#13 転生するのにトラックばかり悪者はおかしい

水色あさがお●ライブ


 待ち受け画面が映っているが、ライバーの顔は見えない。


 『ニュースピの新人?』

 『新人らしい』

 『美麗が言ってた』

 『立ち絵JKだが』

 『JKワクワク』

 『実はおっさんのボイチェン』

 『実はニート』

 『実はおばさん』




 待ち受け画面が終わり、植木鉢が映る。じょうろで水をかけると、双葉が芽を出し、つるを伸ばして葉を茂らせ、つぼみができる。つぼみがゆっくりと開くと、水色のあさがおが花弁を広げる。


 花に朝陽が降り注ぐと、ひとりの女の子に変身する。


「みなさん、はじめまして。ニュースピリチュアル所属の新人。水色あさがおです! よろしくお願いします!」


 『よろしく~』

 『よろしく』

 『はじめまして』


「自己紹介します。東京の女子高に通う、17歳です。身長158センチ。体重56キロ。サイズは上から、86、60、88です」


 『ナイスバディ』

 『でかい』

 『ほど良い大きさです』


「つい最近、事故で、死んじゃったんですが、VTuberに転生しました」


 『なんだって!?』

 『またトラックのせいか』

 『トラック最低だな』


「いや~。今回はあたしが悪いみたいです。自転車で飛び出しちゃったんですよね」


 『それは痛い』

 『一時停止無視』


「車にはねられた瞬間、スローモーションで周りの風景が見えたんです。すっごい不思議な感じでした」


 『臨死体験か』

 『スローモーションになるのか』

 『よく聞くな』


「気が付いたら、ここにいたんだよね」




 水色あさがお。


 都内に住み、自転車通学する、高校二年生。17歳。現役女子高生だ。


 家族の下に、学校から事故の報が届いたのは、昼過ぎだった。所有していたスマフォは壊れていて、動かなかったため、警察は、生徒手帳の学校へ連絡した。事故の知らせは担任から、母親へ伝えられ、父親や、大学生の姉へ伝えられた。


 収容されている病院へ行ったときには、既に、霊安室で冷たくなっていた。母と姉は、冷たくなった彼女に抱きついて、号泣した。

「こんなに血だらけになって。痛かっただろうに」

「もっと仲良くしたかった。ごめんね」




 彼女の通っていた教室の、彼女の机には花が手向けられた。仲の良かった娘は泣き、担任は目頭を赤く腫らした。




 事故の一部始終は、彼女を跳ねた車のドライブレコーダーに記録されていた。

 車は、法定速度を大幅に上回る速度で走っていた。狭路から彼女が飛び出して、衝突してからブレーキを踏んだ。一時停止を無視して、道路に飛び出した彼女にも過失はあったが、彼女の直接の死因は、車のスピード超過。運転手は、業務上過失致死で逮捕された。


 運転手は、法的に裁かれるが、彼女が帰って来ることはない。




「あたしと同じ、転生した人達がVTuberしてるって聞いて、観たんですよ。なんか、海水浴とか、夏祭りとか、楽しいことやってたじゃないですか。あたしも参加したかったって言ったら、春花さんがニュースピリチュアルに誘ってくださいました」


 『あさがおちゃんの水着姿見たかったな』

 『浴衣姿もな』


「あたしもなんかやりたい! なんかありませんか」


 『ゲーム』

 『ゲームかな』


「ゲームはみんなやってるじゃないですか。もっとこの世界じゃなきゃで出来ないような事がしたいです」


 『メタバースならなんでもあり』

 『宇宙遊泳とか』

 『空中戦とか』

 『重力無視できるの?』




 それを見ていた、春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきは思った。


 そうか、ここはサイバー空間。海や花火を造れたように、具体的な想像が出来れば、実現できる。もしかしたら、空を飛ぶこともできるんじゃない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る