#06 箱の名前はニュースピリチュアル

 たこさんウィンナー。




 子供の頃からおとなしい性格で、小学校から高校まで、典型的ないじめられっ子だった。家庭でも両親の仲は最悪で、人間不信と捻くれた性格はこの頃に完成されたのだろう。


 高校卒業後は、バブルの時代にあっても、数多の会社に落ち、やっと滑り込めた会社でプログラマーになったが、下請けの孫請け。そんな会社でバブルの恩恵にあずかることはなかった。


 バブルが弾け、社会のヒエラルキー最底辺の会社に、派遣で働くという薄給の日々を過ごし、趣味という趣味は特になく、ネットの世界を荒らすことに生きがいを感じていた。


 何人かの女の子と、付き合ったこともあったが、俺の性格に辟易して、皆、去っていった。


 いつの頃からか、俺の中で、全てがどうでもよくなり、全てがめんどくさくなった。本当に、会社へ行くのも、食事をするのも、風呂に入ることすらめんどくさくなった。生きるためのモチベーションは、親より先立つことほど、不幸なことはないという、誰かの言葉だった。


 気がつけば、51歳。




 人生が、今から劇的に好転する見込みは皆無だ。結婚なんてできないだろう。なんの資格も能力も無い俺に、高収入への転職は無理。年金はあてにならない。ただ、死なないから生きている。そんな先の人生が見えた。


 父が亡くなり。母が亡くなり。数少ない友人は皆、結婚して疎遠になり。死なないから生きているという現実が苦痛となった俺は、呼ばれるように、樹海に入って、縊死いしした。


 なんの悔いもなかったが、何故か俺は、VTuberに転生した。


 転生することを放棄して、そのまま無に帰することも考えたが、サイバー空間から、ヒトの世界を茶化す道化になるのも一興かな、と思った。




 アバターを作る時、人になるのだけは絶対に嫌だった。


 人に嫌悪される存在なら、悪魔でも、モンスターでも、虫でも、なんでも良かったが、既存のVTuberとキャラが被るのは避けたかった。その時の思いつきで火星人になった。火星人ならタコ型がポピュラーだから、いっそ、タコさんウインナーにしてしまえ。さらに、住む場所も火星にしよう。そうやって俺の設定は完成した。



 俺は、あれだけ、しんどかった『生きる』ということを、サイバー空間でリスタートした。




春花夏海秋月冬雪●ライブ


「みなさん。こんばんは。今日は、重大な発表があります」


 『結婚?』

 『結婚か』

 『実は既に結婚していた』

 『実は子供がいます』


「あたしと同じく、VTuberに転生した方々と、ユニットを立ち上げます! さっそく仲間を紹介しましょう! 日替わり衣装はどうやってるんでしょう。毎回、外注してるの? 顔も声も性格も可愛い、可愛美麗ちゃんです」


「どうも、こんにちは~。可愛美麗です。日替わり衣装は、毎回、あたしが考えて、作ってます」

「いっぱい、持ってますよね」

「いっぱい作ってます」

「作った服やアクセサリーはどこに保管してるんですか?」

「一部屋を丸ごと、クローゼットにしてます」

「こんど、貸してください」

「よろこんで」



「次は、幼く可愛い外見とは裏腹に、意外と毒舌。話のネタが古い、ロリババア。さくまどろっぷさんです!」

「麻雀大好き。腹黒ロリババア、さくまどろっぷです」

「自分から言った」

「目標は、VTuber麻雀大会に出場して、メンバーを丸裸にして尻の毛までむしり取ることです」

「ネットゲームですから」

「ちょっとぐらい握っても良いでしょう」

「ダメです」



「そして次は、自称火星人。たこさんウィンナーさん!」

「自称じゃなくて、本物の火星人な。みかん星人じゃないぞ」

「みかん星人ってなんですか?」

「昔、ウゴウゴルーガってテレビ番組があってだな」



「そしてあたし、春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきです」

「長いよ」

「何て呼べばいいの?」

「なんとでも呼んでください」

「春花?」

「夏海ちゃん?」

「秋月冬雪ってモト冬樹に似てね?」



「そして! 肝心のユニット名は『ニュースピリチュアル』です! 転生したあたしたちにぴったりのユニット名ですね。応援、よろしくお願いします!」

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