#32 現世とのつながり
「小林優さんはじめまして」
「あたしの名前、わかるんですか?」
「だって、これはあたしのアカウントだよ」
「じゃあ、水色あさがおさんは、あたしの知ってるあの娘ってこと?」
「そうだよ」
「信じられないなぁ。アカウント、ハッキングしたんじゃない?」
「山田君には告白した?」
「してないよ~」
「早くしないと、妹の良ちゃんに盗られちゃうぞ~」
「良はまだ中学生だよ」
「わかんないよ。良ちゃんの方が頭良いし、可愛いし。バレンタインにチョコ、あげてたしね」
「よく知ってるね、あたしたちのこと…」
しばらく、沈黙がある。
「生きてたんだね」
「違うよ。死んだよ」
「じゃあ、今、話しているあなたは誰?」
「VTuberに転生した、水色あさがおです」
「転生なんて、そんなの、ラノベやアニメの世界だけだよ」
「こればかりは、信じてもらうしかないんだよねぇ」
「死ぬ前の記憶は残ってるんだね」
「そうだね」
「会うことできる?」
「それが、このサイバー空間から出ることはできないんだよ」
「会って話したかったな」
「ビデオ通話ならできるよ」
「ホント!?」
さっそく、ビデオ通話する。
「顔がアバターのママ」
「この姿で転生したので」
「あっはっはっは! おかしい」
「笑わないでよ」
「でも、前より美人になったよ」
「そりゃねぇ」
「あたし、応援してる」
「ありがとう」
「またこうして会ってくれる?」
「もちろん」
「他の人には、言わない方がいいよね」
「説明するのがめんどくさいし、そうしてくれると助かる」
「わかった」
通話を終える。ふたりとも、心が温かく嬉しさと喜びに満ちて、涙の粒を落とした。
水色あさがお推しになった、小林優は、件の山田君を、仲間に抱き込もうと、一緒に、配信を見るように仕向けた。彼はあたし達と仲が良かった。なにか気がつくかも。
見始めて、早速、彼は言う。
「VTuberって、彼女に似てるね」
「どういったところが?」
「声質とか、口調とか、仕草とか」
「やっぱりそう思う?」
「だから勧めてきたんだ」
「そうだよ」
「ちょっと話し方が大げさじゃないか?」
「VTuberだから、芸能人みたいに大げさに話さなきゃ」
「そっか」
優の部屋のドアで聞き耳を立てている女の子がいた。妹の良だ。
「VTuber? 話し相手、山田君だよね?」
自室に戻って、さっそく、水色あさがおの配信を見る。
「ホントだ。お姉ちゃんの友達にそっくり。でも、あの人、亡くなったはずだけど…。なにか企んでるな。ふたりで秘密を共有なんて、させないよ」
もう時期冬コミがやって来る。
とげ蔵はあることを思い付いた。春花こと、ssawを今度発売する新刊に描いてもらうことだ。ssawも、自分の正体がバレていることに気が付いているはず。とげ蔵は、停止していないssawのSNSにメッセージを送った。
『初めまして
あなたの絵に感激しました
つきましては
今度発売する同人誌『たにくしょくぶつ』に寄稿くださいませんでしょうか』
生前に使っていたSNSに新着があった。とげ蔵から原稿の以来だった。あたしの正体を知っていて、わざと送ってきたんだな。それなら、乗らざるを得まい。
『初めまして
『たにくしょくぶつ』さんの同人誌はよく読んでいました。その同人誌に寄稿できるのは、とても名誉なことです。謹んでお受けします』
とげ蔵。ありがとう。
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