#21 転生なんてフィクションだ
「ふたりは、どうして死んだんですか?」
その時、ふたりの表情が凍りついた。
「PIRちゃん、ちょっとふたりだけでお話ししようか」
「はい」
ふたりは別の空間へ消えて行った。
デフォルトの空間に着地し、険しい表情で、さくまどろっぷは言った。
「死因については、非常にデリケートな問題だから、安易に訊かないでね」
「そうなんですか?」
「そうなんですかってあなた」
「他の方は答えくださいました」
「みんなに訊いて回ったの?」
「はい」
「飽きれた…」
眉間に皺をよせ、頭を抱えた。
「死因は極めて重要な個人情報よ。今後、訊いて回るようなことはしないで」
「はい。わかりました」
「特に、ピンクちゃんは不幸な死に方をしたわ。彼女の前で、死はもとより、暴力的な発言にも気を付けて」
「はい。わかりました」
口では納得したようだが、いつも通り済んだ表情で、本当に理解したのか、だいじょうぶだろうか。
「他に訊きたいことはある?」
「みなさん、いつ、アクセスしているんですか?」
「アクセス?」
「外から入ることです」
「あのね、私たちは、このサーバー空間に転生したの。外から入るどころか、外へ出ることもできないわ。あなたもそうなんじゃないの?」
「そうでした」
「それとも、あなたは外から入ってきた、一般的なVTuber?」
「不躾な質問の数々、大変失礼しまし。これで、失礼します」
PIRは、消えて行った。
「私の質問に答えてないけど」
PIRは、四面のモニターのひとつに映っている。
「報告は、以上です」
「外から入っていない、というのは、本当か」
「はい。実際、どの時間に会いに行っても、必ずサーバー内にいます」
「AIか?」
「わかりません」
「制作者は?」
「わかりません」
「トラフィックは追ったか?」
「はい」
「どう思う?」
「わかりません」
「あいつらが転生者だと思うか?」
「わかりません。ただ…」
「ただ?」
「親しみやすい方達だと思いました」
「思いました?」
「はい」
信じられない。自己学習AIとはいえ、感情をあらわにしたのは初めてだ。
「わかった。引き続きあいつらの動向を追え」
「わかりました」
あいつらは本当に転生したのか? まさか、そんなのはフィクションの世界だけだ。仮に、転生したとしたら、現実の世界に生活していた痕跡があるはずだ。しかし、その跡を追うことは不可能に近い。日本だけで、年間150万人以上が亡くなっている。
それよりも、AIだと考えた方が簡単だ。どこかの企業か、大学か、研究機関か、わからないが、既知の能力を超えたAIのテストプレイをしている。
どこの誰だ? 死を冒涜しているのは。
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