第24話「お父さんは悪役」

「ごめんなククース。父さんこの後仕事あるから先に帰ってくれないか?」


 私が街で会った托卵の家族のお父さんは、私にお昼ご飯のお弁当を買った後に、慌ただしそうに仕事へ行きました。


 私はしばらくボケーっとしながら彼の背中を目で追っていましたが、よくよく考えると彼の家がどこにあるのかも知らないのに先に帰ってくれなんて無理な話です。


 なので私はお父さんの後について行くことにしました。


 〇


 お父さんがやって来たのはテレビ局でした。


「お嬢ちゃん。ダメだよ許可もなく入ってきちゃ」


「あ、ごめんなさい。私お父さんにお弁当を届けに来たんです。」私はお父さんの方を指さします。


「ん?あー君はガオさんの娘さんか。ならいいよ入っても。」


 私は初めてテレビ局に足を踏み入れました。そして托卵のお父さんが先程入っていった楽屋の前に立ちます。


 そこには


【ヒーロー戦士ガットマン!出演者控え室】


 と書いてありました。


 なるほど。今回のお父さんはこの番組に出ている役者さんだったのですね。意外とすごい人でびっくりしました。


 さすがに中に入っていく勇気もない私は、テレビ局の広い休憩所でお弁当を食べ、お父さんが出てくるのを待ちました。


 そして私は彼の家に一緒に帰りました。


 〇


 翌朝、なにやらリビングが騒がしいなと思って見てみると、そこではお父さんと息子さんとお母さんが一緒にテレビを見ていました。


 息子さんはお父さんの膝の上で「そこだ!」「行けーっ!」と盛り上がっています。


 私は彼らが何を見ているのかとテレビの方へと視線を移すと、そこには男の子が見る番組「ヒーロー戦士ガットマン!」がしていました。そう、昨日見たやつですね。


 テレビ画面にはちょうどガットマンと敵怪人との戦闘シーンが映っていました。なるほど、彼はきっとガットマンのことを応援しているのですね。


 などと思っていると息子さんは


「行けー!ガットマンを倒せ!!」


「え?」


 私は驚きました。なんと息子さんはガットマンの方ではなく、怪人の方を応援しているではないですか。


 しかし彼の応援も虚しく、ガットマンによって敵怪人は倒されてしまいました。


「あー負けたー。ねえお父さん、お父さんはいつになったらガットマンを倒してくれるの?」


「おいおいハヤト。本来倒すのはガットマンじゃなくて敵怪人の方なんだぞ。」


「うふふ。ハヤトったら、お父さんが入ってる敵怪人の方に勝って欲しいのね。」


「うん!だってお父さんは強くてかっこいいんだもん!」


 自分の息子に応援され、お父さんは少々照れている様子でした。なるほど、ハヤトくんはお父さんが敵怪人の役をしていたから、ガットマンを倒せと言っていたのですね。


 なんとも微笑ましい家族団欒ですね。

 まあ私の知ったこっちゃありませんけど。





 【あとがき】

 どこかで聞いたことある話の、托卵の旅々風のアレンジです。最近「知ったこっちゃありません」で締める縛りが難しいと感じてきた(´・ω・`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る