#40 現世とのつながり

 クリスマスも近づいてきたある日、ラリィ=ル・レロはニュースピリチュアルのメンバーを集めて言った。

「クリパしたい!」


「クリパ?」

「クリスマスパーティですか?」

「そう」

「とはいえ、閉鎖されたサイバー空間では、することも限られますが」

「海水浴したり、夏祭りしたりしたんでしょ? あたしそういうのしたことない」

「ツリー作って飾り付け?」

「プレゼント交換?」

「ケーキが食べたい」

「シャンパンが飲みたいわね」

「良いんじゃない。やろうか」




 春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきは言う、

「どうせなら、他のVTuberみたいにグッズ売りたいね」

「良いですね」

「でも、現物を作るには、時間が無いわね」

「ボイス販売はどうですか? あれなら録音するだけだし」

「ASMRクリスマスバージョンなんて良いじゃない」

「メンバーの個性に合わせたセリフを用意しましょう」

「あたし、自分で考えたい!」

「ラリィさん。あまりにもエロいのは禁止ですよ」

「バレた?」

「各自、自分でセリフを考えて、それ持ち寄って、みんなで推敲しましょう」

「了解」

「OK」




 春花は考えた。

 あたしたちはこのサイバー空間で生きている。生きてゆくうえでお金は必要ない。だから、ボイスは無料配布でも困らない。しかし、ニュースピリチュアルだけが無料配布してしまうと、有料で商売をしている、一般のVTuberに迷惑がかかる。有料販売は避けられない。お金のやり取りをするには、現実に存在する人でなければできない。

 春花は、とげ蔵に連絡をとった。




 ビデオ通話で話したのは初めてだった。

「とげ蔵。変わってないね」

ssawサワもね」

「あたしは変わったでしょう。アバターのあたし、面影無いよ」

「中身がね、変わってない」

「そりゃ、あたしは、あたしだし」

「ふたりで推しについて熱く語りあったね」

「あったね~」

「喧嘩したこともあったよね」

「ふたりで飲みながら、カップル戦争になったよね。今でも〇〇×△△は揺るがず?」

「淀みないね」

「さすが」

「そういうssawは、▲▲×●●は揺るがないんでしょ?」

「ん~、どうだろう」

「どうしたの。宗旨替え?」

「あの時も言ったんだけど、覚えてない?」

「リバもありかな? とも思ったんでしょ」

「そうだよ。よく覚えてたね」


 ふたりの瞳から、涙がこぼれてきた。


 かつて手と手を取り合って漫画を描き、酒を飲み、語り合った、気の置けない友人。一度は死んだと思っていた友人が、サイバー空間で生きている。信じられないホントの話。

 語り合えても触れ合えないもどかしさ。転生なんて考えた奴、最低だ。残された人々の悲しみを、まったく考慮していない。ダンプに跳ねられ死んだ人は、実際は異世界で生きていた。でもね、現実の世界では単なる死人。家族、友人、知人、恋人。みんなが悲しむ。異世界で生きているのなら、せめて手紙で書い寄こせ。『私は元気です』ってね。


 その時、閃いた。


 死は誰も避けられない。死んだら肉体は無くなる。肉体から心を切り離して転生しようとした時、異世界だと、現世と隔絶する。心をサイバー空間に転生させれば、肉体は滅んでも心は残る。サイバー空間なら現世とやりとりができる。触れ合うことはできなくても、語り合うことができる。


 もしかして、この転生システムって、最高じゃね?




 春花はとげ蔵に、ニュースピリチュアルとして活動する窓口になって欲しいと頼んだ。とげ蔵は喜んで引き受けた。


「ssawが死んだときは悲しかったけど、こうしてVTuberとして活躍してるんだから、協力させてもらうよ」

「ありがとう」

「死んだ人と話してるなんて、なんか不思議な気分だけどね」

「よろしくお願いします」

「喜んで」


 涙は悲しみから嬉しさへ変わり、ふたりは笑顔で微笑んだ。

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