#35 勇者パーティ VS サキュバス

 黒く渦を巻く雲。常に薄暗い中に魔王城は建っている。




 誘拐された王女ミレーは、魔王城の一室に導かれ、ようやく触手から解き放たれた。魔王デビルオクトパスは、王女ミレーにカプセルを手渡した。カプセルは、掌に収まるほどの大きさで、白い。

「なにこれ?」

 魔王デビルオクトパスは、照れながら去って行った。




 幽閉された部屋はいたって綺麗で、毒々しい雰囲気の魔王城の風貌とは一線を画している。


 部屋のソファに座ろうとしたとき、隣室へつながるドアが、カチャっと開いた。

「誰?」

 ドアは少し開いたまま。しかし、向こう側に人の気配がする。

「誰かいるの?」




 勇者一行は、魔王城を目指し、ダンジョンに入っていた。


 襲いかかるモンスターを、パーティーの連携でことごとく倒し、トラップを回避し、順調に奥へ進んで行った。


 ダンジョンの奥に、大きめの部屋がある。

「ここが最深部かしら?」

「こういう場所って、中ボスが出るとか、レアアイテムが手に入るとかが、セオリーよね」


 次の瞬間、空間が歪み、中からサキュバスが現れた。


「あなたは、デビルオクトパスと一緒にいた」

「サキュバスのラリィ=ル・レロよ。よろしくね」

「せっかく、挨拶してくれたのに悪いんだけど、あなたを倒す」

「剣士様はせっかちね。このあいだお邪魔した王城でお借りしたモノをお返しするわ」


 王城の兵士が5人、現れた。


「だいじょうぶですか!?」

 水色あさがおが助けに行こうとした。

「待って!」

 勇者ハルカが止めた。

「どうして!?」

「様子がおかしい」


 兵士は精気を抜かれたかのように、白目をむいて、力なくだらんとしている。


「それじゃみんな、頑張ってね♪」

 サキュバスの一言で、兵士は剣を振り上げ襲ってきた。


 ピュアウイッチ・ピンクが魔法で焼き払おうとする。


「待って! 彼らはまだ生きてる」

「生きているよ。あたしが精気を吸い取った、操り人形だけどね」


 襲ってくる兵士。


「あなた達に、生きている人を殺せるかな?」

「なんて卑怯な」


「スリープ!」

 睡眠魔法が効かない。


「兵士を倒せないなら、操っている奴を倒せば良いじゃない!」


 勇者ハルカと剣士水色あさがおがサキュバスに斬りかかる。

「ちょっと! 痛いんだけど!」

「斬ってるし」

「もっと手加減してよ」

「大丈夫。この世界で死ぬことはない」

「そういうことじゃないでしょ!」


「あなたはサキュバス。女のあたし達から精気を奪うことはできないわよ」

「そうだね。精気は奪えない。でもね、サキュバスの力がそれだけだと思って欲しくないなあ」


 サキュバスは超音波を発する。超音波はダンジョン内で反響する。


 水色あさがおに、突然、ハルカが斬りかかった。

「ちょっと! どうしたの突然!?」


 別のハルカが声をあげる。

「それは偽物よ!」

「ハルカがふたりいる。幻覚?」

「みんな気をつけて! サキュバスの幻覚攻撃よ!」

「なにか、攻撃された気配は感じなかったけど」




 兵士が複数に分裂する。味方が何人にも見える。声はダンジョンで反響し、誰が発しているのかわからない。


 攻撃された気配を感じなかった。強いていえば、口を大きく開けて、叫んだような気がした。しかし、なにも聞こえなかった。


 なんだ、いったいなにをされた!?

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