#08 魔法使い ピュアウイッチ・ピンク 爆誕
「新しく転生してきた子か」
「七歳だそうです」
「小学一年ですね」
「置かれた状況を理解できていないのね」
「24時間以内に、彼女自身の意思で転生するかしないか、選択しないと、彼女は消えてしまいます
「それまでに、元気を取り戻してくれないとならないのね」
「あたしの推測なんですが、あの子、虐待にあっていたみたいです」
三人は、改めて彼女を見る。
「どうやら、そうみたいね」
さくまどろっぷは、その子の隣に、静かに座り、肩越しに、静かに語りかける。
「こんにちは」
「…」
「私の名前は、さくまどろっぷ。あなたのお名前教えて」
「…」
タコさんウインナーが、ぴょんぴょんと跳んで、彼女が落とす目線の先に躍り出る。
「こんにちは」
「変なの」
おっ! しゃべった。
「タコさんウインナーがしゃべってる」
「俺は火星人だからね~」
「火星人がなんでウインナーなの?」
「美味しそうだろ。食べてみるか?」
「ヤダ。お腹壊しそう」
その時、女の子のお腹が、ぎゅ~と鳴った。女の子は、顔を赤らめる。
「お腹減った?」
「…」
「私がなにかご馳走しよう」
ヴォン!
全員が、さくまどろっぷの部屋に着地する。
「ちょっと待っててね」
女の子の手を離そうとしたとき、ギュッと握りかえす。
「あたしが行きます」
可愛美麗はキッチンへ行き、トレイに甘い湯気の立つカップを載せて、戻ってくる。
「はい。熱いから、フーフーして飲んでね」
女の子はカップを手にし、フーフーと息を吹きかけ、ホットココアをズズっと飲む。最初は、少しずつ。冷めてくると、一気に飲み干す。
「美味しかった?」
「うん」
「おかわりいる?」
「うん」
再び、可愛がキッチンへ行く。
「ねえ?」
「なに?」
「ママとパパ、逮捕されちゃう?」
四人はドキッとする。
曖昧な答えはできない。それは彼女を傷つける。正確なことは言えない。それは彼女をひとりぼっちにしてしまう。話をそらすのが得策。
「あたし、魔法使いなんだよ。今からあなたに、魔法をかけるから」
春花は、新しいアバターをイメージしながら、彼女に手をかざす。
「痛いの痛いの飛んでいけ~!」
身体中にあった痣や怪我が、みるみる綺麗に消えて、女の子は目を丸くする。
「魔法使いは好き?」
「大好き」
「それじゃあ、魔法使いに変身だ」
ピンクのスカートに、ピンクのジャケット。靴に、腰にピンクのリボン。赤いランドセルは、マントに変わり、黄色い通学帽は髪を束ねるシュシュに変わる。ぱさぱさの黒髪はピンクに染まり、光沢のあるストレートに変わる。
「魔法少女に大変身だ! どうかな? 魔法少女さん」
「可愛い」
「今日からあなたは、『ピュアウイッチ・ピンク』よ」
「ピュアウイッチ・ピンク…」
「ピュアは純粋。ウイッチは魔法。ピンクはあなたのキャラクターカラーね」
「…」
「名前、気に入らなかった?」
彼女は、首をフルフル大きく、左右に振った。
ニコニコしていた笑顔から、突然、大粒の涙が流れ落ちてきて、口からは慟哭が轟いた。
さくまどろっぷが彼女を抱きしめると、女の子も、さくまどろっぷをギュッと抱きしめた。
張り詰めていた気持ちが、一気に弾けたのだろう。ここは、さくまどろっぷさんにおまかせだ。メンバーはその場から消えていった。
翌日、さくまどろっぷさんから、彼女がVTuberとして転生することを選んだと知らされた。さくまどろっぷさんと一緒に暮らしながら、精神的に落ち着くのを待とう。いつか、VTuberデビューしてくれたら嬉しいな。
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