#36 新キャラがおびえながら登場する
幻覚のパーティメンバーに、分裂して襲いかかる兵士。
賢者ピュアウイッチ・ブルーは考えた。まずいわ。この状況をなんとかしないと。さっき、サキュバスがなにか吠えたような動作をしたけど、何も聞こえなかった。意味のないことを、この場でするだろうか。あの動作に意味があるとしたらなんだろう。
勇者ハルカは、自分と戦っていた。
太刀筋、技のタイミング、体捌き。全てにおいて相打ち。まるで、鏡に映った自分を相手に戦っているみたい。
魔法使いピュアウイッチ・ピンクは、焦っていた。襲いかかる兵士や、仲間達。持ち前の俊敏さで攻撃を交わしている。これが、まやかしなのはわかった。でも、ホンモノがいるかも知れない。ファイヤーで焼き尽くすこともできないし、フリーズで凍りつかせることもできない。困った。
剣士水色あさがおは、ひどく混乱していた。とにかく、手当たり次第に斬りつけた。時々、痛い!? と悲鳴があがる。
「誰!? むやみに斬りつけてるの!?」
しかし、言葉はサキュバスのスキルで変えられ、聞き手に伝わる。
「勇者ハルカは死んだ! ハッハッハッハ!」
精神ダメージ系の攻撃かな。叫んでいたとするなら、音?
ピュアウイッチ・ブルーは、目を閉じ、杖を地に着けて、魔方陣を描く。魔方陣は輪を描いてダンジョンに広がる。
「出でよ。音の神」
魔方陣から、セイレーンを召喚する。
「歌って」
セイレーンの歌声がダンジョンに響き渡り、サキュバスの超音波を相殺する。パーティは幻覚、幻聴から解放され、我に返る。
「あたしはいったい…」
「おかしいの消えた」
「頭がすっきりする」
「みんなしっかりして!」
「歌の女神セイレーンを召喚したのか」
「サキュバス! あなたの超音波攻撃は封じた。覚悟しな!」
ピュアウイッチ・ブルーは、真空刃の風攻撃を放つ。サキュバスの身体や羽を切り刻む。生気を抜かれた兵士たちは、剣士水色あさがおに当て身をくらい、気絶して倒れた。ピュウアウイッチ・ピンクが炎の球を投げつける。魔法が弾けるタイミングに合わせて、勇者ハルカが斬り込む。
「ギャアアアア!」
サキュバスは倒れた。
「みんなだいじょうぶ?」
「だいじょうぶ」
「怪我をしている人は、回復するわ」
倒れたサキュバスが愚痴る。
「ちょっとマジで痛いじゃん」
「あなた悪役だし、しょうがないね」
「あたしも回復して」
「敵だからダメよ」
「だったら、敵役やめる。仲間になる」
「それだと世界観が壊れちゃうわね」
「別に良いでしょ。敵が仲間になるってよくある展開じゃない」
「う~ん」
「良いんじゃない」
「ハルカ」
「それじゃあ、魔王城まで案内してもらおうかな」
「わかりました!」
パーティメンバーは思う。
「だいじょうぶかなあ」
魔王城に幽閉された王女ミレーは、隣室に潜む人影に怯えていた。
「誰かいるの?」
かすれる小さな声がする。
「あなたが、私を食べるの?」
食べる? なんの事だろう。
「食べないわよ。ねえ、姿を見せて」
恐る恐る姿を現したのは、猫耳に長い尾が特徴的なアバターのVTuberだった。
「はじめまして。あたし、ミレー。あなたは?」
「わ、私は、猫? かな」
「名前はまだない?」
「そ、そうかな」
「あなたも閉じ込められたの?」
「私、訳も分からずこの世界に連れてこられて、何をしていいかわからず、右往左往してたら、タコのモンスターに捕まって、隣の部屋に閉じ込められまして…。ここはいったいどこなんですか?」
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