#22 春花、身バレする

 春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきは、作画配信を積極的にやっていた。筆の速さから、『速い』『もはや商業レベル』『某漫画家見習え』など、称賛されていた。配信2時間で、キャラ一人分を描き上げる手早さと、リアルより、可愛い寄りタッチが、視聴者にうけている。


 知名度が広がると、自然、中の人探しが始まる。あのサークルの作者に似てるとか、このサークルの作者に似ているとか。作品の画像をアップして、比べ検証する者も現れはじめ、とうとう、真実にたどり着いた者がいた。




 サークル名『たにくしょくぶつ』といい、『こぴあぽあ』や、『黒王丸』、『アロエ』などといった同人誌を販売していた、壁サークル。




 作者の名は『ssawサワ』。ssawは、『Spring』『Summer』『Autumn』『Winter』の頭文字から名付けたと、本人が言っていた。春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきの名付け方と共通する。事実、先に開催されたコミケで発売された新刊に、ssawの未完成原稿が、そのまま掲載されていた。


 配信中にそれを指摘されても、当の本人は、当然、否定する。しかし、それがサークル仲間の、とげ蔵の目に留まった。




 とげ蔵は回顧する。彼女の屍を見た時のことを。




 あれは、夏コミで売る同人誌の締め切り間際だった。毎日、取り合っていた連絡が、突然、途切れた。LINEにも、メールにも、電話にも出ない。おかしい。私は警察に通報して、管理人に鍵を開けてもらい、中に入った。猛烈な腐臭が鼻を突いた。そこにいたのは、タブレットに突っ伏して死んでいた、ssawだった。




 風の噂で春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきというVTuberが、転生したという設定で、活動していると、耳にした。


 なんとなく、その配信を見た。観ながら確信した。これはssawだと。アバターは変えているけど、声と話し方はそのまま。筆のタッチもそのまま。中学生の時、BLで意気投合し、お互いに絵を描いて、見せ合い、意見を交換する。時に優しく、時に厳しく。喧嘩もしたね。


 涙が溢れ出てきた。モニターを抱えて嗚咽したが、とても嬉しかった。ssawが生きている。会える。話せる。この世界で。




 春花は、次の配信で何をしようか考えながら、Xのポストを眺めていた。そのとき、懐かしいアカウントが目に飛び込んできた。


 とげ蔵『ファンになりました』


 とげ蔵だ。中学の頃から一緒に漫画を描いてきた、親友。




 バレた? ごまかした方が良いのか? どうする? 全身から冷や汗が流れる。




 とげ蔵は、それ以上、ポストしない。バレてない? そもそも、バレたからといって、なにか問題でもあるの? ペナルティはないの? あったとして、それはなに? そもそも、あたしをサイバー空間に閉じ込めておいて、本当に死にたくなければVTuberをやれって、あんた、何様?




 汗に変わって、大量の涙が溢れ出でてきた。止めどない慟哭。号泣。会いたかったよ。とげ蔵。

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