#31 小林優さんはじめまして
同人誌サークル『たにくしょくぶつ』のメンバーと酒を飲んでいる。お互いの推しやイラスト、今度はなにを描こうか? 下ネタも飛び交って、いつもの歓談だ。
突然、その輪からあたしが外れる。メンバーは、あたし抜きで歓談を続ける。あたしはそれを眺めていることしかできない。
淋しい思いで目を覚ます。
みんな、元気でやってるかな。とげ蔵は、わかったみたいだけど、他のメンバーはどうだろう。あたしがサイバー空間に転生したと言って、信じてくれるだろうか。
会いたいなあ。みんなに。
可愛美麗は夢を見る。
可愛い服に身を包み、原宿や渋谷を歩いている。時々、ショップに立ち寄って、可愛いアクセサリーやバッグ、靴などを見て回る。
店を出ると、高校時代のクラスメイトに出くわす。彼らは、女性向けの服を着ている自分を見て、気持ち悪そうな顔をして、去って行く。なんでこんなところで、出くわすんだろうと思い、家に帰ると、そこには家族がいて、やはり、気味悪そうな顔をして、無視する。すごく、嫌な気分になって、目を覚ます。
手術が成功したら、体験していたであろう、現実。夢の中でも認められないのか。それでも、現実の世界に行ってみたい。
水色あさがおは夢を見る。
クラスメイトとくだらない話でゲラゲラ笑っている。時間はあっという間に過ぎて、日が暮れ、クラスメイトと別れる。家に帰って、家族と談笑しながら夕餉を取って、お風呂に入って、ベッドで横になり動画を見る。それは、自分の配信動画だ。
このVTuber可愛いなあ。
目を覚ましても、その気持は変わらない。次はなにをやろう。
水色あさがおの友達、小林優は悲しんだ。
毎朝、教室で顔を合わせる彼女の顔を、今朝は見なかった。さては遅刻だな、と思って、メッセージを送ったが、いつまでたっても既読が付かなかった。
結局、その日は学校に来なかった。先生もわからないという。家に帰って、メッセージを確認しても、既読が付いていない。電話をかけてみたが、つながらなかった。ホントのことを知ったのは、翌日、学校へ行ってからだった。
朝のホームルームで、彼女が、登校途中、交通事故にあって亡くなったと聞いた。頭の中が真っ白になって、後はよく覚えていない。数日後、彼女の葬式があるので、制服で葬儀場まで来るようにと、先生から連絡があった。
葬儀場に掲げてある彼女の遺影を見て、初めて、彼女が死んだと理解した。とめどなく涙が溢れてきて、仲の良かった友達同士、抱き合って、号泣した。
次の日、彼女の机に花が手向けられた。映画やドラマでよく見る奴だ。ホントにやるんだなと思った。ぽっかりと穴の開いたような気分だ。自転車で走っていると、ふと、隣に並んで「おはよう」って声を掛けてくれそうな気がする。
クリスマスが近づいてきた頃、VTuberに転生したとして活動している『ニュースピリチュアル』の存在を、友達から聞いて知った。彼女がVTuberに転生していたら、話ができるだろうか。あたしは、水色あさがおのゲーム配信を見た。
その娘は、声も、話し方も、彼女そっくりで、配信を観ていると、彼女と会話しているような温かい感じがする。コメントして、それを拾ってくれるとすごく嬉しい。コメントに対する反応も、彼女そっくり。ホントに、彼女が転生したんじゃないんかな。
SNSのIDは、まだ消えていない。あたしは、冗談半分で、
「水色あさがおがんばって」と送った。
転生してから放置していたSNSに、新着があった。差出人は、高校時代のクラスメイトであり、友達の優だ。懐かしさと嬉しさのあまり、思わず返事をしてしまった。返事をしてから気が付いた。そういえばあたし、死んでるんだよね。でも、現実の世界とやりとりしちゃいけないなんて決まりないし、だいじょうぶだよね。
「小林優さんはじめまして」
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