#05 火星人はタコ、お弁当のおかずはウインナー

 ヴォン!




 春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきは、赤茶けた土の上に、砂煙をあげて着地する。見渡す限り、黄褐色の砂と岩山ばかりで、植物はおろか、生き物の気配さえない。空は茶色くかすみ、太陽が小さく輝いている。




「なんか、見たことがあるような、ないような風景」


 その時、足の下がモゴモゴと動く。


「ん?」


 足を上げると、赤いタコさんウインナーを踏んでいた。


「なにこれ!?」


 タコさんウインナーは、ぴょんと立ち、怒りを爆発させる。


「いきなり現れたと思ったら、いきなり踏んずけやがって!」

「ごめんなさい」


 見た目、お弁当に入っている、タコさんウインナーなんだけど。大きさもリアル。


「はじめまして。数日前からVTuberとして活動させていただいてます、春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきと申します。あたしと同じく、転生された方と聞いて、ご挨拶に伺いました」


「はるか…、なんだって?」

春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきです」

「ながいな」

「あたしの好きな、春夏秋冬から名付けました」

「俺は、見たまんま。たこさんウィンナーだ」

「たこさんウィンナーさんは、どのくらい活動なさっているんですか?」

「一週間ぐらいだな」

「さくまどろっぷさんと同じぐらいですね」


「ところでよ、俺様が見上げてると疲れるから、おまえ座れ」

「はい」


 しゃがんでも、高さはさほど縮まらない。

「しょうがねぇな。俺が岩の上に昇ってやる」


 ぴょんぴょんと段差を飛び跳ねて、春花と同じ目線の高さまで昇る。


「こうやってみると、なかなかべっぴんじゃねぇか」

「べっぴんってなんですか?」

「可愛いって意味だよ」

「ありがとうございます」




「ところで、どうしてたこさんウィンナーさんは、たこさんウィンナーをアバターにしたんですか?」

「転生した時に、人非ざるモノになりたかったんだよ」

「それで、火星人ですか」

「火星人っていったらタコだろ」

「そうなんですか?」

「昔のSF小説や映画じゃ、そういう風に描かれてたんだよ」

「へー、そうなんですか。で、なんでウインナー?」

「お弁当っていったら、のり弁に卵焼きとタコさんウインナーっていうのが定番だろ」

「火星にタコ。タコはウインナーと。大きさも忠実ですね」

「4.3センチな」

「身体に、おこげがあるのもリアルで良いと思います」

「おお! わかってるじゃねえか」


「今回は、なにようだ?」

「ひとりぼっちでさみしかったので、話し相手になってください」

「なんの話する。察するに、かなり世代差がありそうだぞ」

「たこさんウィンナーさんは、生前は、なにをされていたんですか?」

「SEだな」

「システムエンジニアですね」

「そういうおまえは、なにやってたんだ」

「同人漫画を描いてました」

「コミケか」

「そうですね」

「儲かってたか?」

「同世代の派遣社員よりは稼いでたと思います」

「ちゃんと税金払ってたか?」

「年金も払ってましたよ」




「他に転生したVTuberはいないんですかね」

「どうだろうな」


 『 現在までは、4名です 』


「意外と少ないですね」

「100人ぐらいいたら、事務所立ち上げられるな」

「それですよ! 事務所作りましょう。個人勢って、なかなか人気、出ないじゃないですか。ホロライブや、にじさんじみたいに箱推ししてもらうんです」

「それにしても、もうちょっと人数が必要だな」

「そうですかねぇ」

「まあ、アイデアは悪くない。事務所立ち上げるなら、参加するぜ」

「やった! たこさんウィンナーさん、ありがとうございます」




「じゃあな」

「さようならタコさんウインナー」




 ヴォン!




 春花は、モザイクになって空中へ消えて行った。

 その姿を見送って、火星人は思う。

「転生者、集めて、事務所立ち上げか。さて、どうなることやら」

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