#02 現在過去未来でかぶらないVTuber名を考えた結果

春花夏海秋月冬雪●ライブ


「みなさん初めまして! 同人漫画家、春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきです。よろしくお願いします」


 『はじめまして~』

 『漫画家?』

 『読みにくい名前だな』


「読みにくくてごめんなさい。あたしの好きな春夏秋冬を名前にしました」


 『見た目は良い』

 『だが読みにくい』


「同人誌で漫画描いてたんですが、自分のキャラクターを動かしたくなって、VTuberデビューしました」


 『有名サークル?』

 『サークル名教えて』


「それをやると、身バレになるので、できません」


 『アバター自作オリジナルなん?』


「そうです! 可愛いでしょう」


 『かわいい』

 『3D自作ですか?』


「はい。自作です。Live2Dで配信されているVTuberさんがほとんどだと思うんですが、あたしは、この3Dが本体なので、この体で配信します」


 『本体?』

 『本体とは』


「じつはあたし。VTuberに転生したんです」


 『転生おめでとうございます』

 『やっぱりトラックにはねられたんですか』


「あたしの場合は過労死なんですよ」


 『過労死』

 『それはお気の毒に』

 『ご愁傷さまです』


「暗くなるのは嫌なので、明るく元気な転生系VTuberとして頑張っていきます」


 『死んだのにがんばるのか』

 『たいへんだな』

 『死んだんならゆっくりすればいいのに』


「1回死にましたが、転生したんです。今のあたしは、サイバー空間で生きています」




 サイバー空間に転生し、VTuberとして生きてゆくに事を決意した時は、すぐにでも、現実の世界へ連絡をとりたかった。しかし、あたしは既に死亡した。少なくとも、日本という国で生きていた世界では。


 葬式も出され、家族はもちろん、友人知人にまで、あたしの死亡は周知された。そんな時に、あたしのメールアドレスやSNSから連絡が届いたとして、あたしがサイバー空間から送ったものと信じてもらえるだろうか。


 答えは、否。


 誰か、赤の他人が、あたしのパスワードを盗んで、なりすましたと思われるだろう。だからあたしは、VTuberとしてデビューし、自分の存在を、改めて世に知らしめる方法を選んだ。




 VTuberの活動は、他のVTuberに倣ってゲーム配信を始めた。今まで、ゲームはほとんどしたことなかったが、始めてみれば、けっこう楽しい。


 一番の問題は、サイバー空間にひとりぼっちであること。配信で、コメントを見ることはあっても、人と声を出して話すことがない。孤独だ。




 話し相手が欲しい。




「ねえ、あたし以外に転生した人っていないの?」



 空間のモニターに表示される。


 『 います 』


「いるの!? 会いたい」


 『 相手側にその意思があるか、否かによります 』


「訊いてきてくれない?」


 『 しばらくお待ちください 』




 あたしと同じ転生者がいるんだ。どんな人だろう。会ってくれるかな? 会って話したいなあ。




 しばらくして、モニターに表示される。


 『 会っても良いそうです 』


「やった! でも、どうやって会おう」


 『 あなたを相手のサーバーへ転送します 』


「そんなことできるんだ。まあ、ここはサイバー空間だし。当然か。お願い」




 ヴォン!




 彼女は相手先へ転送された。




 転送先は、女の子が一人暮らししているマンションの一室。ベッドやカーテン、インテリアなど、そこかしこに品の良い女性らしさを感じる。



「いらっしゃい」


 涼やかな女性の声がする。


「どうも、はじめまして」

「はじめまして」

「あたしは、春花はるか夏海なつみ秋月あきつき冬雪ふゆきといいます」

可愛かわい 美鈴みれいです」

「突然、おじゃましちゃってすいません」

「いえ。私も人と話したかったから」


 ニコリと微笑む。美人だ。


 小顔に細いツリ目。左目に泣き黒子。黒髪のロング。なで肩に細い腕、腰、足。大きすぎない美乳。スカートから見える黒ニーソ。ミュール。背は、私より低いが、頭のてっぺんからつま先まで、隙のない正当派美女だ。



「お綺麗ですね」

「そんなことないです」

「転生してから、どんな活動してますか?」

「ゲーム配信ですね」

「そうですよね。他に思いつかないし」

「ネタ探しに苦労してます」

「あたしもです!」


 ひさしぶりに人と話してる。



 幸せ!

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