第1話 初めての出会い、嵐のような女


 俺とマドンナの関係が始まったのはちょうど大学1年の終わりかけそんな季節だった。

 

 深夜2時。

 世間一般では真夜中ともいえる時間。それでも大学生の夜は続く。

 というのも……


「ぜんっぜん分からないっ!」


 明日行われる学科テストのために、一夜漬けしていから。

 テストなのに、なんで答えがそうなるのかその過程がさっぱりわからない。

 完全に意味不明。

 

 しかもちょうど、本当にたまたまその講義の時だけ、寝坊してしまったせいでノートの記録が全くない。

 いつも頼りになる幼馴染も、1時の段階で連絡したが、なぜか一向に返信がない。

 いつもならこの時間返信あるはずなんだけどなぁ



 「まっずい、確実にこのままだと落単だっ!」


 orz。

 思わず頭を抱えてしゃがみ込む。

 

 単位の一個くらいいいじゃないかって思うだろ?

 大学1年生の冬にもかかわらず、俺がこんなにも必死になるのにはひとつの訳がある。


 いやまぁテストだからみんな必死になるとかって話じゃなくてね?

 人よりも必死になるってことね?


 閑話休題。

 俺がここまで焦るのにはちゃんと理由がある。

 

 それは両親から、『1度でも単位落としたりしたら、即刻家に戻す!』と仰せつかっているから。

 

 これをただの脅しと思うなかれ。

 実際にわが姉がその餌食になる前例は発生している。

 

 まぁ姉の場合遊びまくって出席足りなくて落単したんだけど。

 風邪がぁぁ、とか言って言い訳してたけど、本当に問答無用で実家に帰らされて阿鼻叫喚してたのはいい思い出である。

 だからこそそうならないためにも俺は今必死こいてやってるわけだが。


 「なんで俺はやらなかったんだっ……」


 もっと前からやればよかった?……俺もそう思う!

 でも過去の俺はやらなかった。

 まぁ今は過去をふりかえっても仕方ない、人はそうやって成長していく生き物だから。

 

 ちなみにそんな姉、今は泣く泣く講義をWEBで受け、通う時は片道2時間の距離を電車で通っている。

 

 お得意のぐーぐ〇先生に過程を聞いてみても、返答は空しく要領を得ない回答ばかり。

 なんで大学の授業の答えはぐー〇るにはないんだ!


 はぁ、ここで頭を悩ませてもしょうがない。

 夜風にでもあたって無駄に景色の良い夜景を眺めながらコーヒーでも飲むか。ちょっと眠くなってきたし。

 冷気を浴びたらジョブズ並みの知能が降ってわくかもしれない、というかでるでてくれ(切実)。


 期待に胸を弾ませて、コーヒーと共にベランダに出たわけだけども。

 

 「……うわさっむ」


 1月末の寒さをなめてたわ。

 冬だけあって凍えるように寒い。

 これでも今日はあったかい方だというんだから、驚きなんだけど。

 誰だよ東京は雪国より暖かいっていったやつ。普通に冬は寒いぞ。


 ……いやちょっと待って頭がクリアになってきた気がしたぞ?

 

 「寒空の中で飲むホットコーヒーはおつなものですなぁ」


 フェンスに身を預けながら、夜空を眺める。

 乾燥した冬の天気のおかげで星がよく見える。


 「めっちゃ綺麗だ、惜しむらくはこれを共有する彼女がいないことだなぁ。彼女がいたら星もきれいだね、とかいってロマンチックな雰囲気作れるのになぁ」


 「いやー彼女さんいたら、早く部屋入りたいって言うんじゃない?」


 「いやいやエアー彼女は、二人で見る夜空はまるで二人を祝福してるみたいだね、とか言ってくれるよ」


 「あはは何それきも、現実にそんな女の子いたらいいねぇ、てかさむぅ」

 

 居ないだろうけど……ってぼそっと呟くのやめてもらっていいですか?

 夢見てもいいじゃないですか?

 

 「なっ、そんな笑わなくても、それより一体……」


 ……というかえ?

 一体俺誰と会話してんの?


 そーっと上を見上げていた顔を右横にずらす。

 誰もいないっと。


 …………え、幽霊、…………きた?

 

 「残ねーんこっちでしたー」


 左横を見れば、猫のヘッドフォンをした女性がフェンスで頬杖を突きながら、こっちを見て笑ってる。

 胸元のチャックを完全に閉めていないせいで、豊満な谷間が少しお目見えしてる。


 明るい金髪の髪を一つに結ばれている、その顔は可愛いと言うよりは綺麗目で端正な顔をしている。

 彼女の目はおもしろいものを見付けたように好奇心に彩られていて、その姿はまるで猫のよう。


 第1印象はそんな感じだった。……あと大人なエッチさもちょっとほんのちょっとだけ感じた。

 まぁでもそ、それはそれとして。


 「……え?マジで誰?」


 実在してエロいのはいいけど、正直いきなり話しかけられたため、恐怖の方が色濃い。


 「……あたし?知らないの?…………お隣さんだよ?」

 

 「そりゃ隣のベランダから顔出してりゃそりゃそうでしょうけど!」

 

 「分かってんじゃーん」


 「そうじゃなくて!」


 「あはは、反応いいねぇ。深夜テンションってやつかな?」


 「ちがーう!!」

 

 なんかいいようにあしらわれている気がする。


 「というか、君話してていいの?テスト勉強するんじゃないのー?」


 「何も分からないから、今は答えが降りてくるのを待ってるので話しててOKなんです!」


 「じゃぁ答えは来世までさようならだ」


 アハハと軽快に笑う。

 全然俺は笑い事じゃないけどね。


 「失礼な、多分そのうち答えは降りてくるわ!」


 「そんな不確かなものに頼りなさんな、どれお姉さんにかしてみ?どこが分からんの?」


 ほれほれと敷居越しに問題とペンをよこせ、とジェスチャーしてくる。


 ふっ、こんな金髪猫耳美人おっぱいギャルに、こんな人類がなぜ生きているのかぐらい難しい難問を解けるはずが……


 「なにこれ簡単じゃん。 ここをこうして、こうすると、こうなってほい!」


 ほい、と渡された答えを見れば、あら不思議、問題集の回答と答えが同じになってる。

 う、嘘だ。


 「じゃ、じゃあこっちは!」


 「えっと、ここをこうしてえいや!」


 「また正解だ……」


 まさかこの人……


 「………天才か?」


 「いやーそれほどでも?これくらいならお酒飲んでても余裕よ」


 え?お酒飲んでたの?そういえば、微妙に頬が赤らんでいる気がするな。


 「酒飲み女に負けた!」


 「ま、先輩だからね!余裕余裕ってあ」


 「……あ?」


 スマホを確認すると点滅しているのが見える。


 「ごっめん、私友達とゲームやってる途中だったんだ! 後輩君が現在進行形で黒歴史作ってたから話しかけちゃったけど。もうこれも後輩君のせいなんだよ! 覚えてな!!」


 捨て台詞みたいなことを吐いて、お酒片手にドタバタと部屋へと戻っていく。


 「……嵐のような人だった」


 ……とりあえずは、問題の過程は分かった。

 解説も軽く書いてある、なんというか頼りになりすぎる。


 ……今度菓子折りでももってくか。


 「よーし、後は気持ちよく寝るだけ……ってんなわけあるか!もう3時すぎ?!あと1科目、手付けてないのあるんだった!やらないと!!」


 俺も慌てて部屋の中へ。


 ……それにしても。


 「変な人だったなぁ」

 

 それが初めての出会いだった。


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