#20 PIRは全てを知りたい

 PIR誕生秘話。




 鮮やかに輝くゲーミングPC、キーボード、マウスの前に、ひとりの男がいた。4面のモニターで、PIRをモデリングして作り上げた。頭脳には生成AIを組み込み、自己学習しながら、サイバー空間内で、自由に行動できるようにした。最初に、自称転生者が集まっているという、ニュースピリチュアルのサーバーに放り込んだ。


 彼は、ニュースピリチュアルのメンバーが、本物の転生者とは信じていない。転生者を騙った実在の人物が、中の人を演じている。あるいは、どっかの誰かがアバターをAIで動かしている。いずれかだ。


 自分が作ったAIを投入すれば、正体が明らかになるかも知れない。死人を語る不徳な者達の正体を。愛する人。家族。友人。職場や学校で目を合わせ言葉を交わしていた人たち。残され哀しみにくれた者達の感情。利用する奴らの正体を暴いてやる。




 マップのデバッグも済んで、そこそこ遊べるゲームなった。しかし、毎回、同じマップでは芸がない。新しいマップでも造るかなあ。


 春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきがひとり、自室で思量にふけていると、突然、PIRピアが現れた。


「こんばんは」

「こんばんは。どうしたの? 突然」

春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきさんに、訊きたいことがあって来ました」

「春花でいいよ。訊きたいことってなに?」

「春花さんは、どうして死んだんですか?」

「直球だねぇ」


 彼女の目はまっすぐ、あたしを見つめている。そこに、含みを感じない。


「あたしが同人作家だったってことは知ってる?」

「いえ。今、初めて聞きました」

「夏コミに向けて原稿描いててね、さすがに詰め込み過ぎだったと思う。4~5日ぐらい寝ないで描き続けたかな。気がついたらこの世界にいた。過労死だね」

「生前に親しかった人たちと、会いたいと思いませんか?」

「思うよ」

「SNSやメールアドレスは、今でも使えます。連絡を取ろうと思えば、取れます。何故、連絡しないのですか?」

「あたしは、死んだことになってるんだよ。死亡届も出されたし、葬式も出した。今さらVTuberに転生しました~、なんて言える訳ないじゃん」

「どうして言えないんですか?」

「死んだ人が、実は生きていたなんて、悪い冗談だよ」

「VTuberに転生したと言えばいいじゃないですか」

「転生なんていうのはね、所詮、フィクションだからさ。転生した先のことも、残された家族のことも、現実として受け止める人はいないね」

「そうなんですか?」

「そういうモノなんだよ」


 少し、考えて。


「他の方も、そうなんでしょうか?」

「どうだろう」

「わかりました。どうもありがとうございました」


 PIRはそう言うと、消えて行った。


「なんだったんだろ」




 PIRは、たこさんウィンナーの部屋にやって来た。

「たこさんウィンナーさんは、どうして死んだんですか?」

「なんだよ、藪から棒に」

「後学のために、教えていただきたく思ったので」

「俺が死んだ原因が、後学になるかどうか知らないけど、要するに、ブラック企業でこき使われて、生きる気力を失って、自殺した。そんな感じだ」

「自殺だったんですね」

「まさか、VTubrに転生するとは思わなかったけどな」

「生前、親交のあった友人やご家族と、連絡を取りたいと思ったことはありませんか?」

「ないな」

「やろうと思えば、できますよね」

「俺は人間に失望したんだ。未練はない」

「そうですか。ありがとうございました」


 そう言うと、PIRは消えて行った。


「なんだったんだ」




 PIRは、可愛美麗の部屋にやって来た。

「可愛美麗さんは、どうして死んだんですか?」

「手術の失敗」

「どのような手術だったんですか?」

「生まれつき、性同一性障害でね。性転換手術を受けたんだけど、うまくいかなかったみたい」

「生前、親交のあった友人やご家族と、連絡を取りたいと思ったことはありませんか?」

「う~ん。どうだろう。このこともあって、友達らしい友達はいなかったし、家族ともギクシャクしてたし。今、連絡を取ろうとは思わないかな」

「そうですか。ありがとうございました」


 そう言うと、PIRは消えて行った。


「なんだったんだろう」




 PIRは、水色あさがおの部屋にやって来た。

「水色あさがおさんは、どうして死んだんですか?」

「え!? なに、急に」

「興味があります」

「配信でも言ったけど、交通事故だね」

「生前、親交のあった友人やご家族と、連絡を取りたいと思ったことはありませんか?」

「思う思う。友達とかお母さんとかお父さんとか」

「やろうと思えば、できますよね」

「やろうと思ったこともあったけどさ、実際になにを話していいか、わからないんだ。あたしは死んだことになってるし」

「確認する方法はあると思います。お互いでしか知り得ない情報を確認し合うのです」

「そうだね。でも、今はいいかな」

「どうしてですか?」

「悲しいから」

「そうですか。ありがとうございました」


 そう言うと、PIRは消えて行った。


「思い出しちゃったよ。」

 あさがおは、ぽろぽろと涙をこぼした。




 PIRは、さくまどろっぷの部屋にやって来た。ピュアウイッチ・ピンクも一緒に住んでいる。

「ふたりは、どうして死んだんですか?」


 その時、ふたりの表情が凍りついた。

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