#03 彼女はVTuberになって理想の身体を手に入れた
可愛美麗。
彼女。
元・彼は、幼い時から自分の身体と心の性の違いに違和感を覚えていた。
子供の頃は、男児向け戦闘特撮番組より、女児向けアニメが好きだったし、実際、親にねだって無理やり魔法少女の衣装を買ってもらって、それを着て喜んでいた。カッコ良いモノより、可愛いモノが好きだった。
それを自覚したのは、中学の時。水泳の授業だった。上半身裸の、男性用水着を着た時、好きな男子に見られたのが、恥ずかしくてたまらなかった。
膨らんでゆく女性の胸に、強いあこがれをもつのと同時に、日々、成長してゆく男性器が、気持ち悪くて仕方がなかった。
中学を卒業する時。親に打ち明けた。
親は、うすうす気が付いていたようで、強く攻めらる事もなければ、積極的に肯定してくれるわけでもなかった。それからは、腫れ物にでも触るかのような扱いで、家族とはほとんど話さなくなった。
高校卒業後はアルバイトをして、二十歳になってから、ホストクラブで働くようになった。性転換手術の費用を稼ぐためだ。
24歳の時、海外で性転換手術を受けた。どんな手術でもそうだが、失敗することはある。彼は手術中に死亡した。
心身とも女性になれると、勇んで挑んだ末の出来事だった。
彼の死は家族に報告された。その時、初めて、家族は深い悲しみに落ちた。なぜ、もっと優しく接してあげられなかったのか。なぜ、もっと理解してあげられなかったのか。なぜ、もっと話さなかったのか。
可愛美麗もまた、VTuberとして活動してゆく道を選んだ。生まれて初めて、心身ともに手に入れた、女性らしさ。それを人に見てもらうため。そして、いつか家族に、自分はここで生きていますと、知らせるために。
「配信を始めてどのくらいですか?」
「一週間ぐらいですね」
「あたしはまだ数日です。転生したのもその頃ですか?」
「はい。そうです」
「それじゃあ、先輩ですね」
ふたりはクスリと笑った。
「チャンネル登録者数は?」
「3000ぐらいです」
「私より多いです。うらやましい」
「デビューしたての個人勢なら、これくらいじゃないですかね」
「そうなんですか? VTuberにあまり詳しくなくて」
「あたしもです」
「美麗さんは生前、なにをしてたんですか?」
「ホストです」
「へー、ホストですか。って、あれ?」
「ふふふふ。疑問に思いますよね」
「はい」
「生前、あたしは男だったんです」
「そうなんですか」
「春花さんは、なにをされていたんですか?」
「あたしは、同人漫画描いていました」
「大手サークルですか?」
「有志五人でやってました。大手ではないけど、壁でしたね」
「商業には描かなかったんですか?」
「同人誌で好き勝手描いているのが、楽しかったですね」
「読んでみたいな」
「機会があったら、是非」
「楽しみにしています」
「それにしても、美麗さんスタイル良いですね。美人だし。服装も綺麗」
「転生した時に、変身しました」
「部屋も美麗さんがデザインしたんですか?」
「はい」
「あたしなんか、白いままです」
「ここはサイバー空間。あたしたちの思考と直結してるんです。考えたことは、だいたい実現可能です」
「そうなんだ。帰ったらさっそく、部屋を造ってみます」
「なんか、随分と長話しちゃった」
「楽しかったです」
「また、おじゃましても良いですか?」
「もちろん。大歓迎です」
「一旦、帰ります」
「さようなら」
楽しかったなあ。ひさしぶりに人と話せて。そういえば、他にも転生した人っているのかな。
「美麗さんの他にも、転生した人っているの?」
『 います 』
「会いたい!」
『 先方に都合を訊いてきます 』
「よろしく」
どんな人だろう。
しばらくしてモニターに表示される。
『 会ってもいいそうです 』
やった!
「さっそく、お願い」
ヴォン!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます