気づいたら大学のマドンナを染めた男になっていた件

湊カケル

プロローグ

 最近まことしやかに大学のキャンパスで流れる1つの噂。


  

 【大学のマドンナが男に染められた】

 

 俺の大学にはマドンナと言われる存在がいる。


 【一ノ瀬 夢】


 大学のマドンナ。

 マドンナ、古めかしい言葉。


 しかし彼女はそんな昔の言葉を引っ張ってくるほどに圧倒的だった。そう、


 俺も1度キャンパス内で見かけたとき、彼女はとてもキラキラしていた。

 とてもきれいだし、おっぱいも大きかった。それでいて儚げに存在するそんな清楚系美人。

 触れたら消えてしまいそう。


 ただそんな彼女にもとうとう男が出来たらしい。だけどその相手の情報は何も無い。

 

 しかし、あんなおっぱいの大きな人の彼氏なんてうらやまけしからない。

 あの傍若無人なおっぱいを好き放題出来ると思うと、そのマドンナを染めた男は、さぞ大学中の嫉妬の視線を浴びることだろう。

 というか俺だったら浴びせてる。

 

 うらやましい。

 きっとナニガとは言わないが、ぶるんぶるんしてるに決まってる。あぁけしからん。性の乱れだ。聖夜くらい乱れてる。

 ちなみにそんなマドンナなこと、彼女の男が出来た(仮)あとの変わりようはすごい。

 

 曰く、とても艶やかできれいに透き通るような黒髪が、きれいなミルクティー色になった。

 (ちなみにこちらも人気)


 曰く、ナチュラルメイクだったのが、きつめの派手なメイクに変わったと。

 (こちらはこちらで需要あり)

 

 曰く、服の趣味が、清楚ぽいスカートだったが、ライダースにジーパンというボーイッシュなものに変わったりするときもある。

 (ギャップ萌えの需要あり)

 

 曰く、音楽の趣味が、クラッシックなものを聞いていたのが、ロックやJPOP、アニソンなど他ジャンルを開拓したり。

 (ヘッドホンでフードかぶっている時もあり、みんな大興奮)

 

 もう明らかに状況的には黒。

 男に染められたのは状況証拠しかないとはいえ、もう真っ黒。オフホワイトならぬオフブラック。

 ……オフブラックなんてあるのか知らないけど。何かあったのは間違いないと思う。だって普通いきなりそんなに人が変わるわけないから。みんなそう考えて、彼女に男ができた、と噂してるいるわけで。これ全部大学の友達情報ね。ただまあひとつ言えるのは。



 「ま、俺には関係ないけど」



 実際問題嫉妬も何もしていない。

 だってそもそも関係ないし。

 こんな美女と知り合う機会もないし、話したこともない。

 大学のマドンナなんて雲の上過ぎて。

 

 相手はミスコンにも出れるような方だぞ?

  

 きっと彼女は、どっかの商社マンと付き合って、フェラーリかなんかの外車の助手席でサングラスを掛け、髪をなびかせながらドライブしたりするんだろうなぁ。

 あぁ彼女の彼氏になる人うらやまし!


 でも俺がそんな人の彼氏になるなんて可能性は万が一もないわけで。

 ……いや、ないはずだった。ないはずだったんだけどなぁ

 

 「マージで縁のない世界だな!それよりも現実的に彼女欲しいぃぃ」


 切実に、とても、欲しい。

 本当に彼女が欲しい。

 一回彼女出来ると、より思うよね。


 「神様、俺に彼女をください!まじめでうそをつかないそんな彼女を!」



 ついでに欲を言わせて貰えるなら、おっぱいはやっぱり大きい方がいいなぁ…………なんてちょっと前までは思ってたんだけどなぁ、半年前までは。それが今では……

 

 「なに夜空を見て黄昏てるの?…………申し訳ないけど、全然似合わないよ?」


 俺の顔を覗き込んで、わざわざ失礼なことをのたまう彼女。

 髪は綺麗にミルクティー色に染められてて、いつもの化粧は既に落ち、顔には少し赤みが勝っている。


 あ、これまた酒飲んでるな。モンスターとウォッカを混ぜたやつとかかな?


 「……黄昏てるのは一体誰のせいだと思ってるんですか」


 「えー、自分?自分の成績の悪さに、とか?」


 「そんなものにいちいち絶望してられますか! というか、俺そこまで悪くないですし!」


 「そう? 結構悪いイメージだけど? 1年の最後の単位危なかったじゃん」


 「あ、あれは。ちょっと大学の楽しさに溺れちゃって」


 「なんて言ってゲームとかしてダラダラして遊んでただけじゃない、このあほ〜」

 

 「んぐぅ……」


 何も言い返せない。

 本当に遊び惚けてたし、言われたのちゃんと事実だし。

 

 「しかもなんなら、私の秘伝のノートで成績上位取ってたしね?」


 「その節は誠にありがとうございました!」


 そう、何を隠そうこのミルクティー色のギャル。

 ちゃんと成績いいのである。

 まぁそりゃそうか、そうでなきゃ――


 「――で、結局なんで黄昏てたわけ?」


 あ、話はそこに戻るのね?

 

 「いやー、今でもこんな状況が信じられないし、夢なんじゃないかなーって思ってさ。というか夢であってほしいなぁってお空に思ってた」


 目の前にミルクティー色の髪をして、おっぱいでかい女が猫耳ヘッドフォンをつけ、ベランダの横で俺の顔を覗き込んでいる。そんな事実に。


 「あー、隣でこんなかわいくておっぱい大きい女と話せてうれしいってこと?」


 「いーや? 半ば強制的に偽装契約を持ちかけられて、あれよあれよといううちに大学で既成事実を創られ、大学の男女に好機の目線と、嫉妬と憎悪にまみれた感情を当てられ、あげくにあらぬ性癖で知らない人に軽蔑される、っていう今の状況について」


 「よっ、大学一の人気者!」


 「それはあんた!」


 「まぁそれはそうだけど?」


 「素直に認めんのな」


 「誉め言葉だし?」


 いい性格してるよホント。


 「でもいいじゃん? 葵は私というアクセサリーが出来て、他の人より優越感に浸れて、更に女性経験を積める。私は鬱陶しい誘いを断ることが出来る。これぞ正にウィンウィンよ」


 「その契約も脅しだけどね?」


 「またそんなこと言って。 私と寝たんだからしょうがないよね?」


 「じゃ、じゃあせめてさぁ! 本当に俺ら何があったのか教えてくれよ!」


 「えーなんでぇ?」


 心底めんどくさそうな表情。

 そのおきれいで端正な顔がゆがんでいる。


 「え、知らんうちに童貞失ってたらショックじゃん!」


 「はいセクハラ!そげんことゆうとると彼女できんとよー?」


 「なぜ唐突な博多弁?!」


 「嬉しいでしょー?」


 ニヤニヤと、どやるギャル。


 「…………はは、めっちゃすき」


 「え、きも」


 きもぉ頂きました!!


 「……それで? 俺の童貞は?」


 「ちっ、騙されないか」


 「当たり前よ大事だし」


 いかんせん初めてがかかってるからね!

 この謎は解かなきゃいけない。


 「そっか、あんた元カノとはやれなかったんだっけ?」


 煽るように彼女は笑う。

 

 「そりゃ高校生でやったらあかんでしょ!責任取れないし!」


 「まじめよねぇその辺、ふふ。いいと思うよー」


 「いいと思うなら!」


 「教えませーん!」


 「何でやねん!」


 「ほらこんな名言あるでしょ? えーっとなんだっけ、あ、そーだ!」


 ぽん、とひとつ拳を打ち、彼女は煙草をふかし、蠱惑的な笑みを浮かべる。


 【A secret makes a woman woman】


 流暢な英語と、その仕草がとても様になっていた。

 

 「…………意味は女は秘密を着飾って、美しくなる、だっけ?」


 かっこいいから覚えてた。

 まぁ男の俺は使う機会ないけどさ!


 「そ!無駄なことは知ってるよねぇ。ということは?」

 

 「教えない……?」


 「そゆこと……ねそんなことよりゲームしよ!流石に寒くなってきたし中はいろーよ!」

 

 教えてくれないのかぁ。

 俺の童貞は一体……。

 てか俺の童貞を着飾るなよ。


 「オーケー、じゃあインする」


 お互いそれぞれがベランダから自分の部屋へ。

 なんだかんだ俺は気に入ってるのかもなこの偽装カップルの関係が。


 「ほんとなんでこうなったのか……」

 

 このゆるふわギャルがかつて清楚だった、豹変した大学のマドンナで。

 そして俺こと【瀬名葵】はなんの因果か、大学のマドンナを染めた男になっていた。




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