から女の声が聞こえてきた。
というか知ってる声だった。
「しゅ、修羅場きちゃ?」
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