#17 ゲームはしっかりデバッグをしましょう

 スタートと同時に飛び出したのは、速さに磨きをかけた、ピュアウイッチ・ピンク。一直線で岩山の頂上に到着すると、祠の扉を開に手をかける。


 『パスワードを入力してください』


「なにこれ。こんなの今までなかった」


 『パスワードは、マップ内にヒントがあります。探してみましょう。ヒント:木と水と砂と岩』


「なにこれ?」



 ふふふ。ピンクちゃん。あなたがいの一番でそこへ飛ぶことはわかっていたから、細工をした。パスワードは、このマップのどこかにある。さあ、探すがいい。




 魔法使いのふたりは、森の中を歩き回る。


「手がかりっていっても」

「なんだかわからないよね」

「見てあれ!」


 そこには、木からぶら下がっているパネルがある。


「『ゆ』って書いてある」

「なんだろう」

「これがヒントなんじゃない」

「メモしておこうか」




 その頃、ピュアウイッチ・ブルーは海岸線を飛んでいた。

「ヒントを隠すなら、今までのプレイで、あまり行かなかったところと考えるのが定石ね」


 さっそく、砂浜に文字の書かれたパネルが立てられるのを発見した。

「『れ』? どういう意味だろう。この辺になにかあるのかしら」




 春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきは、岩山の周りを飛んでいた。

「森の裏側。切り立った岸壁なんか、実に隠しそうだよねえ。なんか変わったところは、と」

 その時、岩山に文字の書かれたパネルを発見した。

「『い』? なんだろう」




 岩山の頂上で途方に暮れているピンクは、周りを見回した。ふと、目の端になにかが映った。海の遠くに、なにかがある。ピンクはそこへ向かって飛んだ。


 そこには、漫画に出てくるような、ヤシの木が一本だけ生えた、小さな島があった。ヤシの木に、『う』と書かれたパネルが貼ってある。


「なんだこれ」


 近づこうとすると、足元がパカっと開いた。下へ降りる階段がある。その奥は薄暗い。ピンクは、恐る恐る、階段を降りて行った。




 森の中を歩いていた、魔法使い二人組。森を抜けると、沢に出た。沢の中は、魚が泳いでいる。


「こんなの、あったっけ?」

「なかったね」


 沢は、岩山から海へ向かって流れている。

「上流と下流に分かれようか」

「あたしが上流へ行くから、あさがおちゃんは下流へ行って」

「了解であります」


 可愛美麗は上流へ、水色あさがおは下流へ向かって、沢沿いを歩いて行った。




 ちょうどその頃、沢の上流にある滝に、春花がいた。

「こういうのって、滝の裏側に隠れた洞窟があるのがセオリー」

 春花が滝の中に入って行った。




 しばらくして、その滝に美麗がやってきた。

「滝…。こういうのって、滝の裏に入り口があるのが、セオリーだよね」

 美麗は、一気に中へ飛び込んだ。



 滝の裏は、案の定、洞窟の入り口があった。


「やっぱり」

 美麗が歩みを進めた途端、入り口に岩が落ちて閉じ込められてしまった。

「マジ!?」


 春花の声が、洞窟の中で響いてくる。

「奥に祠があったわ」

「ホントに!?」

「行ってみればいいと思うよ」

「ありがとう」


 洞窟の奥へ歩みを進める。そこに、祠があり、中に、神器があった。

「やった」

 ふと、疑問に思った。春花は何故、これを持って帰らなかったのだろう。


 答えは、神器を手にしたときにわかった。入り口の方から、岩の動く音が響く。慌てて戻るが、入り口は岩によって硬く閉じられている。

「え!? どういうこと?」

 美麗は祠に戻って、神器を元に戻すと、岩の戸が開いた。

「これってつまり、どうやったらこの神器を取れるの~!」



 滝の前に春花がいた。

「なるほど。ひとり入ると、ひとりはじき出されるダンジョンって訳ね。でも、神器を持ち上げたら扉が閉まる。これって無理ゲーじゃね?」




 砂浜を歩いていた、ピュアウイッチ・ブルー。遠くに海へ注ぐ川が見える。

「あんなのあったかしら」


 河口に近づいた瞬間、落とし穴に落ちた。頭だけはかろうじて外に出ている。もがいても出ることができない。

「さて、困ったわね」




 海の孤島にあった洞窟の中を進むピュアウイッチ・ピンク。その先に、祠があった。扉を開けると、神器がある。恐る恐る手にする。

「やった!」




 あさがおは、河口のそばの砂に、頭だけ出している、ブルーに気が付いた。

「どうしたんですか?」

「落とし穴にはまったわ」



 あさがおは砂を掘って、ブルーを助ける。

「これはとんだクソげーね」




 全員が、スタート地点に集められた。皆、たこさんウィンナーに詰め寄る。

「ゲームが進まないバグがある」

「はっきり言って、クソげーね」

「いやいや、だからテストプレイだって」

「直して!」




 神器を手にしたピュアウイッチ・ピンクだけが、満足気だった。

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